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環境省・中環審小委員会、カーボンプライシングの是非論で「賛否両論併記」の中間整理。議論から20年経ても方向を示せず。温対税の価格効果はEUの排出権価格の約2.5倍も割高(RIEF)

2021-07-30 15:56:19

MOE001キャプチャ

 

  環境省は29日、中央環境審議会地球環境部会の「カーボンプライシングの活用に関する小委員会」を開き、中間整理案をまとめた。17回に及ぶ会合を重ねたが、賛否両論の併記にとどまった。環境省が導入している温暖化対策税の価格効果として年間320万㌧のCO2削減に、CO2㌧当たり平均 1万6451 円のコストをかけていることも報告された。EUの排出権取引価格の約2.5倍も高く、温対税の政策効果に疑問を示す結果となった。

 

 小委員会は結論として、参加する25人の委員数とほぼ同数の26の意見を列記した。そのうえで、政府の「成長戦略実行計画」等でのカーボンプライシングに関する方針に言及し、「本小委員会は、成長に資するカーボンプライシングの活用に関する一定の取りまとめを本年中に行うことも視野に、炭素税や排出量取引についての専門的・技術的な議論、カーボンプライ シングに関するその他の手法やポリシーミックスに係る検討を進めていく」と結んだ。

 

 環境省は同小委の前身を含め、これまで約20年にわたって、カーボンプライシングの是非に取り組んできた。炭素税にするか、排出権取引制度にするかの選択肢の問題よりも、経済界の反対を踏まえた経済産業省との政府内での綱引きを続け、結果的に「政策思考停止」状態を続けてきた。

 

 排出権取引制度では、先行したEUを追いかけるように、ニュージーランド、韓国、中国、カザフスタン等が同制度を導入している。炭素税の導入国を合わせると、世界で64の導入事例がある。これらのカーボンプライシング制度でカバーする世界の温室効果ガス排出量は21.5%にまで広がっている。

 

 「2050年ネットゼロ」に向けて、各国は抜本的なエネルギー政策の転換を求められている。日本政府も従来の化石燃料依存政策から脱却し、温室効果ガス排出量の多い企業に対して「汚染負担」を課す経済合理的な政策への転換が求められている。こうした政策転換を伴わないと、結局は目標達成が遅れ、国全体が被る負担コストは増大する。

 

 そうした負担増を明瞭に示したのが、環境省の温暖化対策税の「政策効果」だ。小委員会に提出された温対税の政策効果評価では、エネルギー対策特別会計エネルギー需給構造高度化対策事業のうち、CO2排出削減成果が示された事業を分析した。それによると2019年度の温対税の財源効果はCO2削減量で355万㌧、その削減のコストは平均16451円/t-CO2 だった。

 

 EUの排出権価格の約2.5倍だ。環境省は、試算結果は①将来削減されるCO2 削減量を加味していない②企業はコスト面等から導入が進みにくい設備の導入に温帯税の補助金を活用している――との理由をあげ、削減コストが高く試算されやすいとしている。しかし実際は、行政判断による温暖化対策資金の配分効率の悪さを示す形だ。だからこそ、市場ベースのカーボンプライシング制度導入が必要であることを示したともいえる。

 

 「いつまでたっても方向性を示せない」小委員会自体の課題も露呈した。25人の委員の顔ぶれをみると、学者のほか、経団連をはじめとする業界団体の代表や、NGO代表らが名を連ねている。学者もカーボンプライシングの専門家だけではない。日本政府が好きな「有識者会議」方式だ。本来、小委員会は専門・技術的な分析を踏まえた「科学的」な意見に基づいて、たたき台を示す場のはずだ。

 

 産業への配慮、社会への配慮は、政治の場(法案の国会審議)で判断するべきものだ。行政機関がそうした政策的な判断を制作原案作成の段階でフルに盛り込もうとすると、産業界に配慮する経産省、環境に配慮する環境省の意見対立は、いつまでたっても変わらない構図が続くことになる。業界関係者やNGOの意見は、小委がステークホルダーからのヒアリング等として意見を聞き、それらを参考意見として付した政策案を、政治に示すのが妥当な政策決定のプロセスではないか。

 

 カーボンプライシングについては、前述のように、EUを始め、すでに世界中で実践例が積みあがっている。国内の「識者」の意見にとどめず、実務運営上の知見等を各国の政策当局や実務家から聴取するプロセスも欠かせないはずだ。そういうプロセスと無縁の、わが国の審議会の報告・答申の仕組み自体、世界の政策決定の流れに照らすと「時代遅れ」と言わざるを得ない。「いつまでも決められない政策決定構造」自体が、日本の競争力を阻害していることに、政府は気づくべきだがーー。

                   (藤井良広)

http://www.env.go.jp/council/06earth/17shiryou1.pdf