HOME |COP26:カーニー氏とグレタ世代が「対決」。「ネットゼロ」実現に向けた、オフセットクレジットの活用は有効か、先進国での汚染継続の便法か。日本のJCM活用にも懸念の目(RIEF) |

COP26:カーニー氏とグレタ世代が「対決」。「ネットゼロ」実現に向けた、オフセットクレジットの活用は有効か、先進国での汚染継続の便法か。日本のJCM活用にも懸念の目(RIEF)

2021-11-06 01:20:56

Carney0003キャプチャ

 

 英グラスゴーで開催中の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で、「ビッグファイト」が浮上した。TCFDを推進してグローバルな経済界、金融界を気候変動対応に動かせるのリーダーシップを発揮した元イングランド銀行総裁のマーク・カーニー氏と、気候変動のための学校ストライキを実践、世界中の若者たちを巻き込んできたグレタ・ツゥーンベリさんが代表する若者たちとの「対決」だ。

 

 (写真は、カーニー氏の声明に対して、抗議を表明する若者たち。後ろ姿がカーニー氏=ツィッターから)

 

 熟練の金融マンと、将来不安の解決を求める若者たちの対峙は、COP26の最大テーマである「ネットゼロ」実現の手段として、カーボンオフセット等のクレジットを活用することが有効かどうかでの意見対立だ。

 

カーニー氏㊨と若者たちの「対峙」
カーニー氏㊨と若者たちの「対峙」

 

 カーニー氏はTCFD提言をマイケル・ブルムバーグ氏と仕上げた後、国連の気候大使やCOP26の英首相アドバイザ―等の立場でネットゼロへの道筋の整備に取り組んでいる。同氏は現在、金融機関を巻き込んだ「ネットゼロのためのグラスゴー金融連合(GFANZ)」を主導している。新興国や途上国でのネットゼロを推進するため、カーボンオフセットクレジットの大規模な開発も呼び掛けている。

 

 カーニー氏はCOP26の場で、GFANZの活動へ世界の450以上の主要金融機関(保有資産額130兆㌦)が参加し、「2050年ネットゼロ」に適合する科学に基づいた目標を設定したと公表した。同氏は「GFANZはネットゼロのゴールドスタンダードだ。参加機関は2030年までの半ばごろまでに、新興国や途上国のネットゼロ移行に必要な年1兆㌦の追加投資を提供できる」と胸を張った。

 

 しかし、GFANZの参加機関等を分析したレポート(Reclaim Finance)によると、①「Race to Zero」のクライテリアは化石燃料に対する言及がない②参加金融機関は対象とする企業にScope3の削減義務を求めていない③明瞭な削減数値目標の設定がない④削減手段として自らの削減だけでなく、カーボンオフセットの利用を認めている等の「課題」を指摘している。

 

 またGFANZと協働する形の、国連主導の「Net Zero Asset Owner Alliance」は、新規の石炭鉱山や石炭火力への投資の停止を呼びかけているが、同Allianceに参加した金融機関には、そうした行動を要件として設定していない。実際にAOA署名機関58のうち半分以上の34機関は10月半ばの時点で、石炭事業者への投資制限方針を欠いていたと分析されている。レポートは、「AOAやGFANZには基本的な欠陥がある。それは化石燃料や、排出削減の絶対量についてのクライテリアを欠いている点だ」と批判している。

 

 グレタさんらはこうした分析を受け、ツィッターで、AOAやGFANZの活動を「グリーンウォッシュ警戒」の対象と断定した。「化石燃料産業や、そこに融資する銀行は、最大級の気候悪党だ。彼らにカーボンニュートラルの名目でオフセットクレジットを買うことを認めることは、汚染のフリーパスを与えるようなものだ」と切り捨てた。https://rief-jp.org/ct6/118813

 

 カーニー氏に若者たちの批判の矛先が向けられるのは、同氏が主導する形で、企業の排出量削減に貢献する自主的オフセットクレジット市場づくりを推進している点が大きい。同氏がクレジット市場の拡大に力を入れるのは、先進国等の炭素集約企業の脱炭素化が容易ではない一方で、新興国、途上国でのオフセット事業を拡大することで、クレジット売買によって途上国等に気候対策資金を流す循環を作ろうとの狙いもあるとみられる。

 

 しかし、カーニー氏が声明を発表した場では、グレタさんたちと協働するグリーンピースの代表のJennifer Morganさんや、Action AidのTeresa Andersonさんらが、「あなたのタスクフォースは、詐欺だ」と大書した抗議のプラカードを掲げて批判した。

 

 COP会場内での抗議活動は認められていない。このため、Morganさんらは会場から排除される事態となった。しかしオフセット事業への批判は会場の外で集まった先住民の活動家らも強調した。「オフセット事業の名目で、われわれの土地や自然資源を奪い去るものだ」との指摘だ。

 

 グレタさんもツィッターで「COP26はもはや気候会議ではない。『グローバルノース(先進国)』のグリーンウォッシュ・フェスティバルだ。2週間のビジネスアズユージュアル(BAU)会議だ」と皮肉った。

 

 国連事務総長のアントニオ・グテレス氏はこうした気候政策のリーダーと若者たちの「対決」に困惑を示した。オフセットの有効性を巡る議論は、今回のCOPでの焦点の一つであるパリ協定の6条に基づくグローバルなカーボン排出権取引制度のためのルールを構築できるかどうかという交渉にも影響を及ぼしそうだ。

 

 グローバルな排出権取引制度は、他の国での排出削減で産み出されるクレジットを購入した国が自国の削減量にカウントできるようにするものだが、購入した国が自国の削減努力を十分にせず、クレジット輸入で埋め合わせる行動を広げるリスクも指摘されている。日本政府は、アジア等でCCUS付の石炭火力発電を開発し、その削減分を二国間クレジット(JCM)として大量に購入する計画を進めており、典型的な「疑惑のクレジット利用」とみなされている。

 

 今回のCOPでの交渉で、6条問題が解決できたとしても、若者やNGOらが、クレジット活用をすんなり受け入れる状況にはない。彼らは「各国政府は自国での排出削減にフォーカスすべきだ」という立場だ。Action AidのAndersonさんは「カーボンオフセットは『気候サボタージュ』を意味する」とし、「COP26が成功とみなされるのは、カーボン市場を拡大する代わりに、むしろ縮小するイニシアティブが必要だ」と主張している。

 

https://www.gfanzero.com/press/amount-of-finance-committed-to-achieving-1-5c-now-at-scale-needed-to-deliver-the-transition/

https://reclaimfinance.org/site/wp-content/uploads/2021/11/FINAL_GFANZ_Report_02_11_21.pdf