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環境・経産両省が示した2035年度のNDC削減目標60%減の実態は「49%減」。現行の30年度目標を3%上積みするだけ、とシンクタンク試算。GX政策の削減効果の「乏しさ隠し」か(RIEF)

2024-11-30 13:46:34

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 環境・経産両省は先に開いた審議会の合同会合で、来年2月に国連に提出する2035年度のNDC(国が定める削減貢献)目標案を60%削減、40年度73%削減とする案を示した。ところが国際的な基準に基づくと、日本政府が示した削減目標は35年度では49%程度の削減率で、現行の30年度目標から3%の上積みする程度でしかないとの試算が公表された。35年度には、日本政府が推進するGX政策が「軌道」に乗っている時期のはずだ。だが、実際には同政策の効果があまり期待できそうもないことから、両省の役人が「知恵」を絞って目標を「盛った」との見方も出ている。

 

 両省は11月25日に中央環境審議会と産業構造審議会の各作業部会の合同会合を開き、その席上で、35年度、40年度の目標草案を示した。現行の30年度を目標とするNDCでは46%削減(13年度比)となっており、政府案の目標は、35年度にはそれを上回る60%削減に、40年度は73%減とする案だ。一見、これらのNDC目標値を比べると、着実に排出削減が進むようにみえる。https://rief-jp.org/ct8/150898?ctid=71

 

環境・経産両省が示した「盛り満載」の政府案
環境・経産両省が示した「盛り満載」の政府案

 

 独立系シンクタンクの自然エネルギー財団によると、IPCCが昨年3月の第6次評価報告書で「オーバーシュートしない、または限られたオーバーシュートを伴って温暖化を50%以下の確率で1.5℃以内に抑える経路」として示した世界のGHG排出量の35年度の削減目標は、2019年度比で60%削減となっている。日本政府の草案は、IPCCの提案と整合するように読める。

 

 しかし、IPCCが示す世界全体の削減量の基準は2019年度比だ。日本の案を同基準に置き換えると、削減率は53%に下がる。日本が基準とする2013年度は、東京電力福島第一原発事故を受けて国内の電源構成が原発ゼロになり、火力発電への依存度を高め、排出量が急増した年だったためとされる。

 

 2013年度の発電電力量の88%は、石炭、天然ガス、石油などの化石燃料発電が供給した。電力の排出係数(1kWhあたりのCO2排出量)は原発事故前の2010年度の0.413から2013年度には0.570へと跳ね上がった。この間のCO2排出量も1億㌧の増加となった。その後、再エネ発電の急増と原発の一定程度の再稼働の進展で、電力の排出係数は改善し、削減が進んだようにみえている。

 

 こうした2013年度という特異な年を基準にすると、政府案の削減率は高まる。だが、国際比較が可能なIPCCの基準年(2019年度)で比較すると、削減率は53%減に下がる。さらに日本政府が示す目標値には、もう一つの「嵩上げ効果」が盛り込まれているという。それは、基準年にはグロスの排出総量を置きながら、目標年には森林などからの吸収量を差し引いたネットの排出量を置くという比較の尺度を変える方式をとっている点だ。

 

 これは国際的には「グロス―ネット方式」と呼ばれ、例外的な手法と位置付けられている。本来は基準年とする2013年度にも吸収量はある。ところが日本の方式では、その吸収量は基準年度ではカウントせず、目標年度にだけカウントするという。これだと、2035年度の目標達成には、実際の削減量に加えて、この期間(2013~2035年度)の吸収量の増分だけでなく吸収量全量をまるまる上乗せすることが可能になる。したがって削減量を大きくみせることができる。

 

 同財団によると、政府は今回活用した「グロス―ネット方式」も国際ルールで認められていると説明しているという。実際に京都議定書のころには、この方式を使う国はいくつかあったとさえれる。だが、現在は少なくとも先進国での目標設定ではほとんど使われていないという。環境NGOの「The Climate Action Tracker」は、日本のNDCの評価の中で「日本が使っているグロスーネット方式はパリ協定の目的を損なう」と批判している。

 

 国の削減案では2035年度の吸収量をいくらに見積もっているかは明記していない。そこで同財団は、2013年度以降の吸収量の実績が各年で5000~6000万㌧前後であることから、この分をカウントして試算し直した。その結果、2019年度で53%削減となる政府案を実現するために必要な排出量の削減率は、さらに減って、49%になったとしている。この削減水準は、現行30年度の削減目標の46%削減(13年度比)からわずか3%の削減率を上積みしただけでしかないことになる。

 

 IPCCが示した35年度の60%削減は、温暖化を50%以下の確率で1.5℃以内に抑える経路(49~77%)の中央値だ。日本政府の数値をIPCC基準に置き換えた場合の削減の範囲にはギリギリで入っているとの主張もできる。しかし、IPCCが示したのは世界全体の排出削減目標であり、産業革命以来、多くのGHGを排出してきた先進国の場合、世界平均より高い削減率が求められる。

 

 実際に英国首相のキア・スターマー(Keir Starmer)氏はCOP29において、英国のGHG排出削減目標を、2035年までに81%削減(1990年比)とすることをNDCに盛り込むと明言した。EUも同様の水準、あるいは90%近い水準を目指しているとされる。スターマー氏は「英国は、気候危機の最前線に立つ国々と共に立ち、明日のチャンスをつかむ決意だ」と決意を示した。https://rief-jp.org/ct8/150499?ctid=71

 

 同財団は、「米国では気候変動対策に背を向けるトランプ政権が発足する。気候危機への国際的な戦いでは、これまで米連邦政府が果たしてきた役割を同政権に期待することはできない。その中で、先進国として日本が果たすべき役割は、EU、英国、オーストラリアとともに一層大きくなる。IPCCが求める世界全体の削減レベルの下限ギリギリのNDCで、気候対策において世界をリードできるはずはない」と指摘している。

https://www.renewable-ei.org/activities/rports/20241128.php

https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20240719_1.php