HOME5. 政策関連 |化石燃料の不拡散条約(FFNPT)の締結をバヌアツが国連総会で、国として各国に呼び掛け。「気候変動の議論は時間切れ。今すぐ行動が必要」と(RIEF) |

化石燃料の不拡散条約(FFNPT)の締結をバヌアツが国連総会で、国として各国に呼び掛け。「気候変動の議論は時間切れ。今すぐ行動が必要」と(RIEF)

2022-09-24 23:05:20

Vanuatsu002キャプチャ

  南太平洋の島嶼諸国のバヌアツ大統領のニケニケ・ヴロバラブ(Nikenike Vurobaravu)氏は24日、ニューヨークで開催中の国連総会で演説し、気候変動をグローバルに抑制するため、化石燃料不拡散条約の締結を求める演説を行った。同条約案は、核兵器の拡散を防ぐ核不拡散条約(NPT)やクラスター弾条約等をモデルとし、温室効果ガス排出源の石炭、石油、ガス等の化石燃料を対象として使用禁止を目指す。国として同条約案の推進を正式に打ち出したのはバヌアツが第一号という。

 (写真は、国連総会で化石燃料不拡散条約の締結を国として呼び掛けたバヌアツ大統領のヴロバラブ氏)

 化石燃料不拡散条約(Fossil fuel non-proliferation treaty : FFNPT)は、国連の気候変動枠組み条約(UNFCCC)が各国による気候変動対策への取り組みに照準を合わせていることに対して、化石燃料の使用そのものを禁止する国際条約の成立を目指す点で違いがある。

 UNFCCCによる毎年のCOP交渉では、すでに温暖化に対して歴史的に大きな影響を与えてきた先進国と、今後の経済成長を重視する途上国との間の交渉が難航し、温室効果ガス削減の実効性の確保に時間がかかっている。これに対して、FFNPTは国の気候政策ではなく、化石燃料の使用という経済行動を国際的に禁じることを目指す点で、エネルギー転換への決意を問う条約になり得る。

化石燃料拡散防止条約の締結を呼びかける環境活動家たち
化石燃料拡散防止条約の締結を呼びかける環境活動家たち

 条約のモデルとしては、核不拡散条約(NPT)、クラスター弾条約のほか、対人地雷禁止条約(オタワ条約)、生物化学兵器禁止条約等が想定される。いずれも、核兵器、クラスター弾、地雷、生物化学兵器等の特定兵器を製造・使用の対象とすることを禁じる条約だ。ただ、核不拡散条約(NPT)の場合、現核兵器保有国の核兵器削減にまでは踏み込んでない。FFNPTの場合、そうした例外を認めるかどうかが条約案が現実化してきた場合の焦点になるとみられる。https://rief-jp.org/ct8/94654

 国連総会で演説したバヌアツ大統領のヴロバラブ氏は、気候変動の主因であるCO2排出量の86%が、石炭、石油、天然ガスの化石燃料から生じていることを指摘。「われわれは、地球の気温上昇を『1.5℃』にとどめるため、こうした石炭、石油、ガスの製造をフェーズアウトさせる『FFNPT』の締結を国連加盟国に求める。さらに化石燃料に依存するすべての国、コミュニティ、労働者が、グローバルに公正な移行(Just Transition)を推進できるよう求める。(議論は)もう時間切れだ。今すぐ行動が必要だ」と強調した。

  同国は国際司法裁判所(本部・オランダ・ハーグ)に対しても、気候変動の影響から自らを守る権利についての勧告的意見を表明するよう要請もした。同裁判所は、国家間の法律的紛争に絡む裁定をするほか、国連総会や国際機関等の要請に応じて勧告的意見を与えることもする役割を担っている。

 ヴロバラブ氏は「気候行動を増大させるための簡単な方法はない。だが、人類のために安全な地球を目指す目的のために、われわれの力を結集するための一つのツールでもある」と指摘。有効と思えるあらゆる手段を活用する決意を示している。

 気候変動進行の影響を色濃く受けているのは、島嶼部諸国のみではない。今夏、国土の3分の1が洪水によって水没するという記録的な被害を受けたパキスタンでは、気候変動で激化した水害の影響で1500人以上が死亡、300億㌦以上の被害を出した。同国首相のシャバズ・シャリーフ氏も国連総会で「なぜ、わが国の住民たちが、地球温暖化のコストを支払わねばならないのか」と問いかけた。

 FFNPTの提案に対しては、これまでロンドン、パリ、トロント、ロサンジェルス等の68以上の都市や地域等が賛同している。またバチカン市、世界保健機関(WHO)、個人として、ノーベル平和賞を受賞したモハメド・ユヌス氏、環境活動家のグレタ・ツゥンベリー氏、デビッド・スズキ氏、多くの環境NGOらも支持を表明している。だが日本からは環境NGOの賛同はあるが、名乗りをあげた都市等はまだない。

 バヌアツは人口30万人強の小国だが、同条約締結を各国に公式に呼び掛けた最初の国になった。同国は南太平洋に位置する国で、約80の島々から構成する。各島の沿岸を合計すると1300kmに及ぶが、気候変動の影響を受ける海面上昇、サイクロン被害の増大、海洋温度の上昇によるサンゴ礁等の損失等に直面している。2020年に同国を襲ったサイクロン被害額は6億㌦に及び、同国のGDPの約60%に達する被害額となった。

 同国からの温室効果ガス排出量は地球全体の0.0016%に過ぎない。しかし、それでも同国は自らが取り得る気候変動対策を他国以上に加速させている。今月初めには、パリ協定で定めた「国が決める温暖化貢献(NDCs)」策を強化し、2030年までに国内の電力使用をほぼ100%再エネ化するとの新たな目標を設定して国連に提出している。

 今回の国連総会での大統領によるFFNPT締結へのアピールは、そうした自国の取り組み強化、自国が受ける気候変動の影響増大という「現実」を踏まえて、人口30万人の小国だが、他国に率先して、国際条約成立に向けたリーダーシップを打ち出したといえる。同じ様な気候変動激化の脅威を受けている太平洋のツバル、トンガ等の各国でも、政治指導者等がFFNPTを支持する声明を出しているが、国として条約推進を決定して他国に呼び掛けたのはバヌアツが最初。他国の追随が期待される。日本は?

https://fossilfueltreaty.org/vanuatu