バイデン大統領、総額3690億㌦（約49兆円）の気候対策を含む「インフレ抑制法（IRA）」に署名。「過去最大の気候対策に」と強調。家庭の省エネ、電気自動車購入等を財政で支援（RIEF）
2022-08-17 16:46:06
バイデン米大統領は16日、先に米議会で可決した「インフレ抑制法（IRA : 歳出歳入法）」に署名、同法は正式に成立した。同法には気候変動関連の対策が総額3690億㌦（約49兆2000億円）規模で盛り込まれており、バイデン氏は「同法は過去最大の気候対策の前進になる」と強調。11月の中間選挙に向けて、同法をベースに米国の気候対策を強化していくと宣言した。
バイデン政権は、就任前からの公約である気候変動・社会保障分野に抜本的に力を入れるため、2021年後半に総額1兆7500億㌦規模の歳出法案「ビルド・バック・ベター（BBB）」を掲げた。法案は下院で可決したが、共和党と民主党の議員数が同数の上院では、財政赤字の拡大に懸念を示す民主党ウエストバージニア州選出のジョー・マンチン議員が反対をしたことから成立しなかった。https://rief-jp.org/ct8/121220
その後、歳出規模を7400億㌦に抑え、「2022年インフレ抑制法案（IRA）」に衣替え。法案では、歳出を抑えるとともに、マンチン氏の地元のエネルギー州であるウエストバージニア州を意識する形で、石油やガス開発への支援策も盛り込んだ。今後10年間、石油・ガス生産者に連邦政府保有の土地などをリースすることを認める内容だ。
そのうえで7月27日に、民主党上院トップのシューマー院内総務が、マンチン氏と法案修正で協議して合意した。その結果、法案は難関の上院で今月7日に可決し、続いて12日には下院でも可決した。https://rief-jp.org/ct5/127345?ctid=71
バイデン氏は16日、夏季休暇中をとっていたサウスカロライナ州からワシントンに戻り、法案に署名をして成立させた。同氏は、満面の笑みを浮かべて「IRAによって、気候危機との闘いや、わが国経済を強化し、エネルギー安全保障を高めることに、過去に例のない積極的な行動をとることができる。富裕層や大企業もようやく公正な負担の一部を（税金として）支払うことで、政府の債務は削減されてインフレ抑制につながる」等と述べた。
IRAに盛り込まれた主な気候対策では、電気自動車（EV）を購入する消費者に対して、新車の場合は7500㌦、中古車の場合は4000㌦の税控除を付与し、年間950㌦分の税負担軽減を付与する。住宅の省エネ化策ではヒートポンプ等を導入する場合、1万4000㌦の補助金を直接支給し、少なくとも年間350㌦の家計費節約を実現する。屋根に太陽光発電を設置する750万世帯に対しては30％の税控除枠を設定、同設備のライフサイクル全体で9000㌦、年間300㌦の節約を可能とする。
これらの家庭の「脱炭素化」支援策により、2030年までに9億5000 万枚の太陽光パネルの生産に結び付くほか、風力発電は12万基、電力網への蓄電プラントを2300件敷設することが可能になる。一方で、米国の平均家庭のエネルギーコストを年間平均500㌦削減するとしている。
政策効果として、温室効果ガス排出量は2030年までに1ギガトン（10億㌧）の削減を見込んでいる。これまでの気候・環境関連の法律でもっとも規模の大きな削減効果に比べても、IRAの効果はその10倍以上になるとしている。さらに化石燃料火力等の削減によって、30年までに、3900人の早死を避け、10万人以上の喘息を防ぐ効果も期待できるとしている。
歳入面では、巨大企業に対する最低税率を設定する。連邦法人税は21%だが、これまで巨大企業は税控除の活用などで実質的な支払いを免れてきた。こうした税逃れを防ぐため、財務諸表ベースで15%の最低税率を課す。同税制改正による歳入増効果は3130億㌦。健康保険や処方箋薬等の改革措置によって2880億㌦の歳入増効果等で全体で7390億㌦の歳入増を見込んでいる。政府の債務削減幅は差し引き約3000億㌦の見込み。
日本の政府も、高排出産業・企業への補助金配布だけに力を入れるのではなく、消費者に伝わる脱炭素効果と、目に見える形での家計負担軽減策等を、同時推進し、かつ財政削減につながる政策を打ち出してもらいたいものだ。
Research Institute for Environmental Finance