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第8回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑨NPO/NGP賞:環境NGO「350.org Japan」。三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)に対する株主提案の実施(RIEF)

2023-02-27 12:07:47

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写真は、㊧からサステナブルファイナンス大賞審査委員の佐藤泉弁護士、前350.org Japanの渡辺瑛莉氏(現、マーケットフォース)、個人株主の山崎鮎美氏、環境金融研究機構の藤井良広)

  環境NGOの「350.org Japan」は、他のNGO団体等と共に、2022年4月に三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)に対して気候変動対策の強化を求める株主提案を行いました。6月の株主総会で否決されましたが、一定数の投資家の賛同を得たほか、同提案を踏まえ、SMBC自体が「気候変動方針」を強化するなどの影響を与えました。同活動を評価し、第8回サステナブルファイナンス大賞のNPO/NGO賞に選びました。同団体のシニア・キャンぺーナーの渡辺瑛莉氏(現マーケット・フォース日本エネルギー金融キャンペーナー)にお聞きしました。

 

――三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)を対象に気候変動対策の強化を求める株主提案を出そうとした理由を教えてください。

 

  渡辺氏  :  理由の一つは、ネットゼロを目指すためには、新規の化石燃料の供給や新規の石炭、あるいは石油・ガスの開発等の余地が全くないことが、国際エネルギー機関(IEA)や、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)等で科学的なコンセンサスになっている中で、実際には金融機関による化石燃料の投融資が続いている状況があります。SMBCに対する株主提案を検討し始めたのは、2021年でした。当時の最新の調査ではSMBCはパリ協定以降、毎年、化石燃料へのファイナンス額を増加させていた唯一の日本のメガバンクでした。

 

 金額的には三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)や、みずほフィナンシャルグループに比べると、SMBCは相対的に少ないですが、毎年ファイナンス額を増加させているという傾向に懸念がありました。本来は毎年減らしていかなければならない中ですから。特にガス(LNG)セクタ―や、北極圏の石油・ガス開発事業等に関しては邦銀の中でも投融資額がトップで、世界の中でも有数の化石燃料ファイナンスの大手でした。

 

 もう一つの理由は、東アフリカ原油パイプライン計画(EACOP)に対して、積極的に財務アドバイザー業務を務めたり、プロジェクトファイナンスのリードアレンジャーを務める等の形で参画している点への懸念もありました。同事業は、大きな環境影響や人権侵害問題が指摘され、世界の主要な金融機関も手を引いたりしています。ある調査では、エクエーター原則の対象となるような大規模な国際的プロジェクトへのファイナンス件数がパリ協定以降、一番多かったのが三井住友銀行でした。こうした点から、同グループの気候対応の変革を求めたわけです。

 

渡辺瑛莉氏
渡辺瑛莉氏

 

 ――株主提案の手応えはどうでしたか。

 

  渡辺氏  :  正直、思ったよりも株主の方々の賛同がありました。われわれの提案や、それに関連した様々な投資家からのエンゲージメントも働いて、SMBCも一定の脱炭素目標の設定や情報開示を進める等の取り組みをしてくれたように思います。もちろん、まだ課題はたくさんあり、われわれとしては「これでよし」というわけではないですが、手応えはそれなりにありました。

 

――株主提案とともに、SMBCとの間で意見交換も重ねられたようですが、「対話」を通じて、銀行側に変化はありましたか。

 

  渡辺氏   :   株主提案ありきではなく、話し合いや、エンゲージメントが肝心です。われわれとしても、銀行に対して、達成してもらいたい水準を示し、正直ベースで話をしましたので、銀行側も真摯にというか、どこまではできそうか、どこからはまだ検討が必要かといった説明があり、従来よりも、より率直な意見交換ができたのかなとは考えています。

 

 株主提案の以前からNGOと銀行との間で、定期的な対話、エンゲージメントはありました。私自身は2019年ごろから共同エンゲージメントに参加しています。当初は、公式発表の話の枠からは出ないような情報交換でした。株主提案については、2020年にみずほ、21年にMUFGと、毎年、NGOから提案がされていたので、SMBCも「次はウチだな」と予測をされていたと思います。ですので、株主提案の前から、エンゲージメントの頻度が増加し、内容もより具体的な課題に及んでいました。

 

――提案後は、どうですか。

 

  渡辺氏  :   提案後、株主総会前にSMBCは気候変動方針を改定・強化しましたので、われわれから意見交換の申し入れをしましたが、結局、SMBCは会合を持ちませんでした。われわれがプレスリリースでSMBCの改定方針の評価を公表したので、彼らはそれで大丈夫という立場だったと思います。提案する前の段階では、評判リスクを管理したいという点から、より密なコミュニケーションがありました。銀行によって対応には違いがあります。

