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国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)、「2050年ネットゼロ」でも、2040年前後に「1.5℃目標」突破。人間活動による温暖化「疑う余地ない」と初めて断定(RIEF)

2021-08-10 00:01:02

AR6004キャプチャ

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は9日、地球温暖化の科学的根拠をまとめた作業部会報告書(AR6:第6次評価報告書)を公表した。温暖化の進行によって、世界の気温は2021~40年に、産業革命前から1.5℃の上昇になるとの予測を示した。2013~4年に公表したAR5の想定より約10年早くなる。人間活動による温暖化への影響は前回の「clear(明白)」から進めて、「unequivocally(疑う余地がない)」と断定した。

 IPCCは3つのワーキンググループ(WG)によってAR6(Sixth Assessment Report)を分析をしてきた。今回公表されたのは、物理科学分析をベースとしたWG1のレポート。2050年と2100年に向けての5つの排出シナリオの影響予測を行った。これらの影響に対してどう適応し、最悪シナリオをどう防ぐかを分析したWG2と同3のレポートは2020年初めに公表される予定だ。

 2015年に採択された「パリ協定」では、世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5℃に抑えるよう努力する等の目標を掲げているが、今回の報告書は、去年までの10年間で世界の平均気温はすでに1.09℃上昇したと指摘。2050年ごろに世界全体の温室効果ガスの排出量を実質ゼロになるペースで削減できた場合でも、気温上昇は2040年までに1.5℃に達する可能性が50%を超えると予測している。

2100年までの5つのシナリオ分析
2100年までの5つのシナリオ分析

 

 前回のAR5では気温上昇が1.5℃に達するのは2030~52年とみていた。だが、今回のAR6では予測モデルを改良し、新たに温暖化加速のスピードが2倍以上早い北極圏のデータも取り込んで分析した結果、10年ほど早まった。気温上昇幅は最善の場合でも41~60年に1.6℃になる。化石燃料への依存が続く最悪の場合では41~60年に2.4℃、81~2100年に4.4℃と加速する。

 

 日本をはじめ、主要国は「2050年ネットゼロ」目標を掲げるが、仮に同目標を達成できるとしても、2040年前後に気温が1.5℃を上回る可能性が50%以上あるということは、今以上の気候変動の激化が避けられないことを意味する。報告書は、世界各地で熱波や豪雨といった「極端現象」の頻度や強さが増すと指摘した。現在、欧米で広がる熱波やそれによる森林火災の広がり、さらに豪雨被害等がさらに高まることになる。

 

5つのシナリオに基づく気温上昇予測
5つのシナリオに基づく気温上昇予測



 WG1の試算によると、50年に一度の割合で高い気温が観測される頻度は、産業革命前の19世紀後半と比べると、現在は4.8倍に上昇している。1.5℃上昇した場合はさらに8.6倍に、2℃上昇した場合は13.9倍になる。10年に一度の大雨の頻度は、現在は1.3倍だが、1.5℃上昇では1.5倍に、2℃上昇の場合は1.7倍になる。

 

 平均海面水位は過去120年で0.2m上昇した。直近になって上昇ペースは加速しており、現状のペースは、1971年までの上昇率年1.3mmの約3倍と推計された。気温上昇を1.5℃以内に抑えても、2100年までに今より0.28~0.55m上がる。

 

 報告書は、温室効果ガス排出量や将来の社会への移行に向けて5つのシナリオ(SSP=Shared Socio-economic Pathway)の試算結果も示している。シナリオのいずれでも、今後20年で1.5℃に達する可能性があるとした。さらに、今世紀中に排出を「実質ゼロ」にしなければ、2度を超える可能性が非常に高い、と警告している。

 

 温暖化に及ぼす人間活動の影響については、トランプ前米大統領が疑問を示したり、ブラジルのボルサナロ大統領が影響を軽視するなどの「懐疑論者」が依然、世界には少なくない。しかし今回の報告書では、温暖化への人間活動の影響を「疑う余地がない」と断定したほか、その影響度についても、「2050年ネットゼロ」でも、気候激化は加速することを指摘した。温暖化への「疑問」「軽視」をともに明確に否定した。


 IPCCの報告書は、気候関連の科学論文1万4千本以上を、日本を含む66カ国の234人の研究者が評価した。気候変動に関する最新の科学的知見として位置付けられる。

https://www.ipcc.ch/report/ar6/wg1/downloads/report/IPCC_AR6_WGI_SPM.pdf

https://www.ipcc.ch/report/ar6/wg1/downloads/report/IPCC_AR6_WGI_Full_Report.pdf