第11回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑫NGO/NPO賞:オイルチェンジインターナショナル(OCI)。日本の官民がアジアで展開する「化石燃料温存策」の改善求める活動(RIEF)
2026-03-20 09:44:02
(12 は、サステナブルファイナンス大賞の表彰式で、㊧が有馬氏、㊥は審査員のGX推進機構理事の高田英樹氏、㊨は環境金融研究機構代表理事の藤井良広)
第11回サステナブルファイナンス大賞のNGO/NPO賞には、アジア等の海外のNGOと連携して、日本政府の「化石燃料温存政策」を批判し、改善を求める活動を展開している国際NGOの「オイルチェンジ・インターナショナル(Oil Change International : OCI)」が選ばれました。同団体の日本代表である有馬牧子氏に聞きました。
――最初にOil Change International(OCI)と、その活動の概要を教えてください。
有馬氏 OCIは、2005年に米国で発足しました。団体の名前に「Oil」が入っているように、当初は石油の開発がどれだけ紛争に関わり、民主主義、人々の生活、環境・気候に悪影響を及ぼしながらも、実は地域社会の健全な開発にはつながらないという事実、それを私たちは「真のコスト」と呼んでいますが、そうした事実を明らかにしようという目的で始まりました。今では、石油だけではなく、化石燃料全体の開発の問題を取り上げています。米国のワシントンDCに拠点を置き、日本を含む世界20カ国で活動を展開しています。職員は全体で50人くらいですが、それぞれがリモートでつながっており、各国内外での活動を展開しています。
――今回、OCIをNGO/NPO賞に選んだのは、日本政府が日本国内だけでなく、海外、特にアジア各地で「アジアゼロエミッション共同体(AZEC)」として、化石燃料発電等を、水素・アンモニア混焼や、CCS・CCUS等を活用して維持しようとする動きに、「警鐘」を鳴らすOCIの活動を評価してのものです。OCIは海外のNGOや住民団体等と共同で日本の官民の化石燃料事業継続の活動に警鐘を鳴らしていますが、そのきっかけは何だったのでしょうか。
有馬氏 われわれの団体の目的は、研究、コミュニケーション、アドボカシー等の活動を通して、化石燃料の「真のコスト」を明らかにすることにあります。活動の力点は、国によって、違いはありますが、データに基づいて、化石燃料に関連する重要な情報をステークホルダーに届けることを基本としています。また、気候危機や化石燃料開発に反対する最前線で活動している団体や影響を受けているコミュニティの声を、人々に伝えることを心がけています。

私はアジアチームに所属し、日本で活動しています。科学的データを踏まえると、脱化石燃料が必要であることは明らかにもかかわらず、日本政府は世界最大の化石燃料分野への資金提供国の一つであり続けています。特にアジア各国では、多くのNGOや住民団体が、リスクが多くて、汚くて、気候危機を悪化させている化石燃料事業への日本の官民の関与を問題視しています。日本政府がAZECとしてアジアで推進する政策を見ていると、「脱炭素」と言いながら、化石燃料事業を推進・継続する事業を日本の公的資金で支援する仕組みになっています。
アジア各国での日本の化石燃料事業支援は、日本の公的資金を先頭に、それに日本の大手銀行が加わり、さらに日本の商社等による化石燃料の開発事業を後押しする官民連携の構造になっています。AZEC自体が、日本政府が主導するオールジャパンの化石燃料事業推進の場になっているのです。日本政府の公的資金があるとないとでは、事業の進み方も全然違ってきます。そこで、現地の人々も、化石燃料事業を止めるには、日本政府をターゲットにしなければだめだと気づいています。日本政府による化石燃料維持のための事業への公的資金の供給を止めないと、民間企業の同事業を止めるのも難しい。そこで日本の公的資金の提供に歯止めをかける活動を、現地の人々と共に展開しています。
――日本政府は、経産省も環境省も、NGOの意見だけでなく、現地の住民の意見も、なかなか聞いてくれない感じだと思います。
