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日本のGX構想が進める石炭火力発電のアンモニア混焼で、大量のPM2.5排出増のリスク。フィンランドの研究所が、JERAの碧南火力をモデルに検証。「大気環境に致命的影響」と(RIEF)

2023-05-17 03:03:34

CREA002キャプチャ

 

  日本政府がグリーントランスフォーメーション(GX)構想として、石炭火力発電所をアンモニア(NH3)混焼で延命させる戦略を進めていることに対して、フィンランドのシンクタンクが「NH3混焼でPM2.5(微小粒子状物質)とその元になる物質の総排出量が『大気環境に致命的な影響を与える』ほど増える」との報告書をまとめた。分析は日本がNH3混焼の実証実験を予定するJERAの碧南石炭火力発電所(愛知県)を対象にした。NH3は燃焼時にCO2を排出量しない。だが、PM2.5増大の影響については日本政府は言及しておらず、シンクタンクはPM2.5への影響を調査することを日本に勧告している。

 

 報告書をまとめたのは「Centre for Research on Energy and Clean Air(CREA)」。フィンランドの民間の独立系シンクタンクで大気汚染関連の分析を中心に提言等を公表している。欧州だけでなくアジアの分析も行っている。

 

 今回の報告書「Air quality implications of coal-ammonia co-firing」は、日本政府が進める石炭火力へのNH3混焼の大気汚染への影響を分析した。同研究所の主任アナリスト、ラウリ・ミルヴィルタ氏と大気アナリスト、ジェイミー・ケリー氏の共同執筆による。

 

JERAの碧南石炭火力発電所=日本最大のO2排出量
JERAの碧南石炭火力発電所=日本最大のO2排出量

 

 日本政府はGXで推進する石炭火力へのNH3混焼の実証化のため、東京電力ホールディングスと中部電力が折半出資したJERAが運用する碧南石炭火力発電所4号機を技術改良し、今年から20%混焼の実証実験を行う予定。成功すると、混焼率を2050年までに50%に引き上げ、2050年以降は国内すべての超臨界発電所でNH3混焼100%に切り替える方針という。

 

 CREAの分析チームは、NH3混焼による大気汚染への影響がまだ国際的にも十分に検証されていないことから、碧南火力をモデルとして石炭とNH3混焼が大気質へ及ぼす影響を調べた。エネルギー需要は一定に保ち、石炭とNH3の異なる燃料混合比をJERAが予定する実証実験と同様に(100:0、80:20、50:50)の比率で分析し、PM2.5とその前駆物質等の排出量を数値化した。

 

 分析には燃料のライフサイクル(採掘、工業生産、輸送、燃焼)からの排出も考慮した。汚染物質のデータは、JERAが現在公表しているPM2.5のほか、窒素酸化物(NO2)、硫黄酸化物(SO2)の排出データを活用した。

 

碧南火力をモデルにし、アンモニア混焼率を高めた場合の汚染物質の推移

碧南火力をモデルにし、アンモニア混焼率を高めた場合の汚染物質の推移

 

 その結果、石炭だけの燃焼(現状 : 100:0)の場合は、すべての汚染物質(PM2.5+ SO2  + NO2 + NH3)と工程(生産 + 輸送 + 燃焼)における物質の総排出量は1,348㌧。そのうち最も排出量が多いのは、NO2(800㌧)とSO2(529㌧)で、PM2.5はごくわずか(19㌧)。 NH3は排出されていない。

 

 混焼率を20%(80:20)に増やした場合、汚染物質総排出量は67%増の(2,249㌧)となる。さらに50%(50:50)とした場合、総排出量は167%増(3,602㌧)に増える。このうちでNH3は当初のゼロから、20%混焼で1,011㌧に一気に増え、さらに50%混焼では2.5倍の 2,528㌧に増加する。これに対して、PM2.5(4〜9㌧)とSO2(106〜265㌧)の排出量はわずかに減少する。NO2の排出量は変化しない、との結果になった。

 

 アンモニア(NH3)の混焼で、NH3自体の排出量が増大するというのは、NH3は燃焼によって、未反応のアンモニア(アンモニアスリップ)とNO2を排出するためだ。未反応のまま大気中に排出されるNH3の量は、非常に不確実であり、複数の異なる要因に依存するため、0.1~25%相当分になるとの推計を示している。

 

 NH3混焼で燃焼時のCO2排出量が出なくても、NH3排出量が大幅に増えると、他の物質(PM2.5 、SO2)の排出量がごくわずかに減る分を完全に相殺する。新たに排出されるNH3はPM2.5の強い前駆物質となる。PM2.5は、大気中を長距離移動し、わずかな濃度の増加でも、人間の死亡リスク要因を大きく高める危険性がある。このため報告書は「NH3の混焼割合を高めるほどPM2.5の排出量は増え『大気環境に致命的な影響を与える』」と結論づけている。

 

 PM2.5は中国からの飛来のリスク時にも指摘されたように、国境を超えて拡散する。碧南火力で使用した場合、50kmしか離れていない近隣の名古屋市周辺に影響を与える可能性は容易に想像できる。さらに、日本政府はNH3混焼による石炭火力の温存を、日本以外のマレーシアやシンガポール、インドネシア等でも展開しようとしている。これらのアジアの国々ではすでにPM2.5汚染による健康被害が起きているが、これらをさらに増大させる懸念がある。世界では、PM2.5に関連した年間早期死亡者数のうち、14 %(56万人)が、石炭燃焼で引き起こされているという。

 

 今回の分析では、NH3の燃焼時の大気汚染への影響を分析したが、NH3の影響としては、NH3製造時においても全体の0.001%が意図せず大気中に放出されているほか、日本政府が検討するNH3を船で輸送する場合の排出リスクもある。この場合のデータは示されていないが、米国とベルギー間の液体メタンの往復輸送時で、0.1%のメタンが輸送中に大気放出されているという。こうしたNH3の影響も今後、調査する必要がある。

 

 この報告書は、フィンランドのシンクタンクが、日本のアンモニア混焼政策の妥当性について、わざわざ検証してくれた形だが、日本の電力会社や研究機関等はこの問題をどう分析してきたのか。日本の技術面の調査力も問われている。

https://energyandcleanair.org/wp/wp-content/uploads/2023/05/CREA_Press-Release_Air-quality-implications-of-coal-ammonia-co-firing_05.2023_JP.pdf

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https://energyandcleanair.org/publication/air-quality-implications-of-coal-ammonia-co-firing/