 

――SMBCは、東アフリカでのEACOP事業からの撤退は明言していません。皆さんには、どういう説明をされていますか。

 

  渡辺氏  :   EACOPでの対話は続いています。株主総会の当日も、私が手を上げて、議長のグループCEOの太田純氏から指名を受け、EACOPについて質問をしました。太田氏は「財務アドバイザーとしてEACOPにおかしなことがあれば、われわれが正していく」という趣旨を株主の前で述べられました。そうであるならば今後どうするのですか、という対話は、SMBCの関係部署と続けています。

 

――ここ3年ぐらい、毎年、メガバンクに対して各環境NGOからの株主提案がなされてきました。こうした動きを受けて、メガバンク側の対応に変化はありますか。

 

  渡辺氏   :  対応は、だいぶ変わってきたと思います。株主提案という公式なアプローチによって、トップを含む経営中枢まで、脱炭素や気候変動対策を進めねばならないという課題を一定程度共有できたと感じています。従来はNGOとの共同エンゲージメントの銀行側の担当者は、サステナビリティ担当の方に限られていました。最近では、チーフサステナビリティオフィサー(CSO)の執行役員が出て来られ、自らの言葉で説明されます。話の内容も、こういう風にやっていきたいが、こういう課題があるとか、今後はこうしたい、といった具体的な話をされます。

 

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 コミュニケーションのあり方は銀行によって対応の違いはありますが、実際に公表される気候変動政策の改定内容でも変化を感じます。たとえば、今までは海外の動き等にも「我関せず」「日本は日本」の感じでしたが、今は、海外の先行事例等も研究し、それを意識した対応も見られ、ポリシー改定のスピード感も増しました。ポリシー改定は、数年前ならば、年に1回あるかどうかでしたが、今は、半年に1回あるいは1年に1回以上のペースで改定し、社内でまとめたらすぐに開示し、投資家やステークホルダーにアピールしたい意気込みのようなものも感じられます。

 

――点数をつけるとすると何点ぐらいですか。

 

  渡辺氏  :  点数化は難しいです。ネットゼロを進めるための化石燃料ファイナンスを着実に減らす目標が、各行とも、まだほとんど設けられていないので、合格点には到底達していません。石炭火力発電については各行とも残高ゼロを明言していますが、達成時期は2040年ですし、対象範囲も非常に狭い。最近のTCFDレポートで開示されている石炭火力関連の与信残高と比べると、たとえば、みずほの場合、与信残高の15%しか「残高ゼロ」目標の対象になっていない。つまりプロジェクトファイナンスと設備紐付きのコーポレートファイナンスだけが対象で、企業への一般的貸付は対象外にしているという、大きな抜け穴が透けて見えます。

 

 「残高ゼロ目標」でカバーされている与信残高は、みずほで15%、MUFGが38%、SMBCグループが42%で、いずれも5割にも達していません。株主提案前の2019年の段階では、原則新規融資はやらないと言いながら、例外をたくさん設けてやっていました。それが、2020年のみずほへの環境NGOの株主提案の後ぐらいから、新規の石炭関連向け融資は基本としてやらず、残高も今後ゼロにしていくとして、定量的な目標も立てるようになりました。定量的目標の設定は、われわれが求めていたことなので、大きな一歩だったと思いますが、全体のポートフォリオから比べると、「残高ゼロ」の対象はまだまだ少ない。特に、石油・ガスに関しては、まだ一切投融資OKの状況です。そこもまだメガバンクは世界の競合他社と比べて遅れています。

 

――今年もどこかの金融機関に株主提案をしますか。

 

  渡辺氏   :  それはまだ決まっていません。関係団体等で相談します。ただ、これですべてよしという段階に達しているわけでないのは確かです。最近、フランスのNGO等が共同で出したレポートでは、世界の主要な銀行が、国連主導の「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」に署名・加盟後、2022年8月までに当該加盟行のうち主要50数行が石炭や石油・ガス事業拡大の計画を持つ企業に対して、どれだけ投融資をしたかを調べたところ、石炭に関しては、みずほとMUFG、SMBCがそれぞれ1、2、4位と上位を独占している状態です。このデータは、実際の石炭向けファイナンスがまだ止まっていないことを物語っています。石油・ガス向けも同じです。石油・ガスへのファイナンス額では米銀が首位ですが、日本勢も上位にランクしています。

 

――日本政府も、化石燃料事業を維持する政策を崩していない。

 

