HOME10.電力・エネルギー |パリ協定の目標達成のためには、2050年までに石油・ガス資源の60%、石炭90%が開発不可。石油・ガス生産も50年までに年率3%の削減継続が必要。英UCL研究チームが分析(RIEF) |

パリ協定の目標達成のためには、2050年までに石油・ガス資源の60%、石炭90%が開発不可。石油・ガス生産も50年までに年率3%の削減継続が必要。英UCL研究チームが分析(RIEF)

2021-09-09 16:47:33

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 パリ協定が気候変動抑制で掲げる「1.5℃目標」を実現するには、2050年までに50%の確率で、現在、埋蔵が確認されている石油・ガスの60%と石炭の90%は、開発できないとする研究結果が公表された。石油・ガスの生産は50年までに年率3%の割合で削減する必要があるとも指摘。中東やロシア等の化石燃料資源依存国を中心に化石燃料からの脱却の必要性を強調した。

 

 (写真は、英気候抗議団体Extinction Rebellionの行動=英Guardian紙から)

 

 英University College London(UCL)のPaul Ekins教授が率いる研究チームが分析した。研究チームはEkins氏のほか、Dan Welsby、james Price、Steve Pyeらの各氏で構成した。8日付けの「nature」オンライン版に「Unextractable fossil fuel in a 1.5℃world」の論文を掲載した。

 

 研究者たちは研究成果を踏まえ、「分析結果は、現在稼働中、あるいは計画中の化石燃料事業の多くは持続ではないということだ」と指摘している。

 

 パリ協定が目標とする、産業革命前からの世界の気温上昇を「1.5℃」に抑制するためには、2100年までの温室効果ガス排出総量をCO2換算で580Gt=ギガトン : ギガは10億)にとどめる必要がある。研究チームは、現在(2018年)、地球上で確認されている化石燃料の埋蔵量や採掘費用等を元に試算したところ、2050年時点で石油の58%、ガスの59%、石炭の89%が採掘できなくなる、との結果を得た。

 

 これらの推計は、Eikins教授らが2015年に実施した推計の、採掘できない石油資源は33%、ガス49%の水準から大きく増えている。推計の増加は、この間の気候変動の進展に伴い、より野心的な対策の必要性の増大と、化石燃料を代替する低カーボン技術の進展の見通しが高まったことを反映しているとしている。

 

 「1.5℃目標」に沿った石油・ガスの生産は、50年までに世界全体で年3%ずつ減らしていく必要がある。その結果、2050年以降に開発される化石燃料の大半は、発電等の燃料用ではなく、石油化学製品の材料や、一部は航空燃料等に充当されるだけとしている。

 

 化石燃料資源の開発が大幅に制限される必要があることの影響は地域によって異なる。米国、ロシア、旧ソ連圏諸国は、グローバルな石炭資源のほぼ半分を保有している。これらの資源の97%は開発できない。オーストラリアの石炭資源も95%が不可、中国とインドは76%を土中にとどめる必要がある。

 

 サウジアラビア等の中東諸国は、世界の石油資源の過半を保有している。しかしこれらの資源のうち、ほぼ3分の2(62%)は開発できない。豊富なタールサンド資源を抱えるカナダも83%は開発不可となる。また米国等でのフラッキング技術を活用したシェール石油・ガス開発や、北極圏での海底開発等も当然、不可となる。

 

 UCLのEikins教授は「明らかに(化石燃料にとって)絶望的な状況だ。化石燃料事業はパリ協定の目標と全く相容れないということだ。エネルギー開発の民間企業は、抱える化石燃料資産の大幅な減損処理が必要となる。資源保有国は、抱える化石燃料資源の富が『蒸発』するのを黙認する以外にない」とする。その一方で、「ポジティブな面は、クリーンエネルギー技術が非常に急速かつ大規模に展開していることだ」と指摘している。

 

 UNFCCCの前事務局長のChristiana Figueres(クリスチャン・フィゲレス)氏は「化石燃料資源は開発せず、土中にとどめるということだ。化石燃料開発に依存する限り、『安全な未来』はあり得ない。クリーンエネルギーへのシフトは人類の活動を維持し、人類の明日の生活を守るために、加速されねばならない」と警告している。

 

https://www.nature.com/articles/s41586-021-03821-8

https://www.theguardian.com/environment/2021/sep/08/climate-crisis-fossil-fuels-ground