日本政府の「グリーン・トランスフォーメーション(GX)戦略」は、脱炭素化を遅らせる「誤った対策(ウォッシュ政策)」。内外の環境NGO、市民団体約50機関が共同声明(RIEF)
2022-09-21 23:58:56
内外の環境NGO約50団体が、岸田政権が推進する「グリーントランスフォーメーション(GX)」戦略には、「脱炭素化を遅らせる『誤った対策』が含まれる」と批判する共同声明を公表した。「誤り」の代表例として既存火力発電所での水素・アンモニアの混焼技術をあげ、「化石燃料インフラの延命にしかつながらない」とした。天然ガス火力もグローバルには2045年までに、先進国ではもっと早く廃止する必要があるとし、GX戦略からの除外を求めている。「GXと称する『グリーンウォッシュ政策』」への真っ向からの批判だ。
共同声明を公表したのは、環境NGOのFoE Japan、同350.org、「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、メコン・ウォッチ、気候ネットワーク(KIKO)の5団体を呼びかけ人として、アジア、太平洋州、欧米等のNGOら47団体。
日本政府は、GX戦略をアジア諸国にも拡大しようとして、今月26日からアジアの代表も招請して東京でイベント「東京GXウィーク」を開く予定だ。NGOらはこうした日本政府の姿勢を踏まえて、GX政策がアジア諸国を巻き込んで「グリーンウォッシュ」を促進するリスクがあると批判。「誤ったGX戦略」のアジアへの拡大を阻止するために、同戦略の問題点を列挙・整理し、見直しを求める声明を公表した格好だ。
共同声明では、まず、今夏、グローバルに干ばつが広がったほか、パキスタンでは6月からの豪雨被害の長期的影響で国土の3分の1が水没するという未曽有の事態に陥ったことを指摘し、「気候危機は喫緊の課題」との問題意識を強調した。こうした課題克服のために必要なことは、化石燃料依存からの脱却なのに、「日本政府が掲げるGX戦略には、脱炭素化を遅らせる『誤った対策』が含まれる」との懸念を表明した。
GX戦略に盛り込まれた「ウォッシュ対策」の代表例として、水素・アンモニアを燃料とした既存の火力発電インフラでの混焼技術をあげた。水素・アンモニアは燃焼時に温室効果ガス(GHG)を排出しないが、その製造や輸送の過程で多くのGHGを排出する。現在、普及している商業アンモニアの製造方法は、ガスなど化石燃料を原料としており、最新鋭設備でも、1㌧のアンモニアの製造に約1.6㌧のCO2が排出されると指摘している。
同様に、GXが推進する水素も化石燃料から製造される「ブルー水素」等がほとんどで、「脱炭素」燃料とは到底言えない、とした。ブルー水素混焼は、通常のガス火力発電以上にGHGを排出するとの研究も踏まえ、「水素・アンモニア混焼の推進は火力発電の温存・延命につながる」と批判している。
日本政府は天然ガス(LNG)についてもGXで重視している。ガス取引市場での日本のプレゼンスの確保やガス市場の拡大を見込み、アジアにおけるLNG市場創出・拡大を推進、LNG産消会議を主催し、数百億㌦規模の資金支援や人材育成支援を表明している。しかし、NGOらは、「こうした対策は日本のエネルギー安全保障の名の下に行われているが、化石燃料であるガスをアジア地域で推進することは、気候変動対策と逆行するだけでなく、現在高騰しているガス価格によって日本を含むアジア諸国のエネルギー供給をますます不安定なものにする」と批判している。
共同声明では、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、現在稼働中・計画中の天然ガスを含む化石燃料インフラを想定年数稼働すると、それだけで2℃を超える温度上昇につながる量のCO2が排出されると試算していると指摘。電力源の中で最も多くのCO2を排出する石炭火力発電所は、先進国では2030年までに、その他の国も2040年までに廃止する必要があるが、石炭だけではなく、ガスを含めた化石燃料の生産自体も減少させる必要があると強調している。
天然ガスの主成分はGHGのメタンである点を強調。これまでメタンの温暖化への寄与度は過小評価されてきたとして、人為的なメタン排出の4割を占めるのがエネルギー由来であり、メタン排出削減の観点からもガス火力発電等の利用抑制、フェーズアウトが求められるとしている。
LNG開発で生じる環境社会面での問題にも触れている。例えば、日本の公的金融機関である国際協力銀行(JBIC)と大阪ガスが出資者であるフィリピン・バタンガス州のイリハンLNG輸入ターミナル事業は、「海のアマゾン」として知られるヴェルデ島海峡(The Verde Island Passage: VIP)の豊かな海洋生態系に悪影響を及ぼすと批判されているとしたほか、日本の官民が海外で推進してきた多くのガス開発事業で、現地の環境破壊や先住民族に対する人権侵害が報告されていると指摘している。