  渡辺氏  :  その点は、本当に憂慮されることです。

 

――日本の銀行と海外の金融機関を比べて、気候変動対応の投融資姿勢での違いや「日本的特徴」のようなものはありますか。

 

  渡辺氏   :  日本の金融機関は、企業向けの一般的貸付には気候変動対策に関する条件をつけたがらないという感じがあります。プロジェクトファイナンス等で「脱炭素」に反する事業へのファイナンスは禁止しようとはする。けれども、たとえばJERAのように大量に石炭・ガス火力発電事業を保有する電力会社に対しては、投融資をしないとトランジション(移行)もできないじゃないかと銀行は主張します。欧米の金融機関も、そうしたことを言いますが、それでも一定の基準を設けて、化石燃料ビジネスに依存する企業への投融資を制限するところが増えています。しかし日本の銀行は企業への一般的貸付になかなか手を付けない。これは政府の政策の影響もあるかもしれません。

 

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 LNG事業向けの投融資は、アジアでむしろ積極的に展開しています。ガスは「トランジション」だ、としてファイナンス面で支援しようとしています。われわれNGOの側も、これまでは、まずは石炭ということで、石炭対策を数年前から求めてきました。現状では、石炭関連のポリシーレベルは少しずつ引き上げられてきました。それでもまだ抜け穴がありますが、次の石油・ガス分野への投融資は、本当に今は野放し状態といえます。

 

――350.org Japanには若い人達の参加が多いと思います。参加者に最近の変化はありますか。

 

  渡辺氏  :  積極的に人前では話をしたことがなかったような人が、街頭でスピーチをするとか、われわれの活動から生まれたボランティアの市民グループが、老朽石炭火力事業の延命問題等で積極的な活動を展開している例もあります。SNSやインスタグラム等を使いながら、環境に影響のありそうな事業のパブリックコメントに対しても、事業者に時間を尽くして対応させうようとする活動をするグループもあります。地域でも東京だけでなく、静岡や、中四国等でグループ活動をしている面々もいます。

 

 メガバンクに対しては、子を持つ親、それに祖父母といった人たちが、メガバンクの実態を知って、CEOに石鹸を贈る活動を企画した例があります。石鹸を贈る理由は、「化石燃料から足を洗ってください」というというメッセージを込めたかったからです。実際には、コロナ禍だったので手渡しできず、手紙を渡しました。市民レベルで、いろいろ活動が広がっているのは間違いありません。数年前と比べても、市民の行動の多様化の傾向は強まっており、年代層も広がっています。

 

――今後の活動は、引き続き金融機関の脱炭素化を「後押し」することになりますか。

 

  渡辺氏   :  当面はそうですね。今年は日本がG7の議長国なので、金融機関の行動もそうですが、政府の方針も非常に重要です。岸田首相もこの機会に、気候変動対応で何らかの前向きな誓約をして「レガシー」を作りたいと考えていると思うので、しっかりと市民社会から(政府を)プッシュしていこうと考えています。

 

――海外では、オランダをはじめとして、政府の気候政策の不備を問う訴訟が広がっています。現在の日本政府の気候政策は「2050年ネットゼロ」を掲げてはいますが、実現するための個々の政策が目標とつながっていません。政府は、国内の石炭火力発電を一定割合で維持し、原発新設、稼働延長等を柱としたGXキャンペーンを打ち出しています。重厚長大産業のトランジションも2050年目標には間に合わない雲行きです。日本政府の気候政策を相手取った気候訴訟が起きる可能性はありますか。

 

  渡辺氏  :   可能性は十分にあると思います。 現段階でのNGO等による司法的アプローチは、各地の石炭火力発電所の建設差し止めを求めた裁判に集中しています。今のところ、残念ながら芳しい結果は出ていません。新たな日本政府への気候訴訟は、法律の専門家との協議が重要だと思います。

 

 ただ、政府の気候政策や銀行の気候分野の経営方針に対する、市民の関心は着実に高まっていると感じます。今回のSMBCの株主総会当日に銀行の会場前に集まった人々の数も過去最大でした。日本の気候市民ムーブメント自体、少しずつ成長し、金融機関に対する市民の活動もどんどんパワフルになっています。グローバルな連携も広がっています。EACOPの活動に対しても、世界中で同時アクションが行われ、三井住友銀行本店のほか、関与の可能性が指摘される三菱UFJ銀行本店にも市民が集まりました。株主提案活動も、こうした幅広い市民層による後押しを受けたもので、その層が着実に広がっていることを実感しています。

                          (聞き手は 藤井良広)