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EU理事会、11月の国連気候変動会議(COP28)前に、「対策のない化石燃料」のグローバルな使用廃止を、2050年よりも十分に前倒しすることを求める「気候外交方針」で合意(REIF)

2023-03-14 08:01:14

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  EU理事会は11月にドバイで開く国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で、CO2削減対策をしていない(unabated)化石燃料の使用を2050年より前倒しして世界全体で廃止するよう各国に求める方針を決めた。具体的な前倒し期間は現状では示していないが、「well ahead of 2050」としている。2021年のCOP26でも同様の提案が採択されたが、海外での石油・ガス事業は含まれなかった。EUは内外の化石燃料活動をすべて含めるとともに、対象の化石燃料は、石炭、石油・ガスすべてとするグローバル合意の成立を目指す考えだ。

 

 (写真は、先週開いたEU理事会の記者会見の模様)

 

 EU理事会は先週末に「気候・エネルギー外交」に関する会合を開き、その結論として同方針を採択した。廃止対象の化石燃料事業には天然ガスも含めるが、EUのサステナブルファイナンスのタクソノミーでは、排出削減対策を備えたガス関連事業は、削減対策(abated)を盛り込んだ「移行事業」として位置づけ、それらは廃止対象から除外する。

 

 国際的な気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、世界の気温上昇をパリ協定の目標とする「1.5℃」以下に抑えるには、世界のCO2排出量を遅くとも2025年までにピークアウトさせる必要がある。さらに2030年までには43%の削減(2019年比)を実現しなければならない。CO2と並ぶ温室効果ガスのメタンについても、2030年までに少なくとも30%(2019年比)の削減が必要という。

 

EU理事会の参加者たち
EU理事会の参加者たち

 

 EU理事会はこうしたIPCCの分析に沿って、迅速なグローバル削減活動を増大する必要があると判断。COP28の会議が始まる前に、各国が「国が宣言する削減貢献(NDCs)」を自主的に改定し、より野心的で、経済全体をカバーする幅広い排出削減目標を設定するよう提案する。

 

 化石燃料使用廃止の前倒し政策に関連する形で、昨年来、EUを揺るがしてきたロシアからのガス輸入問題については、「EUはロシア産の石油・ガス、石炭の依存を段階的に終了する」としたうえで、ロシア産のガス輸入停止分を、他国からのガス輸入にそのまま代替するのではなく、再生エネルギー事業と蓄電事業を組み合わせて代替する、として「脱ロシア・脱化石燃料」の実践を掲げた。

 

 合意文書では、「化石燃料への依存を続けることは、エネルギー市場の不安定と地政学的リスクに対して、各国が脆弱な状態を続けることになる。気候ニュートラリティは、削減対策をしていない化石燃料事業の段階的な廃止(phase-out)を必要とすることになる」と指摘している。

 

 EUはCOP26の前にも、「『対策をしていない石炭火力』の帳簿を締める(Close the book)」ことの公約の必要性を再三強調し、石炭事業等への国際的なファイナンスを直ちに終了させるよう呼びかけた。その呼びかけによって、石炭については海外事業も削減・終了等の対象となった。だが、石油・ガスの早期廃止はEUの10カ国が賛同しただけだった。

 

 昨年のエジプトでのCOP27では「COP26前に成立した石炭関連事業の段階的廃止の呼びかけを、さらに石油・ガス事業に拡大するため、インド主導の80カ国以上が連合を組んで、海外の石油・ガス事業への廃止の適用拡大を目指した。しかし、石油・ガス事業者からの強い反対に直面し、COP27の最終文書には同提案は盛り込まれなかった。

 

 EU内では、次回のCOP28の会場が、石油・ガスの産油国であるUAE(アラブ首長国連合)のドバイとなることから、その実現性を追求すると改めて強い反対に直面するとの懸念もある。しかし、「1.5℃目標」のピークアウトの達成時期が、25年に迫っていること等から、今回改めて、「グローバルな化石燃料の段階的廃止を積極的に追求する公約は、EUの気候外交を高めることになる」と判断した。

 

 グローバルベースで「unabated 化石燃料事業」をフェーズアウトさせるには、「well ahead of 2050」といったあいまいな表現ではなく、より明確で、より迅速な廃止日程の設定と、「unabated」の定義づけが必要になる。焦点となるガス事業については、EUがタクソノミー分類の土壇場で「abatedなガス事業」を「トランジション」として継続を認めたが、そのEU方式をグローバル適用するかどうかが、各国との駆け引きになりそうだ。

 

 EUがタクソノミー論議でガスと同様の「トランジション分類」扱いとした原発についても、論点になる。ロシアへのエネルギー依存から脱却するうえで、原発の扱いはEU内でもまだ意見が分かれている。「脱原発」政策を堅持するドイツのシュルツ首相アドバイザーの一人は、先週の理事会で「原発で発電した電力から製造した水素エネルギーの輸入(おそらくはフランスからの輸入)に、ベルリン(独政府)は反対しない」との見解を示したという。

 

 合意文書では、どのタイプの水素エネルギーを理事会として後押しするかという明確な説明はない。だが、「安全で持続可能な低炭素技術の展開を促進する」という表現で合意した。EUでは、通常、「安全で持続可能な低炭素技術」との表現は原子力エネルギーを 意味すると受け取られている。

https://www.consilium.europa.eu/media/62942/st07248-en23.pdf