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世界で広がる干ばつ。中国では経済活動に影響。欧米でも深刻。東アフリカは過去40年で最悪。温暖化が確実に進んでいることを立証。ウクライナで戦争をしている場合ではない(RIEF)

2022-08-28 18:13:31

droughtキャプチャ

 

  世界的に干ばつが広がっている。中国では長江流域が記録的な猛暑と水不足に見舞われ、水力発電能力が大きく低下、経済活動に支障を来し、農産物も甚大な被害を受けている。欧州でも5月以来の熱波に加え、干ばつの広がりでライン川の水位は通常より半分以下に減少。米国、中東、アフリカ等でも深刻な事態が現実化している。地球温暖化は確実に進み、その影響は、一段と顕著になっている。

 

 世界気象機関(WMO)によると、中国の長江流域の降水量は通年よりも約80%も少ないという。この結果、長江流域の水位の低下により、三峡ダムをはじめとする同流域の主要な水力発電所の発電が制限され、多くの地域で電力不足が起きている。

 

 電力需要地域の上海などの大都市では、エスカレーターやエアコンの使用停止や利用の一部停止等の措置が取られている。工場で使用する水も不足し、四川省のトヨタ自動車や上海のテスラ等の工場は一時的に操業を停止した。農村部では人間や家畜の飲料水確保が困難になっており、収穫だけでなく生活にも支障を来している。

 

水を求めて、10日間歩いてキャンプにたどり着いた10歳の少女(ソマリア)
水を求めて、10日間歩いてキャンプにたどり着いた10歳の少女(ソマリア)

 

 江西省の長江南岸に位置する中国の淡水湖としては最大規模の鄱陽湖(Poyang Lake)は、毎年夏場は水位が下がるが、今年は例年の4分の1にまで低下、過去最悪となっている。

 

 WMOの事務局長補のWenjian Zhang氏は「われわれは明らかに気候変動の影響を目前にしている。中国の自然災害防止と救済体制は試練に直面している」と指摘している。非営利団体の「The Rivers Trust」のディレクターの Christine Colvin氏は「この夏、我々が経験していることは、これまで気候学者たちが、将来起きるだろうと指摘したことが、まさに起きている。気候変動の影響の将来予測と整合する現象が顕在化している」と述べている。

 

 米国家海洋大気庁(NOAA)の干ばつタスクフォースの共同議長のAndrew Hoell氏は「気候変動の影響は地域によって異なるが、現在はほぼすべての地球上の地域で、より強烈で長期的な高温化を引き起こすことにつながる気温の上昇傾向の増大が観測されている」と認めている。

 

 中国以外でも同様だ。欧州のGlobal Drought Observatoryの8月のレポートによると、5月以降、欧州の各地で発生した熱波と、低降雨量の影響が重なり、干ばつが広がり、欧州内の河川の水位を低下させた。ドイツのライン川、フランスのローヌ川、ポルトガルのタグス川等だ。ライン川の場合、場所によっては8月の平均水位に比べ45%にまで下がり、河川を利用する物流システムに影響を及ぼしている。干ばつの影響で、ルーマニアでは小麦の生産が大幅に減少するなど、農業への影響が深刻になっている。

 

欧州のライン川の水量の変化。㊧昨年8月㊨今年8月
欧州のライン川の水量の変化。㊧昨年8月㊨今年8月

 

 中東諸国では、ここ数年、続けて干ばつの影響を受け続けている。このままの傾向が続くと、世界文明の発祥の地として知られるイラクのティグリス・ユーフラティス川は2040年までに完全に干上がってしまうとみられている。トルコとイランによるダム建設の影響もあり、今年はユーフラティス川流域のQadisiyah湖等の貯水湖は相当な水位の低下となっている。イラクのクルド地区のドゥカン湖の水位低下で、周辺の農場の収穫低下懸念が出ている。一帯の水位は昨年の半分にまで下がっている。

 

 米国西部地域では、干ばつの影響で河川で生息するサーモンやその他の野生動物が危機にさらされている。NGOのWater Climate TrustのディレクターのKonrad Fisher氏は「われわれは米国西部の水資源配分を過剰配分して利用し過ぎている。その結果、気候耐性を弱めている」と指摘する。ユタ州とアリゾナ州にまたがるコロナド川に設けた人工貯水池のパウエル湖は全米第二の貯水池だが、その貯水量は1967年以来、もっとも低い26%にまで下がっている。

 

 河川の水位低下で、テキサス州では、干上がった川底から1億1300万年前の恐竜の足跡が発見されて話題になった。白亜紀に北米に生息していた大型の肉食恐竜、アクロカントサウルスの足跡とされる。普段は流量の多い川の水で隠れている川底が干上がって発見された。各地でも、湖や河川の水位が大きく下がったことから、湖底、川底等での古い遺跡等が出現したというニュースが流れている。それだけ干ばつによる水位の低下が尋常ではないということだ。

 

テキサス州で発見された恐竜の「足跡」
テキサス州で発見された恐竜の「足跡」

 

 河川の水位低下だけではない。グローバルに湿地の減少が進んでいる。湿地は自然の降水量を保存し、河川等に安定的に供給する源でもある。Global Wetland Outlookによると、世界中の湿地はカナダよりも大きい12億㌶の規模があるが、1970年以来、全体の35%が消失した。湿地の消滅は、開発による影響のほか、温暖化による水量の減少、汚染、持続可能でない利用、外来生物の進出等によって、湿地の減少に加えて、質の劣化も進んでいる。

 

 アフリカでは、エチオピア、ケニア、ソマリア等の「アフリカの角」地域で、干ばつによって安全な水を確実に入手できない人の数が2月の950万人から7月に1620万人まで増えている。水不足によって、子どもと家族がコレラ等の伝染病や下痢等にかかるリスクが高まっている。FAO(国際連合食糧農業機関)は水不足の影響で1800万人以上が深刻な飢餓に直面しており、過去40年で最悪の干ばつだと警告している。

 

 今年の日本は、九州や北海道・東北等を中心に、断続的な豪雨がみられた。だが、中国や欧米等と異なり、今のところ、全体では大規模な干ばつはみられていない。気候変動の研究によると、気温が上がると大気が含むことのできる水蒸気が増え、何らかのきっかけで、それらが一気に地上に雨や雪となって集中して降る率が高まるとされる。北半球の中高緯度地域での「2℃上昇」と「1.5℃上昇」とでは、「降るときは降る、降らないときは長いこと降らない」という傾向が広範囲で強まるとされている。https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20190419_01/

 

 日欧米韓の国際研究チームが、まとめた気候変動に起因する干ばつの今後の影響評価の研究論文によると、有効な温暖化対策を十分にとらなかった場合、今世紀半ばごろまでに、地中海沿岸や南米、中東などの7地域で、「過去例のない」ような大規模な干ばつが5年以上続く事態が起きる、と予測している。さらに、今世紀末にはそうした地域が18地域に拡大する、としている。https://www.nature.com/articles/s41467-022-30729-2.pdf

 

https://www.climatechangenews.com/2022/08/26/visuals-extreme-drought-dries-up-rivers-globe-satellite-images/

https://news.un.org/en/story/2022/05/1118142#:~:text=And%20from%201998%20to%202017,to%20severe%20and%20prolonged%20droughts.

https://www.unicef.or.jp/news/2022/0159.html