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中国のグリーンボンド市場の「グリーニアム(グリーン性プレミアム)」。上海市場で「0.47%」。アンケートで中国金融機関のグリーン性選好明瞭に。日本の研究者が論文(RIEF)

2024-12-10 11:54:07

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写真は、中国の上海証券取引所=Wikipediaから)

 

 国別で世界第一位の発行規模を誇る中国のグリーンボンド市場で、同ボンドが他の債券に比べて低利回りで発行できる、グリーン性のプレミアム(グリーニアム)が平均で0.47%と推計されることが、日本の研究者の論文で明らかになった。これまでの研究論文でも中国のグリーンボンドのグリ―ニアムの推計は示されていたが、今回の調査では実際に同ボンドに投資をする金融機関や機関投資家を対象としたアンケートに基づいており、グリーニアム値は従来の推計よりも高い値となった。中国では、さらなるグリーンボンド発行に対しても、機関投資家は十分に投資する潜在性を備えていることが示されたといえる。

 

 研究論文を発表したのは東京短資株式会社所属の善野吉博氏(経済学博士 : 埼玉大学)。論文は「 An Empirical Study on the Chinese Green Bond Market : An Institutional Investors’ Perspective (機関投資家の視点に立った中国グリーンボンド市場の実証研究)」との表題。同氏はこれまでも中国の同市場を分析する論文を複数、発表している。

 

 従来も中国で発行されるグリーンボンドのグリーニアム推計は示されてきた。中国市場では、利回りをはじめ、すべての同ボンドの既存取引データは金融当局や取引所等で管理されている。このため、これらのデータを踏まえ、利回り以外を同等条件とする一般債券と比較する方式(マッチング法)での評価が一般的だった。これに対し、善野氏の手法は、投資家の実際の選好インセンティブを把握するため、上海金融市場で取引を行う金融機関、機関投資家600社を対象にアンケートを実施、同ボンドに投資する際の判断要因等を聞き出す手法を採用した。

 

 採用した手法は、環境の価値算出に広く使われる仮想評価法(CVM)の二段階二項選択法。仮想評価法はアンケートにより人々の「環境」に対する支払意思額(WTP)を直接聞くことで、通常は市場取引の対象とならない財(効果)の価値を計測する方法だ。二段階二項選択法はアンケート回答者のWTPを、二段階に分けて確認することで、評価額の推定値を効果的に測定できるとされる。

 

 論文では、中国最大の金融市場がある上海の機関投資家や金融機関等に勤務する投資担当者600名を対象として直接アンケートを実施し、グリーンボンドの利回りが同等条件の一般債券の利回りと、どの程度利回りの差があれば投資するか、という判断を質問した。

 

 アンケートは無作為抽出が可能なオンライン調査会社「問巻網」社を使い、2021年10月23日から11月1日に行った。同社が集計するアンケート調査によるデータは、中国だけでなく世界の学術論文でも多く利用されており、信頼性と妥当性(信度と効度)の点で高く評価されているとしている。

 

 分析の結果、上海市場でのグリーンボンドのグリーニアムの推計値は0.47%となった。つまり、上海の投資家は同等条件の一般債券とグリーンボンドの両方の投資機会がある場合、グリーンボンドの利回りが一般債券より0.47%低くてもグリーンボンドへの投資を選好することが示されたとしている。

 

 従来のグリーニアム推計の研究では、既存取引データに基づいて推計することから、投資家の実際の投資判断がどう影響しているかは十分に把握されていなかった。だが、今回の調査で、投資家のグリーン性選好意欲が利回りの低下として明確に示されたとしている。

 

 また論文では中国市場において、どのような要因がグリーニアムに影響を及ぼすのか、についてもアンケート調査で分析した。同アンケートの実施に際しては、新型コロナウイルス感染の影響で、上海を含む一部地域でロックダウンが起きたことから、中国第二位の金融市場である北京と同第三位の深圳を対象地域とした。アンケートは、両市場の機関投資家等に勤務する投資担当者各600名(総計1200名)を対象に、前回と同様にオンライン調査を実施した。調査期間は2022年8月19日から9月1日の13日間。

 

 調査では、グリーニアムの構成要件として先行研究に取り上げられたグリーニアムに影響する説明変数から8要因を選定し、どれが投資判断の有意な決定基準になるかを質問した。選定した8要因は、①具体的な発行体の信用格付②発行体の業種③資金使途④債券の流動性⑤債券の償還期間⑥ラベル(認証)の有無⑦発行前の説明・発行後の報告⑧具体的な債券の通貨(人民元)である。

 

 その結果、北京市場では、グリーニアムに有意な影響を与える要因として、「具体的な発行体の信用格付」、「債券の流動性」、「債券の償還期間」、「具体的な債券の通貨(人民元)」があがった。深圳市場では、「資金使途」、「債券の流動性」、「債券の償還期間」、「具体的な債券の通貨(人民元)」があがった。

 

 「発行体の信用格付」については、北京では個別の発行体について有意な要因とされたが、これまでの先行研究でグリーンボンドに寄与するとされた「ラベル(認証)の取得」は今回の調査では有意な要因とはみなされなかった。機関投資家等は、検証機関等による認証について投資判断上、あまり重きを置いていないということにもなる。また、両市場での調査では北京・深圳両市場のグリーニアム推計も実施した。北京市場では0.33%、深圳市場では0.36%と、いずれも上海市場のグリーニアムを下回った。

 

 北京・深圳両都市で「債券の流動性」「債券の償還期間」「具体的な債券の通貨(人民元)」がグリーニアムに有意に影響を与える要因、との結果が出たことで、論文は「投資家はグリーンボンド投資に際し、これらの3要因を重要な判断要因としていることが示唆された」としている。

 

 善野氏は今回の調査結果を踏まえて、「中国のグリーンボンド市場のさらなる発展には①十分な発行規模のボンドを発行し、市場の流動性に配慮する必要がある②発行体は債券の償還期間に注意して発行する必要がある③発行通貨は人民元建てとする」との3要件を提言している。また上海市場だけでなく、北京・深圳両市場でもグリーニアムが確認されたことで、「中国のグリーンボンド市場にはさらなる市場拡大の潜在性がある」と指摘している。

https://sucra.repo.nii.ac.jp/records/2000514