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EUサステナブルファイナンス・タクソノミーへの原発・天然ガス盛り込み問題、反対強硬派のオーストリアは国内の原発を稼働前に停止、太陽光発電に転換した筋金入りの「脱原発国」(RIEF)

2022-01-20 15:13:40

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  EUのサステナブルファイナンスのタクソノミーに原発と天然ガスを含めるかどうかの議論が続くが、両事業の除外を求めるオーストリアは、筋金入りの「脱原発国」で知られる。同国は1基の原発を持つ。だがチェルノブイリ事故以前の1978年に国民投票で建設中だった同原発の停止を選択、以後、当該原発は一度も稼働することなく、現在は、一部で太陽光発電が設置されている。

 

 (写真は、一度も稼働することなく停止・廃棄されたオーストリアの原発1号機)

 

 「脱原発」の象徴ともされるオーストリアの「無用の原発」は、ツヴェンテンドルフ(Zwentendorf)原発だ。首都ウィーンから車で1時間ほどのドナウ川沿いにあるツヴェンテンドルフに今も建つ。1972年の4月に建設が開始され、発電量692MWの沸騰水型原子炉として稼働の予定だった。同国で計画された6カ所での原発計画の第一号だ。

 

 しかし、ウィキペディアによると、1978年11月5日に開いた国民投票で、過半数に相当する50.47%が稼働反対を表明。同原発だけでなく、6カ所全体の原発計画を差し止めた。チェルノブイリ原発事故前の国民の判断だった。その判断の正しさはチェルノブイリ事故で立証された。同事故後の1987年には、発電のために原発を活用することを禁じる法律も制定した。

 

 同原発は一度も稼働しないまま封印されたが、2009年、同地で発電が始まった。施設の一部に導入された太陽光発電による発電が始まったためだ。施設は、オーストリアの電力会社EVNグループが保有し、太陽光発電に使うほか、一部で原子力エンジニア向けの国際訓練の場に活用されているという。同国は2030年までに国内のすべての電力を再エネでまかなう目標を立てている。現在、すでに4分の3以上は再エネ電力に切り替わっているという。

 

 現在、欧州委のタクソノミー案をめぐって、反対姿勢を明確にしているのは、同国を含め、ドイツ、ルクセンブルグ、ギリシャ、ポーランド等7カ国程度。EUの規定では、欧州委の提案を阻止するには特定多数決制度で、27加盟国のうち72%(20カ国)の賛同と賛同国の人口が65%以上が必要。欧州議会の場合は過半数の賛同となっている。

 

Leonero氏
オーストリア気候相のLeonore Gewessler氏

 

 欧州理事会の調整では「脱原発・天然ガス」派は劣勢を免れない。だが、オーストリアの気候相の Leonore Gewessler氏は、「二つのエネルギー源はどちらも持続可能でない。したがって、サステナブルファイナンスのタクソノミーに含めるべきではない」との自説を強調、欧州委が原案を修正しない場合は、従来から示している欧州司法裁判所への提訴を実行するとしている。https://rief-jp.org/ct8/121345?ctid=71

 

 欧州委への提訴には、ルクセンブルグも同意しているという。オーストリアはかつて、英国がヒンクリーポイントC原発への補助金を増額した際、EUの政府補助金規定に違反しているとして、実際に欧州司法裁判所に提訴した経験を持つため、「脅し」ではない。原発の使用済み核燃料の最終処分場がEUでも定まらないままの稼働が続いていることに、冷静な司法判断が示されるかどうかが注目される。

                     (藤井良広)