HOME |EU欧州委員会とドイツ政府。2035年以降も「e燃料」使用の内燃機関車の新車販売承認で合意。EUの電気自動車(EV)シフト戦略を修正へ。自動車業界のグローバル戦略にも影響か(RIEF) |

EU欧州委員会とドイツ政府。2035年以降も「e燃料」使用の内燃機関車の新車販売承認で合意。EUの電気自動車(EV)シフト戦略を修正へ。自動車業界のグローバル戦略にも影響か(RIEF)

2023-03-26 14:09:23

efuelキャプチャ

 

  EUの欧州委員会とドイツ政府は25日、2035年以降に電気自動車(EV)や燃料電池車社以外のガソリン車等の内燃機関車の新車販売を禁止する法案の調整で、CO2と水の電気分解で得られる水素で製造する「e fuel(e燃料)」を使う内燃機関車も条件付きで新車販売を認めることで合意した。欧州委のティメルマンス副委員長は「(ドイツとの合意を受けて)自動車のO2規制を早急に取りまとめる」とコメントし、法案で「e燃料」車を認める方針を示した。28日に開くEUエネルギー理事会で正式に合意する見通し。「e 燃料」の製造コストがEVよりも安いと、現行の内燃機関車の製造が優位となるため、グローバルな自動車業界のEV戦略にも影響を及ぼしそうだ。

 

 EUは23~24日に首脳会議を開いたが、自動車法案の調整は別途、欧州委と欧州最大の自動車大国のドイツとの間で進めた。EUは昨年10月の時点で、2035年のガソリン車等の新車販売禁止で、欧州委員会、欧州議会、EU理事会の三者間で合意していた。合意を担保する法案についても、欧州議会が今年2月14日に採択し、残る手続きは理事会での法案承認だけだった。

 

 しかし、各国間調整の中で、ドイツが「e燃料」案を提唱。国内の自動車産業保護を目指すイタリアや、ポーランド、ブルガリアも同調し、今月7日に予定していたEUエネルギー相理事会での合意を先延ばししていた。https://rief-jp.org/ct5/133428

 

Germany3da34cc90dc2a792ab1ab143ae649fb0

 

 EU理事会での政策決定では、重要テーマの場合は、特定多数決方式により、①「EU27カ国のうち15カ国以上の同意が不可欠②その15カ国がEUの人口の65%以上を占める、の2条件をクリアする必要がある。ドイツを含む同調4カ国は人口が多く、他の23カ国がすべてが賛成しても、②の基準のクリアを阻むことになる。https://rief-jp.org/ct5/133428

 

 欧州委は法案を宙に浮かせるよりも、ドイツ等が主張する「e燃料」の利用が完全なカーボンニュートラルになることを条件として、同燃料使用の内燃機関車の35年以降の並存を認める妥協案に合意した形だ。EVか内燃機関車か、という自動車の技術論ではなく、両自動車からのCO2排出量がゼロになるかどうかを評価の判断にしたことになる。

 

 「e燃料」はCO2と、再エネ電力による水の電解で得られた水素を用いた合成燃料を指す。CO2とH2から作る合成燃料の一種で、現在は原料となるCO2は、発電所や工場などから排出されたものを利用するが、将来は大気中のCO2を直接分離・吸収する「DAC」技術やグリーン水素を使うことで、カーボンニュートラルな燃料として評価される見通しだ。

 

 「e燃料」の場合、EVのように新たに電力のチャージングポイントを展開しなくても、既存のガソリンスタンドでガソリンや軽油と同様に販売できるメリットもある。自動車会社も現行の内燃機関車の製造ラインを維持できる。

 

 問題は、燃焼時に通常のガソリン車と同様に、CO2が排出される点だが、原料としてもCO2を使うことで、工場等から排出されたCO2を吸収した形になることから、全体のCO2排出量は減少すると評価される。さらにDAC技術を組み込めば、カーボンニュートラルに近づく。焦点は燃料の製造コストがどこまで低下するかにかかってくる。EVの製造コストの低下との比較もポイントだ。

 

  報道によると、日本の経済産業省の試算として、再エネ電力の価格がが安い海外で製造すると、現状の価格は1㍑当たり約300円、国内だと約700円となり、ガソリン価格の2〜5倍に相当する。2035年までにどの程度、製造コストが下がるかだ。

 

 欧州委のティメルマンス副委員長のドイツとの合意宣言とともに、ドイツの運輸相のVolker Wissing氏(自由民主党)も「内燃機関車は2035年以降も、CO2ニュートラル燃料を使うことで、新車登録が可能になる」と「e燃料」車の利用が認められたことを強調した。

 

 ただ、ドイツを含めて、すでに理事会として合意していた内燃機関車の35年以降の販売停止が、一部の国による土壇場での反旗の翻しで覆ることは、EUの政策に対する内外の信頼性を揺さぶることは避けられない。ドイツ等の意見を反映させた修正法案が採択される場合は、上記の基準の②の人口基準のほか、①の15カ国の承認、も得る必要がある。土壇場での修正劇に反発を強める加盟国が結束すると、法案自体が宙に浮く可能性も残している。

 

 自動車のEV化を推進してきたEUの今回の方針転換は、その成否の方向性に加えて、グローバルに展開する自動車業界がどう対応するかも注目点だ。「e燃料」の製造コスト面は、自動車業界とエネルギー業界が本格的に連携すると、かなりのコストダウン効果が見込めるかもしれない。

 

 さらにそのコストダウン効果がCO2削減のカギを握るDAC技術への投資増大につながると、自動車業界を超えて、高炭素排出産業全体にも効果を及ぼす可能性もある。トランジション(移行)の技術リスクが、「e燃料」浮上でEV側で高まるのか、「e燃料」自体が結局は技術リスクを克服できないで終わるのか。グローバルな産業界の気候対応も本腰を入れた対応が迫られる情勢といえる。

https://twitter.com/TimmermansEU/status/1639553948179742720

https://www.dw.com/en/germany-strikes-deal-with-eu-on-combustion-engine-phase-out/a-65120095