HOME8.温暖化・気候変動 |北半球全体で、今年も早くも、気候変動による自然災害増大。ドイツ等での豪雨・洪水で160人死亡、1000人行方不明。温暖化による北極海の海氷溶融が「気候激化」を高めている可能性(RIEF) |

北半球全体で、今年も早くも、気候変動による自然災害増大。ドイツ等での豪雨・洪水で160人死亡、1000人行方不明。温暖化による北極海の海氷溶融が「気候激化」を高めている可能性(RIEF)

2021-07-19 00:37:04

flood001キャプチャ

 

  先週14~15日にかけて欧州のドイツ西部やベルギー、オランダ等を激しい豪雨が襲い、各地で洪水や土砂崩れ等を起こした。17日(日本時間同日夜)までに各地の死者数は160人を超えた。行方不明者は1000人以上に上るとみられる。先月末のカナダ西部で観測史上最高気温49.6℃を出したのを皮切りに、今月3日、日本の熱海の土砂崩れで多数の死者が発生、9日には米国西部のデスバレーで54.4℃を記録。シベリアでは森林火災が多発――。地球の北半球全体が猛暑に包まれ、異常気象被害が広がっている。背景に北極圏での海氷溶融・消失の影響を指摘する声もある。

 

 (写真は、豪雨で崩れたドイツの採石場での土砂崩れの模様)

(注)その後、現地時間の18日時点で死者数はドイツ、ベルギー合計約190人、行方不明者は数十人とされている。https://www.afpbb.com/articles/-/3357267?cx_part=top_topstory&cx_position=3

 各紙の報道によると、今回の欧州での豪雨と洪水は、ドイツ西部のラインラント・プファルツ州と隣接するノルトライン・ウェストファーレン州を中心に発生した。国境を接するベルギーでも死者数は20人に達したとされる。行方不明者はさらに拡大するとみられている。

 

街を濁流が襲う(ドイツで)
街を濁流が襲う(ドイツで)

 

 ドイツの大都市、ケルンのシュタムハイム駅では、14日の24時間雨量は155mmに達した。これはこれまでの日量最高雨量95mmより6割以上多い。急速な集中豪雨が洪水を引き起こし、豪雨が土砂崩れを引き起こすのは、日本と同様だ。欧州の場合、長年の土地利用の蓄積の影響で、土壌の圧縮化が進行、雨の土壌への浸水力、土壌の保水力が劣化している点も、洪水被害増につながっているとされる。

 

 増水した河川から水があふれ出ただけではない。ケルンの南西約20kmにあるノルトラインヴェストファーレン州ラインエアフトクライスのエアフトシュタットでは、採石場が豪雨のため崩壊し、流れ出た土砂が周辺の道路等を押しつぶした。(上の写真参照)。日本の熱海での土砂崩れが産業廃棄物の不法投棄によって引き起こされたとみられるのと同様、人為による自然への工作が被害を増大させる「悲しい共通点」となった。

 

 欧州委員会のフォンデアライエン欧州委員長は「今回の被害は、気候変動の明らかな兆候だ。われわれは早急に行動する必要がある」と温暖化対策の重要性を訴えた。被災地となったドイツのノルトライン・ウェストファーレン州のラシェット首相も「歴史的な規模の大災害」と指摘。現場視察で、「大規模な財政支援が必要になる」と復旧支援を強調している。

 

北極海の海氷溶融は今年も急ピッチ
北極海の海氷溶融は今年も急ピッチ。異常気象加速にも影響

 

 現在、夏を迎えた北半球の各地で同様の記録的な豪雨や洪水、それによる土砂崩れ、森林火災等がドミノ倒しのように広がっている原因としては、地球温暖化の影響が想定されるが、その波及メカニズムとして有力な要因が、北極圏での気温上昇の影響だ。北極圏では、北半球の他の地域の2倍前後で温暖化が進展しており、夏場の海氷の溶融・消失が著しい。

 

 米National Snow and Ice  Data Center(NSIDC)によると、13日時点の北極海を覆う海氷面積は7.95万㎢。1981年~2010年平均値より1.98万㎢分小さい。東京都を9つ合わせた分だけ、例年よりも小さいことになる。今年は、近年で最も海氷面積が小さかった昨年の2020年とほぼ同様の溶融・消失の勢いとされる。

 

 海氷溶融のスピードも早まっている。7月1日~13日の間に、海氷は1.73万㎢が消えた。東京都と岩手県を合わせた面積分が溶けた計算だ。北極海のロシア側のラプテフ海はほとんどの海氷が溶けて、「海氷フリー」の状態という。海氷の溶融の影響で北極圏での低気圧発生が増えており、それらにより上空のジェット気流の流れが不安定化しているとの指摘もある。

 

ホッキョクグマは海氷の消失で2100年までに絶滅へ
ホッキョクグマは海氷の消失で2100年までに絶滅へ

 

 6月末に、カナダの寒村リットンでの異常高温は、暖気を抱え込んだ高気圧がドームのような形状で立ち上がり、その「熱ドーム」が虫眼鏡のような役割をして、とらえた太陽光で地表部分を照射し、一気に気温上昇現象を引き起したとされる。その背景にも、北極圏で気温上昇による気圧の急激な変化が影響している可能性も指摘されている。ただ、科学者の間でも北極圏の気候変動と北半球全体の気候変動の関係性はまだ十分に解明できていないのが実情だ。https://rief-jp.org/ct12/116060?ctid=70

 

 米国がバイデン政権に代わって、パリ協定に復帰し、わが国も「2050年ネットゼロ」を宣言するなど、気候変動に正面から向き合う方向に各国の政策が修正されてきている。しかし、現状は、政策変更をアナウンスしただけ。昨年初めは、新型コロナウイルス感染の影響で、一時的に温室効果ガスの排出量が世界的に減少したが、すでに各国の経済活動は回復加速の勢いにある。発電所や炭素集約産業の操業は回復しており、温室効果ガス排出量は元の水準に戻っている。

 

 気候変動対策への「決意表明」だけで、気候変動の進行が止まるわけはない。英気候学者のエド・ホーキンス(Ed Hawkins)氏は「気候変動はすでに異常気象の増大を引き起こしている。今起きている気候変動の出来事の多くは、地球温暖化によって事態がさらに悪化していることを示すものだ。メディアはこのことを広く伝えてもらいたい」と訴えている。

http://nsidc.org/arcticseaicenews/

https://www.independent.co.uk/climate-change/news/arizona-flash-floods-video-b1884876.html

https://www.theguardian.com/world/2021/jul/17/like-a-bomb-went-off-survivors-of-germanys-worst-floods-in-200-years-relive-their-agony