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国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)の新事務局長に、人口11万人の小国、グレナダの前環境相のサイモン・スティル氏有力。大国にも物おじしない度量と交渉力への期待高く(RIEF)

2022-08-13 22:43:06

Grenadaキャプチャ

 

 国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)の新事務局長に、人口11万人の小国、グレナダの前環境相のサイモン・スティル(Simon Stiell)氏の指名が有力になった。アントニオ・グテレス国連事務総長が近く決定する。同ポストは国連の気候変動枠組み条約締約会議(COP)を実質的に仕切る重責を担う。温暖化の進行で海面上昇の危機にさらされている島嶼部諸国の環境エキスパートを起用することで、これまでの先進国と途上国間の駆け引きや、中国等の成長重視の新興国の時間稼ぎ等を排して、緊急、迅速な気候対策の実施を牽引する役割が期待される。

 

 UNFCCの事務局長は、2016年以来、7月までメキシコの外交官だったパトリシア・エスピノーサ氏が務めていた。同氏の前は、コスタリカの外交官だったクリスティアーナ・フィゲレス氏が務めた。したがって、スティル氏が就任すると3代続けて中南米から選ばれることになる。エスピノーサ氏退任後、現在は国連の事務次長と国連砂漠化条約事務局長を兼務しているイブラヒム・ティアウ氏が事務局長代理を務めている。https://rief-jp.org/ct4/60797

 

 現在、スティル氏がUNFCCC事務局長の最有力と目されているが、前任のエスピノーサ氏時代に副事務局長を務めたインド出身のOvais Sarmad氏も名乗りをあげているほか、他にも候補とされる人物もいる。

 

 スティル氏は、気候変動の進展で海面上昇のリスクに直面している島嶼部諸国を代表する形で、気候変動政策の推進を主張してきたベテランの環境エキスパートとして知られる。これまでも、グローバルな温暖化交渉の場で、気候対策に慎重な姿勢を崩さない中国等の新興国に対して、迅速な排出削減を要求する論戦を挑んだり、先進国から途上国への気候ファイナンスの強化を求める活動を展開し、米欧等の富裕国と対立するなど、大国の論理に屈しない「気候正義」に基づく交渉を展開してきた。

 

 グレナダはコロンブスに発見された島(旧名、コンセプシオン島)を中心に、周辺の島々で構成する島嶼部国家。丘が広がる本島には、いくつものナツメグ農園があり、「スパイス島」とも呼ばれる。英領から独立後、左派の人民革命政府が樹立されたが、米国の侵攻で親米政権が誕生するなど、数奇な変遷を経ている。

 

 スティル氏はロンドンのメトロポリタン、ウェストミンスターの両大学でエンジニアリングとビジネスを専攻後、90年代は英国の技術会社に勤務した。その後、グレナダに戻り、不動産開発会社を設立、さらに同国のツーリズ協議会の議長、商工会議所の副議長等の要職を務めた後、2013年に同国の上院議員になった。政治家としては、農業相、教育相等を務め、2018年3月から気候レジリエンス相に就任した。

 

 環境相時代、彼は同国のツーリストリゾートの開発を促進する一方で、海洋汚染の元凶である廃プラスチック問題に取り組んできた。国際的な気候変動交渉では、島嶼部諸国や小国の利害を代表する役割を演じ、EU等の富裕国とグラナダのような小さく、貧しい国同士の連合体である「High Ambition Coalition」の議長になるなど、大国等の利害を超えて、温室効果ガス削減の促進を重視する活動を主導してきた。

 

 昨年のCOP26でも、議長を務めた英国のAlok Sharma氏はスティル氏とデンマークの環境相Dan Jørgensen氏の2人を、パリ協定が目指す「1.5℃」目標を維持するために、各国がいかに自国の排出削減を促進するかという課題でのリーディング・コンサルテーションの担当に任命したほどだ。スティル氏の強みは、政治的駆け引きだけでなく、気候科学と気候技術に基づく知見を「スパイス諸島」出身者らしく「スパイス」として活用するなど、大国にも物おじしない度量と交渉力にあるとされる。

 

 前任のエスピノーサ氏は、パリ協定に基づいて、同協定を具体化するルールブックの制定や、各国が示した国別達成目標を国内法で担保することを後押しすることに注力してきた。昨年のCOP26でそうした取り組みは一定の成果に達し、グローバルなカーボン市場構築についても同意が得られている。

 

 UNFCCCはそうしたこれまでの成果を踏まえて、「実施」を推進するフェーズに入っている。ベテランの気候アドバイザーのKaveh Guilanpour氏はメディアに対して、「われわれは外交の世界を超えて、実行のための直接の経験が必要になっている」と述べている。事務局長に選ばれると、同氏には、駆け引きの時代から実行・実践の時代へのシフトを象徴する活躍が期待されている。

https://www.climatechangenews.com/2022/08/12/grenadas-simon-stiell-set-to-be-appointed-un-climate-chief/

https://unfccc.int/about-us/the-executive-secretary