世界の環境NGO52団体。「2024年グローバル石炭撤退リスト(GCEL2024)」を公表。石炭関連企業のグローバルデータベース。世界1579社、日本企業は電力、商社など36社(RIEF)
2024-11-01 22:30:28
脱石炭の取り組みを進める環境NGO52団体は、11月11日から開く国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)に向け、今も石炭火力・同採掘に依存する企業のグローバルデータベース「2024年グローバル石炭撤退リスト (GCEL2024)」を公表した。同データベースには火力発電用の一般炭のバリューチェーンに関係している世界の1579社を取り上げ、その企業情報を示している。日本企業では石炭火力発電を続けるJERAや既存電力各社など36社が取り上げられている。NGOらは「パリ協定から9年が経過した今も、一般炭の生産量はかつてないほど高く、世界の石炭発電所の設備容量は依然として増加している」と危機感を募らせている。
GCELを公表したのは、ドイツの環境NGOのUrgewald、オランダのBankTrackなど、国際的に脱炭素化の促進を展開しているNGOら。日本からは気候ネットワーク、FoE Japan、350 Japan、「環境社会」研究センターの4団体が加わっている。
Urgewaldのディレクターのヘッファ・シュエキング(Heffa Schuecking)氏は「昨年は再生可能エネルギーの設備容量が過去最高を記録した一方で、石炭産業は依然として気候を崩壊させる方向にある。気候サミットのたびにその影響が指摘されてきたにもかかわらず、2020年代にこの業界が拡大を許されていた理由を、将来の世代は決して理解できないでしょう」と指摘している。
実際、世界の石炭発電容量は2015年の1910GWから、現在は11.3%増の2126 GWに拡大している。特に昨年の2023年だけで世界の石炭火力発電容量は30GW増加している。増加分はポーランド一国の石炭火力発電所全体の純増分よりも多い。
2024年のGCELにリストアップされた企業の40%は「石炭開発業者」。これらの業者は、新規の一般炭鉱、石炭輸送インフラ、石炭発電所の開発を計画中だ。シュエキング氏は「これらの企業に投資することは、すでに燃えている家に新たな火種を置くようなもの。パリ協定の目標を真剣に考える金融機関は、石炭開発業者への投資をただちに禁止しなければならない」と警告している。
今回のGCELでは、36カ国で新規の一般炭採掘プロジェクトを計画している376の石炭鉱山開発業者が特定されている。世界最大の炭鉱開発企業であるインド炭鉱は、世界最大の一般炭生産企業でもある。2023年には6億4900万㌧の一般炭を生産した。現在、新たに90の炭鉱と炭鉱拡張の開発を目指しており、NGOらは、これにより年間生産量は最大5億5600万㌧増加する可能性があるとしている。
GCELにリスト化された企業全体では、年間26億3600万㌧の総生産能力に相当する持つ新たな一般炭採掘プロジェクトの開発が計画されている。これは現在の世界の一般炭生産量のほぼ35%に相当する。国別では、新たな一般炭鉱拡張計画を予定しているのは、インド(9億4700万㌧/年)、中国(8億7300万㌧/年)、オーストラリア(2億100万㌧/年)など。
オーストラリアではニューサウスウェールズ州とクイーンズランド州のコアラ生息地で、石炭採掘の拡大計画が進んでおり、50以上の環境保護団体の全国連合が、同国政府に対して、オーストラリアの象徴でもあるコアラ保護を優先するよう求めてきたが、同国の連邦環境大臣は9月に拡張計画3件を承認した。「石炭か、コアラか(Coal vs. Koala)」の選択に、政府が石炭を選択したかたちとなり、全国的な抗議活動が起きている。同国では合計39の新たな一般炭鉱および鉱山拡張が計画されている。
GCELでは、新たな石炭発電所を計画している286の石炭発電開発業者を特定している。その総発電容量は579GW。現在の世界の石炭火力発電容量の27%分に相当する。これらの新規発電容量の大部分(392GW)は中国で計画中とされる。中国では、世界の新たに建設中の大規模な風力発電所、太陽光発電所の3分の2が集中する一方で、石炭発電所の建設計画も世界全体の68%を占めるなど、石炭、再エネ両方での発電増大が続いている。
インドは、現在、92GWの発電容量を持ち、中国国外で計画されている石炭発電プロジェクトの半分を占める規模だ。同国最大の石炭発電所開発業者は、18GWの発電容量を持つNational Thermal Power Corporationと、16GWの発電容量を持つAdani Group。同国のNGO「Centre for Financial Accountability」のディレクター、ジョー・アティアリ(Joe Athialy)氏は「昨年、石炭はインドの電力生産の74%を占め、国内で深刻な公衆衛生上の危機を引き起こす主な要因となっている。 インド経済に必要なのは、持続可能な分散型再生可能エネルギーに基づく公正かつ公平な移行であり、石炭のさらなる利用ではない」と指摘している。
IQAirの最近の報告書では、世界で最も汚染された都市100都市のうち83都市がインドにあるとしており、さらに英国医学雑誌に2023年の掲載論文では、化石燃料による大気汚染でインドでは年間218万人の超過死亡が起きているとの推計が示されている。
明るい話題もある、1882年に世界初の石炭火力発電所を建設して「石炭の時代」を切り開いた英国は今年9月30日に同国最後の石炭火力発電所のラトクリフ・オン・ソア発電所を閉鎖し、「脱石炭」を実現した。英国は電力構成から石炭を完全に排除した最初のG7諸国となった。脱石炭目標を国が定めているG7諸国は、イタリア(2025年)、フランス(2027年)、カナダ(2030年)、ドイツ(遅くとも2038年)。
日本と米国は明確な年限を定めていないが、米国は電源構成に占める石炭火力発電の割合は、2022年の19.7%から23年には16.2%へと確実に減少している。日本は2022年度末時点で石炭火力は全体の30.8%と、割合では米国の倍近い。
GCELは各企業が売り上げに占める石炭使用割合(CSR)と発電に占める石炭割合(CSPP)を算定している。GCELにリスト化された日本企業36社のうち、日本でもっとも発電量が最も多いJERAの場合、CSRは10%強、CSPPは17%。JERAに次いで発電量の多いJ Power(電源開発)はCSRが30%強、CSPP39%と石炭比率がJERAより倍ほど高い。
日本の既存電力各社では、CSRが最も高いのは北陸電力(41%強)、CSPPは中国電力(58%)。北陸電力はCSPPも55%で中国電力に次いで高く、逆に中国電力はCSRも39%と北陸電力に次いで高い。両電力の石炭依存度の高さが際立っている。日本政府のGX政策が石炭火力発電への水素・アンモニア混焼を政策の柱に据えているのは、こうした電力各社の「石炭依存体質」を維持するためということが、データからも明らかに示されている。
https://www.coalexit.org/sites/default/files/download_public/urgewald_PR_GCEL-final_20241030.pdf