HOME |米国務省「2021年人身売買報告書」で、日本の外国人技能実習制度の「悪用」と、それに対する政府の「対策の不備」指摘。「国際法に沿う包括的な人身売買防止法の制定」を求める(RIEF) |

米国務省「2021年人身売買報告書」で、日本の外国人技能実習制度の「悪用」と、それに対する政府の「対策の不備」指摘。「国際法に沿う包括的な人身売買防止法の制定」を求める(RIEF)

2021-07-03 01:25:08

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 米国務省は1日、世界各国の人身売買に関する2021年報告(2021 Trafficking in Persons Report)を公表した。この中で、日本について、「外国人技能実習制度(TITP)が内外の事業者に悪用され、日本で働く労働移民の強制労働につながっているとの指摘があるのに、政府の対応は効果をあげていない」と指摘した。同制度を悪用した強制労働に対する法執行機関の取り締まりも十分ではなく、政府は児童買春等の被害者へのケアも提供していないと分析。4段階評価で、昨年に続き二番目のランク国に据え置いた。

 

 (写真は報告書から。「技能実習」という名目での強制労働が歯止めなく広がっている)

 

 国務省の評価は、人身売買事件の少なさと、政府の積極的な対策の両面で各国の現状を4段階評価している。最もいい評価(Tier1)の28カ国には、米、英、仏、スウェーデン等。フィリピン、ナミビア等も入る。これらの国は政府の対策を評価した形だ。日本はそれに次ぐ(Tier2)ランク。2018、19年は一時的にTier1に改善したが、その後、20年、21年と2年連続でランクダウンしている。日本の場合、政府の対策の不備が評価低下の理由だ。

 

 ランクは次いで、Tier2の中でも要注意国(Tier2 Watch List)と、ウイグル族に対する強制労働問題が指摘されている中国をはじめ、北朝鮮、ロシア、イラン等17カ国をリストアップした最悪の「Tier3」に分かれる。リビア、ソマリア、イエメンの3か国は「特別ケース」として別掲して監視対象としている。

 

東アジア・太平洋地域での各国評価。緑が「Tier1」、日本は「Tier2」、中国・北朝鮮は「Tier3」
東アジア・太平洋地域での各国評価。緑が「Tier1」、日本は「Tier2」、中国・北朝鮮は「Tier3」

 

 日本はいわば「中くらい」の位置づけだが、政府が設立した外国人技能実習制度(TITP)が外国人労働者の強制労働や人身売買、児童買春等に悪用されていることを、これまでも何度も内外で報告されているにもかかわらず、日本政府は「今回もTITPの人身売買事件や被害者を1件も積極的に特定しなかった」と指摘している。

 

 同制度に対しては、「日本政府と送り出し国との協力の覚書が結ばれている。だが、送り出し国の業者が同制度で日本に働きに行く労働者から過剰な手数料を請求したり、採用担当者や雇用者による虐待的な労働慣行や強制労働犯罪の防止に効果をあげていない。日本政府はそうした犯罪に対して責任を負っていない」と厳しく分析している。

 

 日本の関係機関は、外国労働者の雇用に際して、人身売買等を防ぐには効果の薄い既存の紹介手続きに頼り続け、被害者を保護をしないままにしている、と指摘した。警察等の法執行機関も、児童買春の被害を受けている子どもたちの身元確認等のための対応を十分にとってきていない、としている。

 

 「強制労働や買春等の人身売買犯罪を解決し、同犯罪による被害者を守ろうとする政治的な意思が継続的に欠如していることが、政府の全体的な対策が進展しない原因となっている」と結論づけている。要するに「日本政府はTITP等を悪用した人身売買等の問題を解決する気がないようだ」と見抜かれているわけだ。

 

 報告書はこうした日本の現状分析を踏まえ、日本政府に対して12項目の「優先的勧告」をあげている。主な勧告は、①性的、労働人身売買事件を積極的に調査・起訴し、強い判決を課すことで密売人に責任をとらせる②人身売買防止法を改正し、罰金で済ませる量刑規定を改め、最大4年以上の禁固刑を科す③TITP等で在留する外国人労働者への調査で強制労働被害者を特定し、保護・救済手続きをとる④外国人労働者が雇用と産業を変えることができる正式なチャネルの確立⑤外国人労働者のパスポートや個人文書を雇用者が取り上げることを禁じる法律の制定ーー等。

 

 「日本には、国際法に沿った定義を含む包括的な人身売買防止法が制定されていない」点をあげ、日本が法治国家としての対応をとることを求めている。日本の現状は、法治国家として不備があることを名指して指摘されたことになる。恥ずかしいことだ。

https://www.state.gov/wp-content/uploads/2021/07/TIP_Report_Final_20210701.pdf