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原発めぐり火花、橋下大阪市長と関電の闘い (各紙)

2011-12-19 17:07:10

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地域政党「大阪維新の会」代表の橋下徹氏が12月19日、大阪市長に就任した。大阪ダブル選圧勝の余韻が残るなか、今度は国会議員の擁立方針をぶち上げた橋下氏。その一挙手一投足が気にかかるのは、中央政界だけではない。原子力発電の是非を巡って揺れる関西電力もまた神経をとがらせている。


 先制攻撃は12月9日だった。




 「可決に向け、住民の力を借りたい」。新市長に当選した橋下氏はこう語り、関電に原発依存度を下げるように求める株主提案づくりを市担当部局に指示したことを明らかにした。思い描くのは、個人株主を巻き込んで株主提案の可決を目指す青写真だ。




 大阪市は関電の筆頭株主。橋下氏は選挙公約で掲げた「脱原発依存」を進めるため、具体策を早速打ち出した格好だ。




■関電株は年初来安値を更新




 こうした動きを見越してか、関電の株価は選挙翌日の11月28日に約6%急落。橋下氏の株主提案づくりが動き出した後の12月13日には年初来安値を更新した。一地方自治体の選挙結果が、売上高2兆円を超す巨大企業の株価を激しく揺さぶっている。




 「正面から行くしかない」。相対する関電の八木誠社長は橋下氏への対応について、社内でこんな見方を示す。




 停滞気味の関西経済を立て直すには、電力の安定供給が不可欠。発電量の4割強を原発に頼る関電、ひいては関西経済にとって低コストで出力にブレのない原発こそが競争力になる――。正面からこう説得すれば、産業政策を重視する橋下氏にもきっと伝わるはずだとの読みだ。




 橋下氏と関電。これまでも両者は微妙な綱引きを続けてきた。


 「関電の言うことは全く根拠がない。皆さん聞かなくていいですよ」。今年夏の節電要請の際、大阪府知事だった橋下氏は猛烈な関電批判を展開した。大阪府など7府県が加盟する自治体組織「関西広域連合」が5~10%の節電目標を掲げたのに対し、関電はそれを上回る15%程度の節電目標を発表。「電力問題は国の所管というつもりなのか、情報提供に応じなかった」。橋下氏は顔をつぶされた他の知事も味方につけ、関電を強く非難。八木社長は急きょ近畿2府4県へ説明行脚に回る羽目になった。




■呼び捨てから「さん付け」に




 ところが夏の節電が終わり、選挙が近づくにつれ、橋下氏は態度を軟化させる。大阪市長選の出馬表明を済ませた10月27日の関西広域連合の会議。「10%程度の節電でいいのではないですか」。広域連合が関電と水面下で協議を重ねていた今年冬の節電目標を初めて公言する役回りは橋下氏が担った。「今回は関西電力さんも説明を尽くされた」。夏の呼び捨てから「さん付け」への変貌。居合わせた関電社員は「選挙対策ですかね」と苦笑するしかなかった。

こうした融和ムードもあってか、関電も市長選で対立候補の支援に表立って動いた様子は乏しい。民主と自民の両府連の応援を受けた平松邦夫氏の後援幹部には、関電労組出身で連合大阪会長の川口清一氏がいる。だが「企業と組合は別」(関電幹部)として、橋下氏との目立った対決を避けたようだ。


 橋下新市長が誕生しても打つ手はある。約9%の株式を持つ筆頭株主とはいえ、他の上位株主には安定配当と堅実経営を望む生命保険会社などの機関投資家が並ぶ。来年の株主総会が脱原発を巡るプロキシーファイト(委任状争奪戦)に陥る可能性について、関電幹部は「脱原発については毎年10件以上の株主提案をいただいている。どなたが出しても、総会で審議するだけです」と冷静に話す。


