日米関税合意に基づく日本政府の対米投資第一弾の9割超は化石燃料関連。稼働すると日本の排出量の2割分増加。排出増分は、パリ協定から離脱の米国より、日本のNDCとみなすべきかも(各紙)
2026-03-20 23:59:15
(写真は、訪米して日米首脳会談に出席した高市首相㊨と、トランプ米大統領㊧=日本の首相官邸の資料から)
各紙の報道によると、日本政府が日米関税合意に基づく5500億㌦(約87兆円)の対米投資の第1弾として発表したプロジェクトの投資額の9割超を化石燃料関連施設が占め、同事業が稼働すると、日本の温室効果ガス(GHG)年間排出量の2割に相当する排出量が発生する恐れがあることがわかった。パリ協定から離脱した米国への、日本の技術と資金による排出増なので、その排出分は、日本の国による削減貢献量(NDCs)への追加排出量とみなすべきかもしれない。
これらの投資で排出量が多い2件について、同紙が独自に、単位当たりの排出量(排出原単位・排出係数)を元に、設備に使う燃料や電気量をかけてCO2の想定排出量を、直接、間接の両面も考慮して試算したとしている。その結果、オハイオ州のガス火力は出力計9.2GWには、東芝やソフトバンクグループなどが参画すると想定され、現在最新鋭の設備を導入して、60%の稼働率で発電した場合、排出量は年間約1550万㌧。これは、ネパールやプエルトリコが一国で1年に排出する量に相当する、としている。
もう一方のテキサス州の原油輸出インフラには、商船三井や日本製鉄などが機器の供給に関心を持っているとし、完成すると、年間200億~300億㌦分の米国産原油の輸出を見込んでいる。米国とイスラエルによるイラン攻撃前の原油価格(1バレル=66㌦)で換算すると3億~4億5千万バレルになる、としている。
同設備の場合、輸出インフラなので、直接原油を燃やすわけではないが、最終消費まで含めたライフサイクル全体での気候影響を評価し、輸出原油の供給先ですべて燃焼されると想定すると、年間約1億3000万~2億㌧の排出量となる。これは世界の年間排出量の0.5%に匹敵する。これは、パキスタンやアラブ首長国連邦(UAE)の排出量に匹敵するとしている。
両事業を合わせると、CO2の総排出量は年間1億4550万~2億1550万㌧に上り、日本の年間排出量の約10億1700万㌧(2023年度)の14~21%に相当する。さらに、両事業からは、CO2より温室効果の高いGHGであるメタンの漏出が懸念される。メタンの温室効果係数(GWP)は、100年時間幅でCO2の約28〜34倍、20年時間幅では約84〜86倍となる。同紙の試算では、メタン排出に伴うGHG増加については示していない。
また、両設備はいずれも30~40年程度の稼働が見込まれることから、CO2、GHGの排出増は、単年にとどまらず、将来にわたり大量の排出が続くことになる、としている。
2022年の主要7カ国(G7)首脳会議(エルマウサミット)では、「排出削減対策が講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援を22年末までに終了」する首脳声明が合意されている。同合意には、日米も加わっている。同合意では「限られた状況」以外の例外を認めていない。その例外としては、国家安全保障に関わる場合や、パリ協定の「1.5℃目標」に沿っている場合などに限定している。
また、国際エネルギー機関(IEA)は、パリ協定の「1.5℃目標」を実現するには、新規の化石燃料インフラは不要と指摘しており、オハイオのガス火力も、テキサスの原油輸出インフラも、ともにこれに抵触する。さらに、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書では、既存の化石燃料インフラからの排出だけでも1.5℃以上の温暖化につながるとしており、日本の対米投資に含まれる化石燃料関連のインフラは「温暖化加速インフラ」と呼んだ方が分かり易い。
同紙は、こうした対米投資第一弾による気候変動への影響が大きいことを受け、米ブルームバーグ通信が「汚染に彩られている」と論評していることも紹介している。こうした脱炭素政策と逆行する対米投資に対して、日本の経済産業省官僚のコメントも掲載している。それによると、同省の担当者は「(今回の投資は)政府として全体で、エルマウサミットでの首脳声明の『限られた状況』にあたると判断した」と回答したとしている。
しかし、この経産省役人の説明は、どこが、どう「限られた状況」に当たるのか、記事を読む限りでは、よくわからない。
オハイオに建設されるガス火力発電の燃料のガスは、日本のように輸入ではなく、米国内の天然ガス。同ガスは、トランプ大統領が「ドリル・ベイビー・ドリル(掘って掘って掘りまくれ)」と号令をかけて増産しており、国家安全保障が左右される環境にあるようには思えない。
後者のテキサス州の原油輸出インフラも、同インフラを活用して米国産原油を輸入する国にとっては、安全保障上の影響が生じる可能性はある。だが、同インフラは日本向けに限定したものではないことから、純然たるエネルギー輸出用のインフラで、安全保障上の理由はゼロではないだろうが、輸出国の米国にとってのリスクは少ないとみられる。
もう一つの「パリ協定が掲げる目標に沿っている場合」に”逸脱”を認める条件については、米国自体がパリ協定から離脱したことで、”逸脱”自体を問うことの意味はないといえる、等々。 米国にとって「限られた状況」がみられない一方で、日本にとっては、日本企業の技術力と日本の官民のファイナンス力による対米投資でGHG排出量を2割近く増やすことは、米国がパリ協定から離脱した以上、その増加分は日本のNDCにカウントすべきとの指摘に答える必要がある。
日本政府も、投資に参画する日本企業・金融機関も、「いずれも日本企業が機器を納入することで、日本の利益になる」と判断しているとされる。投資の対象は米国内だが、機器の調達、納入、ファイナンスの提供先等は、日本の参画企業となることから、これらの投資による利益だけでなく、投資による不利益(GHG排出増加その他)についても、「日本の責任」となり得る。
https://digital.asahi.com/articles/ASV3J41T0V3JUTFL010M.html

































Research Institute for Environmental Finance