化石燃料事業が抱えるこうした課題にも関わらず、日本政府は石炭火力発電事業への公的支援にとどまらず、内外でのガス・石油事業への公的資金の投入額も世界最大級になっている。オイル・チェンジ・インターナショナルとFoE U.S.の調べによると、日本は2018年から2020年にかけて石油、ガス、石炭事業に少なくとも年間109億㌦ (総額1880億㌦) を供与した。
公的金融機関を通じた日本政府の海外の化石燃料事業への政府支援額は、日本の再生可能エネルギーに対する国際支援 (年間平均13億㌦)の8倍以上だったと指摘し、GXが再エネ等のグリーン資源より、ブラウン(化石燃料)資源にシフトしている点に疑念を示している。日本は2012年から2020年までの期間ではグローバルな化石燃料事業への最大の融資国である点にも懸念を示している。
2022年のG7首脳会議で採択されたコミュニケでは、G7諸国は、2022年末までに、排出対策の講じられていない化石燃料エネルギーセクター(天然ガスを含む)への新規の国際的な公的支援を終了することに条件付きでコミットした。共同声明は、日本政府が現在、海外でも推進しようとしている水素・アンモニア混焼技術が、このコミュニケが条件とする「排出対策」の一部として含まれるようなことがあってはならない、とクギを刺している。
呼びかけ団体
FoE Japan、350.org、「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、メコン・ウォッチ、気候ネットワーク
賛同団体
Asian Peoples Movement on Debt and Development、Oil Change International、350.org Asia、Mighty Earth、Friends of the Earth Australia、Bangladesh Adivasi Samity、Bangladesh Bacolight Shramik Federation、Bangladesh Bhasaman Nari Shramik、Bangladesh Bhasaman Shramik Union、Bangladesh Bhumiheen Samity、Bangladesh Jatra Sabha、Bangladesh Jatyo Shramik Federation、Bangladesh Kishani Sabha、Bangladesh Krishok Federation、Bangladesh Rural Intellectuals’ Front、Bangladesh Sangjukto Shramik Federation、Bangladesh Shramik Federation、Charbangla Bittoheen Samobay Samity、Emarat Nirman Shramik Bangladesh、Ganochhaya Sanskritic Kendra、Jago Bangladesh. Garment Workers’ Federation、Motherland Garment Workers’ Federation、Ready Made Garment Workers’ Federation、Bangladesh Poribesh Andolon、Friends of the Earth England, Wales and Northern Ireland、Les Amis de la Terre France、The Greens Movement of Georgia/FoE Georgia、AEER、Trend Asia、WALHI、WALHI Jawa Barat、Otros Mundos Chiapas/Amigos de la Tierra México、Pakistan Fisherfolk Forum、350 Pilipinas、Center for Energy, Ecology and Development (CEED)、Oriang Women’s Movement Philippines、Philippine Movement for Climate Justice (PMCJ)、Legal Rights and Natural Resources Center-Friends of the Earth Philippines、Korea Federation for Environmental Movement、Jordens Vänner / Friends of the Earth Sweden、Friends of the Earth US、ActionAid International Vietnam
https://www.kikonet.org/info/press-release/2022-09-21/GX-week-joint-statement