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イタリアの環境団体等203人の原告団、同国政府の温暖化対策の不十分さと削減目標の低さを理由に、政府への対策強化と削減目標引き上げ命令を求める集団訴訟を提起(RIEF)

2021-06-06 18:15:32

Italia001キャプチャ

  イタリアの環境団体が、同国政府の気候変動対策の不十分さを理由として、国を相手に対策強化を求める訴訟を提起した。イタリアは2030年の温室効果ガス削減目標を33%削減としているが、原告らは2050年ネットゼロを達成するには、それでは不十分と指摘。政府の気候対策は「口では『ネットゼロ』を言いながら、それを実現する政策は不十分で口先だけ」と指摘、裁判所に明確な目標の設定と対策実施を命じるよう求めている。

 

 国の温暖化対策が不十分として環境団体や住民団体等が国を提訴する裁判は欧州で相次いでいる。4月に、ドイツの連邦憲法裁判所は環境団体が提訴を受け、ドイツ政府が定めた気候保護法に2031年以降の温室効果ガス排出量削減のための措置が十分に盛り込まれていない、として政府の政策が憲法(基本法)に違反するとの判断を示し、2022年末までに同法を改正するよう政府に命じた。http://rief-jp.org/ct8/113783?ctid=71

 それまででも、2018年10月にオランダで政府が環境NGOが提訴した訴訟で最高裁まで争ったが結局、敗訴したほか、アイルランドでも2020年8月に政府が負けている。ドイツ政府は裁判での敗訴を受けて、温室効果ガス排出削減目標を現行の55%削減から、2030年までに65%削減に強化するとともに、ネットゼロ達成目標も2045年までに前倒しする方針を明らかにするなど、訴訟によって対策強化を明確化している。http://rief-jp.org/ct8/113888?ctid=71

 今回、イタリア政府をローマの市民裁判所に提訴したのは、環境団体の「A Sud」とその関連団体の「Giudizio Universale (最後の審判)」を中心とした203人の原告団。一般市民や、若者による「Friday for Future」の面々も加わっている。原告団の裁判所への請求内容は、「政府がより野心的な気候政策を採用し、排出削減目標を強化するよう命じるべき」というものだ。イタリアで政府の環境政策を不備を理由に訴訟が提起されたのは初めて。

 原告団のA SudのスポークスパーソンのMarica Di Pierri氏は「われわれは、イタリア政府が気候変動から国民を守る義務を順守していないことを、裁判所が認めたうえで、現行の2030年削減目標の強化を政府に命じることを求めている」と述べている。

 同氏はさらに、「イタリア政府は、今も石炭火力等の化石燃料資源依存の発電を続けることで汚染を広げているほか、廃棄物のリサイクルシステムを整備する代わりに、それらを焼却処理することで汚染を拡大している。公共交通機関も不十分だ。例えばローマのような都市では、輸送手段は自動車に依存したままで、市民は低炭素交通手段の選択が限られている」と批判している。

 イタリアでは2月に、政治的に中立的なマリオ・ドラギ元ECB総裁が首相に任命され、与野党の支持を得ている。同氏は就任に際して、環境課題をトップの政治テーマに掲げ、「環境移行省(Ministry for Ecological Transition)」を設立するなどの対策を展開。新型コロナウイルス対策でEUのリカバリーファンドから得た2000億ユーロ以上の景気対策資金のうち約590億ユーロをグリーンリカバリー投資に振り向けるなどの積極策を展開している。

 しかし、旧来の化石燃料依存の体制は、政府内部に根強く残っており、「環境移行相」に任命されたRoberto Cingolani氏は先月、「最優先の仕事の一つは、再生可能エネルギー事業の拡大を邪魔する官僚たちを排除すること」と明かしている。化石燃料利権に染まってきた産業界と官僚機構の癒着構造が、イタリア経済の脱炭素化にとっての最大のハードルになっているわけだ。この構造は、日本と似ているようだ。

 ドラギ政権による「グリーンリカバリー投資」は、こうした旧来志向の官僚たちの利権構造に切り込む形だが、今回の訴訟の原告らは、「リカバリー投資による環境目標では野心的とは言えない。政府の現行の対策だけでは、真の転換が実現しそうもなく失望している」「政府の宣言は勇ましいが、現時点では、具体的な政治戦略にはなっていない」と指摘している。

 日本政府の「ネットゼロ」宣言も、菅首相が決断して打ち上げた。だが、それを実現する政府の政策はまだ何も固まっていない。2030年目標も46~50%と設定したが、むしろ、そうした目標達成の困難さが、早くも政府内外から情報発信されている状況だ。日本の環境団体や市民団体も、イタリア等を参考にして、政府を訴える段階に来ているのかもしれない。

https://asud.net/a-sud-lancia-la-prima-causa-climatica-italiana/