HOME |パキスタンの国土の3分の1が洪水で水没。死者1100人を超す。6月以来の豪雨が山を崩し、インダス川を湖に変える。現実となる気候変動災害。地球は干ばつと豪雨・洪水が同時進行(各紙) |

パキスタンの国土の3分の1が洪水で水没。死者1100人を超す。6月以来の豪雨が山を崩し、インダス川を湖に変える。現実となる気候変動災害。地球は干ばつと豪雨・洪水が同時進行(各紙)

2022-09-03 00:57:07

Paki003キャプチャ

 

 パキスタンで6月中旬からモンスーンによる豪雨が続き、国土の3分の1が洪水に見舞われる「大規模気候災害」が起きている。死者数は1130人以上に上り、過去最悪の被害になっている。この夏、米欧や中国、アフリカ等では干ばつが広がる一方で、パキスタンで深刻な洪水が起きたのは、気候変動によって、自然災害現象が極限化する異常事態が現実化したといえる。パキスタンでは食料品不足が続き、主要食品の価格は年率44.58%増と、気候変動によるインフレも加速している。本当に、ウクライナで戦争している場合ではないのだが。

 

 (写真は、「テレ朝ニュース(8月31日)」から)

 

 今回のパキスタンの豪雨・洪水は、一度の巨大サイクロン等の襲来で引き起こされたものではない。2か月半にも及ぶ豪雨の影響で、大自然が持ちこたえられなくなり、山が崩れ、川が溢れ、街が至る所で水没し、人が流されるという状況だ。これまでに1100人以上が死亡し、100万棟以上の家屋が損壊・倒壊した。

 

 欧州宇宙機関(ESA)は1日、衛星による観測結果として、平年の10倍の降雨量が広範囲に及ぶ洪水の原因との見解を示した。インダス川は、南部ラルカナ(Larkana)とデラムラードジャマリ(Dera Murad Jamali)の間で氾濫、衛星写真からは、同川が幅数10kmの長い湖に変貌している状態が映し出された。ESAは、6月中旬以降の降雨量は「通常の年の10倍」であり、国土の3分の1を水没させる洪水の要因になったと説明している。

 

青と黒の色のところが洪水で水没している地域(ESAの衛星画像)
㊨は㊧の写真の被害の激しいところを拡大した。青と黒の色のところが洪水で水没している地域(ESAの衛星画像)

 

 同国の気候担当相のシェリー・レーマン氏は「気候変動で氷河が解けている。(一国でできる)対策は何もない。通常の年も、夏には氷河湖が決壊して洪水が起きるが、今年は、通常より3倍もの規模で起きている」と述べ、手の打ちようがないとしている。

 

 同国では2010年にも大洪水が起き、1700人以上が死亡、数百万人が家を失うという被害を受けた。当時の国連事務総長の潘基文氏は、それまで見た中で最悪の災害だと指摘した。しかし、今回の洪水で大きな被害が出た山間部カイバル・パクトゥンクワ州の住民らは「今回の方が2010年の洪水の時よりひどい」としている。

 

 今年の春には同国全体を録的な熱波が襲い干ばつが悪化した。その干ばつの後に、長期にわたる豪雨が続いたことで、山肌や土砂が崩れやすくなっていたともいえる。パキスタンの農地の大部分が水没し、食料不足が現実化している。ここでは「気候変動によるインフレ」は、経済金融政策での議論の対象ではなく、「現実」になっている。

 

「なす術がない」と語る気候相
「なす術がない」と語る気候担当相のレーマン氏

 

 同国のミフタ・イスマイル財務相は、洪水災害と食糧価格の高騰を受けて、物資の供給問題を緩和させるため、緊張関係が続くインドからの物資の輸入を回復させる考えを述べた。政治的対立をいったん棚上げし、人道面からの支え合いに繋がれば、せめてもの救いだが。

 

 ただ、インド自体も今年はひどい干ばつに見舞われ、食糧の輸出が大幅に減少している。ロシアのウクライナ侵攻の長期化によって、主要小麦生産国のウクライナからの食糧輸出が激減している影響もあり、世界的な食糧価格の上昇が続きそうだ。

 

 パキスタンは新型コロナウイルス感染の長期化の影響で、経済的にも、政治的にも国全体が脆弱になっているとされてきた。そこに今回の大規模な洪水災害に見舞われた形だ。イムラン・カーン前首相は4月に辞任に追い込まれ、現政権との権力闘争の中で先月、反テロ法違反の疑いで起訴されている。

 

 アーサン・イクバール計画相によると、被害は推定100億㌦にのぼり、同国の再建には10年近くを要するだろうとしている。モンスーンの雨は8月末には一時的に止んでおり、ところによっては洪水も引き始めているという。しかし国家災害管理庁によると、この洪水で1136人以上が死亡、1636人が負傷、100万戸の家屋が被災したとしている。人口2億2000万人の国で、約50万人が洪水で家を失い、難民化している。

 

 首相のシャバズ・シャリーフ氏は「われわれは、明らかな気候大災害(カタストロフィ―)の最前線に立たされている。わが国の歴史上、もっとも厳しい試練だ。われわれは気候変動の激しい影響のただ中にいるが、その原因はわれわれがつくり出したものではないのも明らかだ」と訴えた。パキスタンの一人当たり年間CO2排出量は1.06㌧。これに対して米国は14.24㌧、中国7.41㌧、EU5.84㌧。

 

 気候変動の原因を作り出した国々は、対策への取り組みを十分には行わず、気候変動にほとんど関与していない国や人々が、被害だけを受ける構図も、明白になっている。

https://toyokeizai.net/articles/-/614903

https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000266821.html