HOME8.温暖化・気候変動 |マイケル・ムーア総合監修の「人間の惑星(Planet of the Humans)」、再エネ礼賛に警鐘。バイオマス発電・燃料の生態系破壊に懸念。環境NGOもやり玉に。YouTubeで無料公開(RIEF) |

マイケル・ムーア総合監修の「人間の惑星(Planet of the Humans)」、再エネ礼賛に警鐘。バイオマス発電・燃料の生態系破壊に懸念。環境NGOもやり玉に。YouTubeで無料公開(RIEF)

2020-05-12 08:54:18

 

 「華氏911」「シッコ」などのドキュメンタリー映画で知られるマイケル・ムーア氏がエグゼクティブ・プロデューサーを務めた再生可能エネルギー開発の裏側を告発した「Planet of the Humans(人間の惑星)」がYouTubeで無料公開されている。太陽光、風力発電が実は大量のCO2排出を生み出し、バイオマス発電・燃料は膨大な森林破壊につながっていること等を突撃取材で浮き彫りにする。さらに米環境NOGのシェラクラブ、350.org、「不都合な真実」で温暖化問題の“伝道師”と称されるアル・ゴア元副大統領もやり玉にあがっている。

 

 「Planet of the Human(人間の惑星)」は、「人類という単一の種が、地球という惑星を支配することは、持続可能か」という問いかけでもある。人気映画「Planet of the Apes(猿の惑星)」をもじった題名だ。映画は、ムーア氏と仕事をしてきた環境活動家でもあるジェフ・ギブス(Jeff Gibbs)氏が監督を務め、ムーア氏が支援する形で制作された。You Tubeではすでに600万ビュー以上を得ている。

 

 映画は地球温暖化の進行を阻止するため、石炭等の化石燃料に代わって再生可能エネルギーへの切り替えが必要とされる「通説」に突っ込みを入れる。太陽光や風力発電によって発電された電力は、日射や風況の変動にさらされるという点は、よく知られた点だが、それに加えて、パネルのコアとなる高品質の石英を得るために石炭を高温で溶かす工程を暴露する。

 

Apple2キャプチャ

 

 さらにカリフォルニアの砂漠に建設された「環境に優しい」はずのソーラーパークが、実は砂漠の貴重な生態系を破壊していることを指摘する。また、何年か前に建設したメガソーラーが廃棄され「ソーラーデッドゾーン」に転じている姿を映し出す。

 

 風力発電も膨大なコンクリートと発電機の製造・建設の過程でCO2をふんだんに排出する。これら「再エネ事業」は、製造時のCO2排出量に加え、事後に処理困難な廃棄物を大量に出す。しかも肝心の発電期間は永遠ではなく、一定期間にとどまる。「グリーンエネルギーと呼ぶが、実は、これまでの産業の製造パターンと何ら変わりはない」と疑問を呈する。

 

さび付いた風力発電設備
さび付いた風力発電設備

 

 もっとも強い批判は、バイオマス発電・同燃料に向けられている。米国を代表する環境NGOのシェラクラブや、若者を中心として石炭ダイベストメント運動を展開する350.orgなどもバイオマス発電を「推奨」してきた。バイオマス発電の原料となる木材チップを製造するため、豊かな森林が皆伐され、チップは、膨大な量がグローバル貿易で取引されている。

 

 だが、伐採した森林で1年分のチップを製造・輸出したとして、森林が再生するまでには、何十年とかかる。その間、生態系は壊滅的な状態になり、元通りには再生できない。木質チップ製造時に発生するCO2、有害物質等で周辺の学校やコミュニティ汚染が深刻になっている実態も浮き彫りにされる。映画は米国だけでなく、ドイツでの同様の実態も映し出す。

 

 ムーア流のカメラの視点には「聖域」はない。環境NGOのシェアラクラブが進める「Beyond Coal」プロジェクトや、350.orgのビル・マッキベン氏等が、推奨するグリーンファンド等にこうした「生態系破壊のバイオマス事業」が盛り込まれていることを、米証券取引委員会(SEC)のデータを探し出し、暴いている。映画はこれらの動きを「環境運動の買収」と名付けている。

 

砕かれた木質チップは世界中に輸出されている
砕かれた木質チップは世界中に輸出されている

 

 さらにアル・ゴア氏だ。「不都合な真実」で温暖化問題の伝道師と称されたゴア氏だが、その運営するジェネレーション・インベストメント・ファンド(GIF)で巨額の資金を運用していることでも知られる。同ファンドは「再エネ」をターゲットとしてタックスヘイブンで運用されている。映画は、そのゴア氏が、公聴会でブラジルアマゾンで森林伐採の影響を受ける先住民についての言及がなかった点を指摘され、「忘れていた」と弁明する姿をあえて描写している。

 

 これらすべては、「利益を動機」として動いており、企業や銀行、億万長者らは「グリーン」から利益を得るために動いている、と指摘する。その動機を「グリーンのカバー」で隠しているだけだ、とし、利益追求の資本主義の論理は、エネルギー源が化石燃料から再エネに代わっても変わりがない点に懸念を示す。人類の膨大なエネルギーの消費はもはや持続可能なレベルを超えており、再エネに切り替えるだけでは、生態系とのバランスを取り戻せないためだ。

 

ゴア氏の「再エネ錬金術」もやり玉に
ゴア氏の「再エネ錬金術」もやり玉に

 

 恐ろしいことに、再エネ、自然資源ならば何でOK、という風潮が過剰化した姿として、「動物性脂肪(牛や馬の脂肪)発電」や、グリーン燃料を使った軍艦なども紹介する。まさに「人類のためだけの惑星」の姿だ。救いはないのか。映画は「人間には抑制するという力がある」というレイチェル・カーソンの言葉を引用、エネルギー源の転換だけではなく、エネルギー低消費型社会への転換を指し示している。

 

 最後の場面で印象的なのは、インドネシアでの森林火災(人間による焼き払い)で、逃げ惑うオラウータンが、傷つき、疲れ切って泥の中にいるのを、人間が助けようと手を指し伸ばした際だ。映像からは、そのオラウータンは、人間の手を振り払ったように見えた。「お前たちの『汚い手』にはすがらない」というように。オラウータンは宙を見上げ続ける。

 

びお6キャプチャ

 

 このままでは「人間の惑星」が、利益追求を動機とした欲望の果てに滅び、その後に何世紀を経て、あの「猿の惑星」が登場するということのようだ。