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英蘭石油大手ロイヤル・ダッチ・シェル、オランダ地裁の温室効果ガス排出量削減命令を不服として、控訴を表明。排出削減は政策責任か、排出企業の責任か、が論点に(RIEF)

2021-07-21 12:22:13

Shell001キャプチャ

 

  英蘭石油大手ロイヤル・ダッチ・シェル(Royal Dutch Shell plc :Shell)は20日、5月にオランダのハーグ地方裁判所が同社の温室効果ガス排出量の大幅削減を命じた判決を不服として控訴すると発表した。同社は、パリ協定の目標と整合する「2050年ネットゼロ戦略」を立てており、同戦略に基づく短期、中期の削減目標は、顧客、政府、社会に受け入れられていると主張している。

 

 (写真は、オランダ・ハーグにあるシェルの本社)

 

 シェルに対する訴訟は、2019年に環境NGOのFriends of the Earthやグリーンピース等の7団体、合計1万7000人を超す原告団が、シェルの気候対策の不十分さとそれに基づく人権侵害を訴えていた。オランダ・ハーグ地裁は5月26日、シェルに対してグローバルベースでの温室効果ガス排出量を2030年までに45%(2019年比)削減することを命じる判決を下した。炭素集約型企業の排出削減を命じる判決は国際的にも初めて。

 

 これに対して、控訴を決めたシェルのCEO、Ben van Beurden氏は「気候変動対応で緊急行動が必要であることには同意する。しかし、裁判所が一つの企業にだけ命じるのは効果的ではない。やるべきことは明確だ。世界のエネルギーシステムの基本的な変化を促進する野心的な政策だ。気候変動は、すべての関係者間の調整を促進し、グローバルで共同的な金融行動とアプローチを必要とするチャレンジだ」と指摘。一企業を「狙い撃ち」するのは適当ではないとの姿勢を強調した。

 

 シェルが4月に「ネットゼロ」に向けた「Powering Progress」戦略を公表し、同社はエネルギ―企業の中で最初にトランジション(移行)戦略を打ち出した点も強調。裁判所は同社に対するヒアリングは数カ月まで終えたとして、この戦略を考慮しなかったとして不満を示した。同社は同戦略については、株主総会で株主から89%の賛同を得たと説明している。

 

 さらに、シェルは温室効果ガスの削減について、事業活動や光熱費等からの排出量のScopes1、同2に加えて、顧客の使用に伴う排出量のScope3の削減についても、顧客と協力して推進していくとした。シェルの控訴で、最終的な結審まで2~3年かかる見通しとされる。

 

 シェルの控訴理由は、各国政府の温暖化対策が不十分、と指摘しているようにも受け取れる。今後の控訴審での論点は、政府の政策が不十分だと、排出企業は責任を免れるのか、あるいは政府の政策が不十分でも、シェルの様なグローバル企業は、自らのグローバル責任として効果的な排出削減策を講じる責務を負うのか、という点になる。日本のグローバル企業にとっても重要な論点だ。控訴審での議論が注目される。

 

https://www.shell.com/media/news-and-media-releases/2021/20-july-press-release.html