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国際環境NGO「350.org Japan」代表の横山隆美さん。9月に退任へ。米系AIUからNGO代表に転じて3年余り。社会的責任を自ら実践。「手応えはあった」と(RIEF)

2022-07-23 23:24:48

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  国際環境NGOの350.org の日本支部代表を務めている横山隆美さんは、米国系保険会社のAIU(現AIG損害保険)に40年以上務めて退任後、転じたことで知られる。若者たちからは「タカさん」と親しみを込めて呼ばれているが、今年の9月末で退任する。350.org Japan代表として3年余り。横山さんは、自らの「実践NGO活動」の手応えを実感している。

 

 横山さんが、AIUを退職後、NGOに転じたのは、保険会社で同僚だったある米国人のアドバイスによる。それは「りっぱな市民になるためには、家庭に対する責任、仕事に対する責任、社会に対する責任、この3つの責任を果たさなければならない」との言だ。

 

 横山さんは「自分を振り返ってみると、仕事は一生懸命やってきた。家庭の方も、妻がどう評価するかは別として、忙しい中で、まあまあやっていたと思う。ところが社会的なことはほとんど何もできていなかった。そういう負い目があった」と明かす。

 

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 AIU時代の後半、グループの傘下に入った富士火災海上保険の社長を務めた後、65歳で退任。「社会的責任」の実践に動いた。学生時代から関心のあった環境問題にかかわるべく、350.orgのボランティアになったのだ。富士火災の社長時代も、気候変動の影響による自然災害増で保険金支払いが増えていることも気がかりだった。

 

 当初、アル・ゴア元米副大統領が立ち上げた「Climate Reality Project」に参加しようと思っていた。ところが、カナダのジャーナリスト、ナオミ・クラインの「これがすべてを変える」を読んだところ、クラインが350.orgの理事をしており、その事務所が日本にもあることを知った。電話をしてみたら「来てください」。面接後、ボランティアになった。

 

 350.org(本部ニューヨーク)は2008年に若者たちが立ち上げ、石炭火力発電に関連する企業や金融機関へのダイベストメント(投融資引き揚げ)運動をグローバルに展開している。横山さんは若者たちに混じり、イベントや街頭でのデモ活動等にも積極的に参加した。そのうちに、前任の代表がアジア代表に転じて、日本支部代表ポストが空いた。

 

 ボランティアとして、イベントの受付等も積極的にこなしたが、何か物足りない。もう少し深く入りたいなとの気持ちもあったという。そこで手を挙げ、筆記試験と面接を受けて選出された。2019年5月に代表に就任した。

 

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 横山さんはこれまでの活動の手応えを振り返る。「私たちは団体の考え方として、資金の流れを変えて100%再エネ社会を作ることを目指している。なので銀行等とはよくコンタクトする。以前は、こちらから出かけて説明していたが、最近は、銀行の方もよく話を聞いてくれるだけでなく、向こうからも声がかかってくることもある。今回こういう方針を出すので説明したいとか」

 

 350.org Japanの活動は、金融機関への直接コンタクト行動だけではない。昨年は三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、今年は三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)を対象に、他のNGOと協力して株主提案行動も展開した。

 

 「それなりの変化が感じられるのは、銀行が出す、いわゆる脱炭素経営の方針が具体的に積みあがっている点にも表れている。改善策は毎年のように追加されており、その点で成果があったと思っている。しかし、欧米の金融機関に比べると、やはり動きは遅い」

 

 「冗談半分だが、(銀行は)毎年方針を強化する。そうすると毎年指示をし直さないといけなくなる。だったら、初めからもっと思い切ったことをやれば一回で済むのにと、銀行の人に言ったこともある」と笑う。

 

 「ただ横並び意識が強い。私も会社にいたのでわかるが、銀行も、保険会社も、この銀行しか、この保険会社にしかできないということはそんなにはない。なので顧客企業に対して、自分のところだけが厳しいことを言うと、じゃあ他に行くよ、となることをすごく恐れる。だから様子を見ながら、少しずつ動く。同調圧力ではないが、他が一歩出るとそこぐらいならとついてくる」

 

  横山さんは米系企業に42年務めた。日米の企業での違いは?

 

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 「顧客企業との付き合い方が、日本の場合、長期的な関係を重視する。なので、それを壊すようなことはなかなかできない。米国ではコマーシャルベースで、一つひとつの案件がペイするかどうかを考える。だから日本では思い切ったことをしにくいが、米国ではし易いということがある。もう一つ、市民の目がある。この企業はグリーンな企業かどうかという市民の目が日本より厳しいのではないかと思う」

 

 NGOを「第二の職場」として選んだことの感想を問うと、「良かったと思っています。ぜひ、みなさんにも勧めたい。会社というのは、当たり前だが、売り上げを上げて、利益を上げて、社員の給料も上げて、大きくしていくというゲームのようなもの。これに対してNGOは理念が先なので、ちょっと違うのと、お金の匂いが全くしない」

 

 「さらに驚いたのは、すごくインターナショナル。環境問題というのは本当に国際的な問題で、ものすごく広がりがある。今も、国際的なNGOの連帯のグループで、他の国の人たちとオンライン会議を毎月やっている。これが普通。私は国際的な企業にいたつもりだが、こちらのほうがよほど国際的ですね」

 

 350.org Japanを退任後も、別のNGOの活動に参加するという。さらなる手応えを求めて「タカさん」の社会的責任を追い求める活動はまだまだ続きそうだ。

https://world.350.org/ja/

                           (藤井良広)