 むしろ関電が危惧するのは、市長選のその先だ。選挙翌日、ある関電幹部は来阪した自民党の石原伸晃幹事長と接触した。目的は国会情勢の分析。市長選の投票率を1.5倍近くに伸ばして圧勝した勢いに押され、市長選で対立したはずの民主、自民とも維新の会が掲げる大阪都構想に一定の理解を示し始めた。「消費税率引き上げなどで政局が乱れれば、国会議員の擁立を明言した維新の会がキャスチングボードを握りかねない」。そんな感触を得た関電幹部は顔を曇らせた。




■最も警戒すべきは国政進出




 維新の会の国政進出。それこそが関電の最も警戒するシナリオだろう。「今後の原子力事業は国のエネルギー政策の見直しに沿って考えたい」。選挙後、維新の会が脱原発依存を公約に掲げていることについて感想を求められた八木社長はこう繰り返した。だが橋下氏が中央政界に近づけば、「国策民営」で築いた原発産業も影響を免れない。




 再び緊張感を高める橋下氏と関電。だが全面対決を回避する道がないわけではない。お互いの利害が一致し、協力できる分野が少なくないからだ。




 例えば橋下氏の金看板である大阪都構想。この実現には関西企業の支援や後押しが欠かせない。12月15日、関西経済同友会の代表らと面談した橋下氏は「経済界も政治に中立とばかり言わず、覚悟を決めて都構想と道州制の実現に加わってほしい。全国公募する区長にも企業幹部を出してもらえないか」と切り出した。都構想の実現に先駆けて大阪市のスリム化を手がける構えだが、地下鉄やバスの民営化では受け皿企業が必要になる。




 道州制でも経済界と方向性は同じ。そもそも現在の関西広域連合は、道州制を主張する関西経済界の後押しで2010年12月にスタートした経緯がある。広域連合の構想は、03年に関電の秋山喜久会長(当時)がトップだった関西経済連合会(関経連)の提唱した関西州に端を発している。




 利害の一致は意外なところにもある。北陸新幹線の延伸問題だ。北陸新幹線は14年度に長野~金沢間が開業予定。福井、敦賀までは政府の着工許可を待つ段階で、大阪まで延伸できるかが注目されている。橋下氏は府知事時代、延伸が関西活性化に不可欠として、関連自治体にルート案の協議を呼びかけた経緯がある。関西広域連合も10月に北陸新幹線の検討部会を立ち上げた。

福井県は関電の原発11基すべてが立地し、原発再稼働の判断でカギを握る。関西経済界や関電の一部には北陸新幹線の延伸で福井県を後押しすれば原発再稼働もスムーズに進むのでは、との期待がある。「首都機能の補完は関西の役割」と掲げる関経連の会長は関電の森詳介会長。森会長は新幹線整備を重視しており、予算編成時期の11月中旬にも都内で開いた国土交通省幹部との朝食会で延伸着工を働きかけている。

東京電力の福島第1原子力発電所事故を受け、今のところ福井県の西川一誠知事は国の安全基準などを求めて原発再稼働に慎重な姿勢を示している。ただ原発は雇用や税収の面で基幹産業でもある。


■「中之島の合戦」に突入するか




 そんな内情は、西川知事が6月に都内の日本記者クラブで臨んだ講演でも垣間見えた。講演は震災後の国土政策をテーマに、電力消費地の大都市を支える東北や福井の存在を強調するものだったが、報道陣が目を丸くしたのが資料に記されたある1ページの内容。北陸新幹線の整備こそ、太平洋側に偏った交通網の代替ルートになると提示されており、司会者から「新幹線が原発再稼働とどう関係するのか」と問われる始末だった。




 関電は今年春から東京支社の渉外スタッフを増員するなど、原発政策や政局の行方に神経をとがらす。選挙後に関電首脳が橋下氏と接触した形跡はないが、関電と大阪市は同じ市中心部の中之島に本拠を置く。近くて遠い両者が「中之島の合戦」に突入するのか、それとも協調に向かうのか、なお予断を許さない状況だ。




 「維新の会の隆盛に恐ろしさを覚えるが、橋下さんの主張は状況を読んで変化する。落ち着いて発言に耳をすませたい」。様々な利害関係が絡み合うなか、関電の橋下氏を見る目は複雑に揺れ続けている。