有馬氏 その通りです。なので、私たちの活動の一つは、国内外の団体と連携して声をあげていくことを、活動のベースラインにしています。日本の公的資金支援の中核を担う国際協力銀行(JBIC)の場合、化石燃料事業の上流・下流のすべてに対して、公的資金を供給する事業を展開しています。それによって影響を受けているコミュニティも各国にまたがります。その結果、JBICの支援に対して、現地で抗議の活動をする住民団体や市民団体等は本当に多くなっています。昨年は、カナダの先住民族代表がLNGカナダという開発事業に関連して、JBICに対し、同事業はカナダ国憲法と国際法に違反するとして、投融資の即時停止を求める異議申立書を提出しました。https://rief-jp.org/ct7/159140
――日本政府はGX政策でも、火力発電をCCSや水素・アンモニア混焼等の手段を使って継続させる主張をし、実際に、GX経済移行債(GX国債)で調達した公的資金で、これら技術や事業の海外での展開を支援しています。これらは化石燃料による火力発電事業の「延命策」だと思いますが、アジアの国々の人々は、こうした日本の政府ぐるみの「延命策」をどうみていますか。
有馬氏 アジアの国々だけではなく、米国でもそうです。日米関税交渉で合意した5500億㌦(約86兆円)の対米投融資の第1弾に含まれるオハイオ州のガス火力発電施設の開発や、その前にもテキサス州、ルイジアナ州等でのメキシコ湾の石油・LNG開発事業にも、日本政府主導での官民連合の開発事業体が展開しています。それに対して、米国でも市民団体等が異議を唱えています。開発に伴う自然環境の破壊や、事業に伴う大気・水質等の汚染によって、自然環境だけでなく、地域コミュニティにも過度な負担が集中しているためで、各地でこれらの事業を推進する日本の官民連合体への抗議が起きています。
本当に、日本の企業が主導する海外での化石燃料事業は、日本の政府、産業、企業のすべてが関わっているような状況です。脱炭素化がグローバルに求められる中で、日本の場合、化石燃料事業を官民が一体となって支援し、事業化しているわけで、こうした状況をみるにつけ、個人的にも「日本企業はこれで大丈夫なのか」と思ってしまいます。脱化石燃料が現実になり、また現在、中東で見られる地政学的リスク等を考慮すると、化石燃料推進事業に、すべてを費やしている日本の政府・企業が抱えるリスクは大きいと思います。

――経団連を軸とする戦前からの日本の経済界の官民連携の構造ですね。戦後復興や、高度経済成長を牽引した日本型経済成長の構造ですが、グローバル化が世界中に行き渡り、脱炭素化が地球全体で求められる中で、いつまでも同じ産業構造のスタイルで対応しようとするのはどうかと思います。アジアの国々も、日本企業のサプライチェーンとして巻き込まれているので、日本の公的資金による投資は拒まない面もあると思いますが、日本の旧来型の官民連携がアジアの脱炭素化に及ぼすことに対して、どのような反応でしょうか。
有馬氏 日本の政府や企業の方々も、わかっている人はわかっていると思いますが、AZECが目指す技術・開発の中でも、既存の火力発電所からのCO2排出量を軽減させることを目的とするアンモニア混焼、水素混焼、CCSなどの技術は、現行の火力発電のままでの温存を目指す仕組みでもあります。これらの技術をアジアの国々が導入すると、それぞれの国々の経済に、化石燃料依存の火力発電そのものを、改めてロックインしてしまうことにもなります。現在の米国とイスラエルによるイラン攻撃の影響からも見られますが、日本が支援する化石燃料依存により、アジアの国々の経済的安全保障とエネルギー安全保障が損なわれることは、以前から繰り返されています。
東南アジア等の国々は、まだ石炭がエネルギーの中心となっているともいえます。日本は、その外交的な影響力、経済力、そして技術力を活用し、「AZECで脱炭素化に貢献する」と宣伝しています。しかし、日本政府が現在のAZEC枠組みを推進することにより、石炭から再生可能エネルギーへの転換ではなく、石炭から天然ガス等の別の化石燃料へ転換する技術を提案する形となっており、その結果、アジアの脱炭素化を遅らせるリスクがあります。
