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官邸の「クリーンエネルギー戦略」有識者懇談会、カーボンプライシングが主要課題に。官邸主導で導入の可能性。6月ころに工程表を取りまとめ(RIEF)

2022-01-19 15:41:59

kishida001キャプチャ

 

 政府は18日、首相官邸で脱炭素の取り組みで経済成長をめざす「クリーンエネルギー戦略」に関する有識者懇談会の初会合を開いた。席上、岸田文雄首相は送配電インフラの強化等の投資対象とともに、温室効果ガス排出量に価格を付けるカーボンプライシングについても「方向性を見出してもらいたい」と指示した。カーボンプライシングについては炭素税と排出権取引制度の2方式があるが、どちらも責任官庁である環境省、経済産業省の調整は進んでいない。

 

 有識者懇談会では、両省のほか、3人の有識者が参考資料を提出した。カーボンプライシングについての両省資料は「GX(グリーントランスフォーメーション)に向けて成長に資するカーボンプライシング」(経産省)、 「カーボンプライシングについても、全国の関係者ときめ細かに議論を進め方向性を見いだしていく」(環境省)と、それぞれ簡単に触れているだけ。

 

 民間有識者の伊藤元重東京大学名誉教授の提出資料では「主要な対応策のためのキーワード」として、「 インセンティブ: カーボンプライシング(補助金も含む)」と記している。大塚直早大教授の資料は「 ESGとともに、カーボンプライシング(CP)の導入も考えられる。気候変動対策としては、規制、自主的取 組、経済的手法のベストミックスを狙うことが望まれる」としている。

 

 最も具体的に述べたのは、三菱UFJフィナンシャル・グループ特別顧問(経団連副会長)の平野信行氏。提出資料では「『脱炭素を促す仕組み』としてのカーボンプライシング」として、「脱炭素化の実現には、企業・家計の排出削減、イノベーションとその社会実装の促進、各主体の行動変容がカギを握るが、それを炭素の値付け(見える化)で後押しできる領域は存在し、様々な政策支援に係る経過期間中の財源手当ての仕組みとしても有効」。

 

 「これまで省庁毎に議論される中で結論が先送りされてきた。これだけ困難な課題に取り組むには『政策の総動員』が必要。政策パッケー ジの一つのツールと位置付け、省庁横断的な検討態勢の下で、炭素税や排出量取引制度の導入・拡大に向けた結論を早期に得るべき」と指摘した。https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/clean_energy_kondan/dai1/siryou6.pdf

 有識者懇談会ではこれらの参考意見等も踏まえて、各委員の間で議論されたが、議論の詳細は公表されていない。岸田首相は冒頭、同政策を含め、送配電インフラ、蓄電池、再エネ始め水素・アンモニアなど非炭素電源、安定、低廉かつクリーンなエネルギー供給の在り方、需要側の産業構造転換や労働力の円滑な移動、地域における脱炭素化、ライフスタイルの転換、資金調達の在り方等の、多くの論点に方向性を見い出してもらいたい、と指示した。原発については直接的には言及しなかったが、経産省等は小型モジュール原子炉(SMR)等の開発を目指す方向とみられる。

 

 官邸のクリーンエネルギー戦略は、6月をめどに蓄電池や省エネに適した生活への転換などの分野ごとに工程表を作る予定。「新しい資本主義」を掲げる岸田首相は「2050年カーボンニュートラル実現には、世界全体で現在年間1兆㌦の投資を、2030年までに4倍の4兆㌦に増やす必要があるとの試算がある。わが国でも、官民が、炭素中立型の経済社会に向けた変革の全体像を共有し、この分野への投資を早急に、少なくとも倍増させ、新しい時代の成長を生み出すエンジンとしてく」と明言した。

 

 これまでわが国の「クリーンエネルギー戦略」としては、菅政権時代の2021年12月に、経済産業省が関係省庁主導で戦略を公表した。だが、官邸は加わらず、閣議決定も経ていない形で「政策」扱いされてきた。今回の「戦略立案」は官邸主導であり、カーボンプライシング政策の扱いについては、平野氏の資料が指摘するように「政策の総動員」での判断が期待できる。

 

 カーボンプライシング制度の必要性が急速にクローズアップされてきた背景には、EUがすでに導入しているEU排出権取引制度(EU-ETS)と連動する形でカーボン国境調整メカニズム(CBAM)の導入を目指しており、米国、カナダ等も同制度への適用に柔軟な姿勢をとっていることもある。先進国でCBAMが共通のルールになる場合、カーボンプライシング制度の無い日本は、途上国等とともに課税を受ける側に回されてしまいかねない。

https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202201/18energy.html

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/clean_energy_kondan/index.html