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国内の主な高炭素集約企業が、3グループに分かれて、国内CCS事業化の共同取り組みを開始。石炭等の化石燃料の利用温存を前提。CCSの貯留地確保が最大の課題(RIEF)

2023-01-26 16:37:19

tomakomaiキャプチャ

 

  CO2排出量の多い国内の主な高炭素集約企業が26日、相次いで、排出したCO2を回収・貯留するCCS事業の推進で、共同取り組みを打ち出した。出光興産、伊藤忠、ENEOSの各社を軸とする3グループ。出光グループは北海道・苫小牧で、CCUS(回収・利用・貯留)事業の実現に向けた共同検討を打ち出し、伊藤忠グループは船舶を利用した国内での共同貯留事業を、ENEOSグループは西日本での貯留地確保をそれぞれ目指す。各社の共同化は、CCS事業のコスト対策とともに、最大の課題である国内での貯留候補地の確保にある。

 

 (写真は、北海道・苫小牧で実証実験として活用されたCCSプラント)

 

 出光グループは、出光興産、北海道電力、石油資源開発(JAPEX)の3社。3社はそれぞれ苫小牧エリアに事業拠点を抱えている。CCSの貯留適地については、国内で限られているが、苫小牧はすでに実証実験で一定の貯留能力が確認されている。3社は同地を軸に、複数のCO2回収地点をつなぐハブ&クラスター型CCUS事業を2030年度までに立ち上げることを目指す。

 

 苫小牧エリアは、3社の事業拠点を含む多様な産業が港湾周辺を中心に集積している。また同地では3社が参画する日本CCS調査会社を軸にして、2012年度から経済産業省のCCS実証事業が実施された経緯がある。同事業では、目標としたCO2の圧入30万㌧を2019年11月に達成し、実証化へのめどをつけたとしている。

 

 3社は同地域をCCUS事業のハブとし、周辺の工場等から排出されるCO2を回収、CO2輸送パイプラインで貯留地点に輸送し、共同で地下の貯留サイトに圧入するシステムの構築を目指す。

 

 伊藤忠グループは、三菱重工業、INPEX、大成建設の4社連合。各社の事業所等から排出されるCO2を、船舶を利用して回収して、国内貯留地まで運ぶ事業の共同研究を始める。同プロジェクトでは、素材産業をはじめ、エネルギー転換だけでは脱炭素化の達成が困難とされる産業を中心とし、それらの工場や事業所から排出されるCO2を分離回収、出荷、船舶輸送、貯留につなげる共同事業化を目指すとともに、プロセスの最終工程となる日本国内でのCO2貯留候補地の選定作業も実施する。

 

 伊藤忠は、2021年6月に貯留適地の開発に向けて大規模なCO2地中貯留技術を開発する「二酸化炭素地中貯留技術研究組合」に加入したほか、CO2排出事業者と貯留適地間の船舶による大規模広域CO2の輸送・貯留のための「CO2船舶輸送に関する研究開発および実証事業」にも参加している。これらの共同研究の成果を国内でのCCSバリューチェーン構想の実現につなげたいとしている。

 

 三菱重工は、これまでも自社が有する高性能なCO2回収技術を用いたCO2回収プラントを、世界最大級のものを含め全世界で合計14ヵ所の納入実績を持つ。大型液化CO2輸送船の技術開発も手掛けているという。国内では、INPEXは新潟県内に保有するガス田を活用したブルー水素製造事業の一環として、発生したCO2を枯渇したガス田に圧入するCCS事業を2030年に本格実施する方針で進めている。https://rief-jp.org/ct10/130109

 

 ENEOSグループは、JX石油開発、電源開発(Jパワー)の3社。西日本地区での国内CCSの事業化のために、合弁会社「西日本カーボン貯留調査会社」の設立を決定した。ENEOSとJパワーの排出源が立地し、CO2貯留ポテンシャルが見込まれる西日本地域で、貯留候補地を選ぶための探査・評価などの事業化を目指す。2030年のCO2貯留開始を目指すとしている。

 

 3グループとも、経産省系の公的機関、企業がメンバーに入っており、政策主導の官民CCS事業化の取り組みといえる。日本で官主導のCCS事業化プロジェクトが3つも同時にスタートするのは、2030年の温室効果ガス排出量46%削減、50年のネットゼロの目標を立てながら、政府自体が、石炭・石油・ガスの化石燃料利用を維持する政策を維持している点が大きい。各社は、自社努力では削減しきれないCO2排出量を、CCSで回収・貯留する技術の実用化が不可欠になっている。

 

  しかし、CCSの利用はコスト高を招く。英シンクタンクのTransitionZeroの分析では、石炭新発電技術の現在の均等化発電原価(LCOE)は、IGCC適用技術の128㌦/MWhからグリーンアンモニア混焼の296㌦/MWhまでの幅があり、平均原価は200㌦/MWh。これは、現行の太陽光発電の倍以上のコスト高となる。これにCCS導入のコストが加わると、火力発電のLCOEは最低でも約 39~65㌦/MWh上昇する、と分析している。https://rief-jp.org/ct5/122480?ctid=72

 

 CCSは、立地する石炭火力事業や高排出設備ごとに特注で設置することになるから、低コスト化には限界がある。また火力発電の場合、CCS導入により発電効率が最大25%低下する可能性もあると指摘している。そのうえで、日本のCO2貯留適地が少ない立地問題がある。同分析では、現状では貯留能力は約10年で枯渇する規模しか見込めないとしている。

 

 一方で、CO2削減のためにCCSの利用が必要なのは発電所だけではない。セメントや鉄鋼などの削減対策が困難な産業全体での需要がある。TransitionZeroは、限られた日本のCCSの貯留容量を効率的に配分する観点から、再エネを活用できる電力が石炭・ガス火力を温存してCCSを利用するよりも、セメ ントや鉄鋼などの炭素集約企業にこそCCS導入を優先させるべきと提言している。

 

 CCSの課題であるコスト高と貯留カ所の確保がうまくいかないと、政府が掲げた排出削減目標の達成も不可能になる可能性がある。官民連携のCCS事業化グループの立ち上げは、そうしたリスクを抱えながら突き進むことになる。

 

 CCS利用では、別途、日本製鉄が国内の製鉄所から発生するCO2を回収したうえで液化し、海外に輸送して地下貯留するCCS事業化方針を、米エクソンモービル、三菱商事と連携して推進する方針を打ち出している。海外での貯留は国内よりも、さらにコスト高になる。にもかかわらず同社が「海外貯留」を目指すのは、国内で十分な貯留施設が見つからない可能性を踏まえたものといえる。CO2貯留のコストはかかっても、現行の高炉による鉄鋼生産を維持するため、海外貯留を選択する判断をとっているとみられる。https://rief-jp.org/ct10/131889?ctid=72

 

https://www.idemitsu.com/jp/news/2022/230126.html

https://www.itochu.co.jp/ja/news/press/2023/230126.html
https://www.eneos.co.jp/newsrelease/upload_pdf/20230126_01_01_2008355.pdf
https://www.transitionzero.org/reports/advanced-coal-in-japan-japanese