実際に、アジアの国々では、太陽光、風力などの再エネのポテンシャルがあるにもかかわらず、現行のAZECで日本政府・企業が主導する戦略では、日本企業だけが利益を高めるためのような技術を、どんどん輸出していこうとすることへの危機感があります。
LNGも化石燃料であり、トランジション(移行)につながりません。このような技術が本当に大丈夫か、どうか。米国とイスラエルによるイラン攻撃の紛争勃発で、中東のカタールなどのLNGが完全に輸出停止になるなどの事態が起きています。エネルギーの安全保障の観点からは、海外の化石燃料の輸入に頼ったエネルギー政策は、脱炭素化どころか、国の安全保障に反する事態が、現に起きており、その行き詰まりは明らかだと思います。
――アジアの国の中で(日本の戦略に巻きまれている国は)どこでしょうか
有馬氏 AZECで各国と締結した覚書の数でみれば、インドネシアが一番多いですね。他にも、日本との覚書締結が多い国は、ベトナム、フィリピン、マレーシア、タイなどがあります。日本は、AZEC枠組み以外にも、ベトナムのガス田やガス火力発電所の開発からバングラデシュのエネルギーのマスタープラン策定、フィリピン初のLNG輸入ターミナル事業の支援と、以前からアジア諸国のガスやLNG依存を促してきました。「上流(エネルギーの開発段階)」でいうとオーストラリアも、天然ガスの提供側として関わってきています。最近、オーストラリアのある州の議員と意見交換をしました。同議員は、日本企業がどれだけ同国のガス田の開発に関わり、どれだけ同国政府の関係者にロビイングしているか、開発誘導に関わっているかについて、懸念していました。
――オーストラリアでは、米シェブロンが開発しているガス田のCO2削減のために設けたCCSが全く機能していないことで有名ですね。
有馬氏 CCSは今、騒がれていますが、オーストラリアの案件もそうですが、50年にわたる失敗の歴史があります。CCSという技術の大半は、化石燃料をより多く採掘するために開発された技術であり、そのために化石燃料産業が提案している技術です。ですので、同技術が脱炭素化に貢献するということは、疑問だと思います。現在のCCS事業は世界全体の排出量の0.1%しか回収できていないという分析もあります。つまり、実際には、効果の少ない技術を誇大視して「このまま化石燃料を使っても、CCSがあるから大丈夫」という考えが最近、結構広がってきており、危ないと思います。貴重な資源と時間が「失敗してきた技術」に浪費されています。
――結局、今のCCSの議論は「時間稼ぎ」。それがどれくらいの時間稼ぎか、というと、おそらく、自分が現在の会社や役所の関連するポストにいる間は持てばいい、といったことはよくありますね。ライバル企業や国も、同じようにやっていれば安心する、ということでしょうか。
有馬氏 時間稼ぎですが、私たちには、もはや、そのような時間はありません。国内外で日本政府をターゲットにするNGOや住民団体が本当に増えています。その一つが、「Fossil Free Japan(FFJ : 化石燃料無しの日本)」という連合体です。内外の主要な環境NGOが参加しています。日本政府は、2022年のG7で海外の化石燃料事業には支援しないと公約しましたが、その後も支援し続けています。FFJの活動は、日本が、国内およびアジア等の海外で、化石燃料事業の支援を続けていることを止めさせるための活動を連携して進める試みです。
FFJの中には、JBICなど日本の公的機関や日本政府をターゲットとする団体が多いですが、他にも、メガバンクや日本の商社やいろんな日本企業をターゲットにしている団体も加わっています。FFJの参加NGOをみれば、どれだけ日本政府や日本の民間企業がターゲットになっているかがわかります。彼らの活動は勢いを増しています。例えば、バングラデシュのLNG事業から三菱商事が撤退したり、米国の機関投資家がJBIC債の投資をダイベスト(引き揚げ)するなど、その圧力は効果があります。FFJは拡大しており、日本が化石燃料の支援から手を引くまで活動も広がり続けると思います。
(聞き手は 藤井良広)

































Research Institute for Environmental Finance