HOME6. 外国金融機関 |コロナウイルス懸念での景気減速、カーボンクレジット価格も急落。欧州排出権取引制度(EU-ETS)のEUA価格、年初来約4割減。リーマン危機後の暴落再現の懸念も(RIEF) |

コロナウイルス懸念での景気減速、カーボンクレジット価格も急落。欧州排出権取引制度(EU-ETS)のEUA価格、年初来約4割減。リーマン危機後の暴落再現の懸念も(RIEF)

2020-03-25 12:27:22

EUA1キャプチャ

 

  新型コロナウイルス感染の影響で、世界中の金融市場が下落しているが、カーボンクレジットも同様だ。EUの排出権取引制度(EU-ETS)のクレジット(EUA)価格は年初比約40%以上下がって一時、15 ユーロ(約1800円)前後となった。経済活動が収縮すると、CO2排出量も減るため、クレジットへの需要も減退するわけだが、2008年のリーマンショック時には5ユーロまで下がっており、その再現への懸念も出ている。

 

 EU-ETS市場のベンチマークの「2020年12月契約先渡し」は、3月11日の時点で23.90ユーロだったが、先週は一時、15ユーロにまで下落した。年初には27ユーロ前後まで上昇、欧州委員会の「欧州グリーンディール(EGD)」政策の打ち上げで、早晩、30ユーロ乗せの期待も高まっていたが、コロナによって一気に局面が変わった。

 

 先週のカーボン市場の動向について市場関係者は「フリーフォールでパニックモード」と表現する。EUAへの需要は、EU-ETSの対象となっているカーボン高排出企業が、目標とする排出枠を超えてCO2を排出する際に、超過分を市場からクレジットとして買う需要に支えられている。企業活動が縮小すれば、CO2排出量も減るのでクレジット需要も減る。

 

 コロナウイルス対策で、欧州自動車大手のフォルクスワーゲンやフィアット等は一斉に、操業を短縮・停止等の措置をとっているほか、航空会社、鉄道会社等も人々の移動の自粛や制限等で、便数や本数を減少させている。こうした企業活動の急減がクレジット需要を減らす一方で、余剰クレジットの供給力を高める形になっている。

 

 その意味で需給構造の急変を反映したカーボン価格の下落は、市場原理が働いた結果ではある。しかし、カーボン取引関係者が恐れるのは、2008年のリーマンショック後の市場崩壊局面と類似しているためだ。当時も一時、カーボン価格は30ユーロ前後まで上昇していたが、リーマンショックで世界中の市場が縮小した影響を受け、カーボン価格は5ユーロ台にまで下落した。

 

 その後、欧州通貨危機へと発展、欧州経済の立て直しと、EU-ETS市場の入札制度の改革や、価格調整のための市場安定化リザーブ(MSR: Market Stability Reserve)制度等を導入し、ようやく市場にあふれたクレジット供給量を整理してきたという経緯がある。

 

 EU-ETS市場は年初来、コロナ懸念や原油相場の下落等で、やや弱含みだった。しかし、今月11日まではEGDへの期待等もあって比較的堅調に推移してきた。だが、12月物フォワードの契約が6%下落したことをきっかけに、6日には20ユーロの壁をあっさり割って、下落加速が続いている。15ユーロ台に下がったのは2年ぶりだ。

 

 このためドイツで予定されていた270万クレジットの入札はキャンセルされた。ただ、EU離脱決定後もEU-ETS取引にとどまっている英国の570万クレジットの入札は予定通り行われた結果、先週末のカーボン価格は16ユーロ台で終わっている。英国のEUAクレジット入札価格は16.11ユーロで2週間前に比べて30%以上の安値だった。今回は英国の入札が一定の歯止め役を果たした形だ。

 

 だが、その英国は2021年1月にはEU-ETSからも離脱する予定。EU-ETSの約10%の取引規模を持つ英国が離脱後のクレジット価格への影響も懸念材料だ。こうした状況から、加盟国内からの不協和音がすでに浮上している。ポーランドの国家資産副大臣のJanusz Kowalski氏は地元紙に対して、「経済危機からの立て直しを優先するため、EU-ETSは2021年1月でもって中止すべきだ」との発言をしている。

https://ec.europa.eu/clima/policies/ets_en