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菅首相、所信表明演説で「2050年に温室効果ガス排出量実質ゼロ」目標を表明へ。主要国間での「出遅れ」を懸念(?)。来年のエネルギー基本計画改定での「具体化」が焦点に(各紙)

2020-10-22 12:10:22

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  各紙によると、菅首相は26日の所信表明演説で、温室効果ガス(GHG)排出量を2050年に実質ゼロにする目標を掲げるという。現行は「2050年に80%削減」との政府目標を掲げているが、EUはすでに「2050年実質ゼロ」、中国も「60年より前に実質ゼロ」を表明している。来月の米大統領選挙でバイデン民主党候補が勝利すると、米国の温暖化対策も一気に転換するとみられることから、このままでは日本が立ち遅れる懸念が出ている。

 

 日本経済新聞が報じた。それによると、2050年にGHG排出量を全体としてゼロにし、脱炭素社会の実現を目指すと表明する見通しという。CO2などのGHGの排出量と、森林などで吸収される量を差し引きでゼロにする目標になる。EUのように法律で目標を明記するかどうかは不明。

 

 [2050年実質ゼロ」は、EUがすでに目標として掲げている。EUでは同目標達成のための中間目標となる2030年の削減率を55%(90年比)とするか、欧州議会が決議した60%とするかで議論になっている。年末の首脳会議で決定する方向。菅政権の「2050年目標」も、中間目標の設定がカギになる。

 

 実質ゼロ目標を実現するための、政策、技術、ビジネス転換等をどう進めるかの行動計画が必要になる。EUや英国では、目標を法的に設定したうえで、それを実現するために、GHG排出量の多い石炭火力発電の全廃等を決めている。経済産業省はこの夏、非効率な石炭火力発電の廃止を決めたが、超々臨界圧石炭火力(USC)は「高効率」として引き続き新規建設を含めて推進していく方針を維持している。しかし、USCも天然ガス火力発電よりCO2排出量が多く、このままだと実質ゼロ目標との整合性が図れないとの疑問が出ている。

 

 現行のエネルギー基本計画は、「実質ゼロ」を全く考慮しておらず、各産業の現状の排出量からの削減可能量をまとめた「積み上げベース」の電源構成となっている。来年夏をめどに全面改正の予定だが、これまでの経産省の方針を抜本転換する必要がある。実質ゼロの実現には化石燃料発電からの脱却の一方で、太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギー発電の拡大が必要だが、これまで経産省は、むしろ再エネ発電の普及を抑制気味に扱ってきたとの批判も多い。

 

 菅首相は所信表明演説でCO2を再利用する「カーボンリサイクル」や、次世代型太陽電池の研究開発、グリーン投資を促す施策等の支援を打ち出すとしている。技術開発とファイナンスが重要なことは当然だが、スクラップアンドビルドの視点で、旧来の設備、技術、システムの廃棄・転換を伴う必要がある。

 

 報道では、首相方針を受けて、経産相が26日にも再エネ拡大を柱とする政策を公表するという。温暖化対策を通じて産業構造の転換を促す。太陽光・風力発電の普及のため大容量蓄電池の開発を援助する。水素ステーションの設置拡大策も示す見通しとしている。

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201022&ng=DGKKZO65278360R21C20A0MM8000