温暖化の進行による急激な気温上昇で、大気中のCO2吸収に大きな役割を果たしている熱帯林の光合成機能が、すでに影響を受けている可能性が研究で示された。国際宇宙ステーションでのNASA(米航空宇宙局)のデータや地表レベルの観測等から、熱帯林が光合成機能を維持できる気温レベルを推定、すでにいくつかの森林でその限界レベルに近づいているという。研究では地球上の熱帯林のすべての森林の葉の約0.01%で影響が生じていることを確認したとしている。森林の光合成機能が低下してCO2吸収力が落ちると、大気中に滞留するCO2量が増え、温暖化がさらに加速するほか、生態系全体が一変する懸念がある。
研究論文は、米orthern Arizona大学准教授のChristopher Doughty氏らの研究チームで、「Environmental Research」のオンラインサイトに掲載された。
研究チームは国際宇宙ステーションに搭載されているNASAの熱画像処理技術の高精細度データと、アマゾンや東南アジア等の世界中の熱帯林の地表レベルのデータを合わせて分析した。その結果、すべての熱帯林の植生の光合成を行う葉の約0.01%に相当する部分が、すでに光合成機能の限界を超えた気温の影響を受けていることを解明したとしている。
さらにモデル分析によると、グローバル気温が現状より3.9℃上昇すると、これらの熱帯林の森林の葉は大規模なダメージを引き起こす可能性があるとしている。植物の光合成は、基本的には化学反応で、温度が上がると活発になり、一方で、反応する生体の秩序(酵素タンパク質の構造など)は高温になると不安定になって活性が低下する現象が起きる。反応は植物によって異なる。
研究チームは、分析の結果、熱帯林全体の光合成機能は、地球の平均気温が46.7℃になると、機能が低下し始めると指摘。すでに現在の各森林はこの限界点に近づいている可能性があるとしている。また、世界の平均気温が現状より3.9℃上昇すると、この臨界レベルに達し、世界の熱帯林は「マス・リーブ・ダメージ(大規模な葉枯れ現象 : MLD)」を引き起こす可能性があると警告している。
研究チーム主査のChris Doughty氏は「現在はまだ熱帯林の気温は全体的には閾値以下だが、木々の葉の温度上昇の度合いは、炭鉱事故の際に鉱夫がカゴに入れたカナリアを持って入るのと同様、熱帯エコシステムの汚染状況を感知する『カナリア』の役割に近い」と述べている。
さらに、植物の種類によって葉の光合成機能の変化のレベルが異なり、2、3℃の気温上昇で反応する植物もあるが、8℃の上昇で反応する植物もあるという。こうした光合成機能への影響は一定の気温上昇によって一定の現象として起きるのではなく、非線形の気温上昇によって引き起こされる可能性を指摘している。
その場合でも、現状から3.9℃以上に気温が上昇すると、全体的なMLDが生じる可能性が高まる。植物の葉が枯れると植物自体も枯れ、森林全体が枯れることになる。同氏は「そうなるとCO2の吸収力の劇的な現象に加えて、森林に依存して生きている多くの生態系も大きな打撃を受ける」と指摘。熱帯林が消滅すると、草原のサバンナに移行する。森林は世界のCO2循環の少なくとも50%を支えているとされるが、それが草原に変わっていく場合、温暖化の進行にとどまらず、地球の生態系全体が大きく影響を受けることになる。
ただ、Doughty氏は「われわれのモデルは、森林が受けるダメージを解明したが、それは避けられないことではない。基本的な気候緩和策を進めることで、この問題を回避することは可能だ。主要な森林地域において追加的な研究を行い、熱帯林が光合成機能の限界レベルに対応できる可能性の検証も必要だ」としている。各国が気温上昇につながる温室効果ガス排出増加を抑制する効果的な気候変動対策を迅速に展開できるかどうかが、問われているわけだ。
https://www.cdoughty.org/_files/ugd/935b97_08b64f86bb794fd1b02229e8a39423bd.pdf
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/2752-664X/ace723
https://www.theguardian.com/environment/2023/aug/23/tropical-forest-face-massive-leaf-death-global-heating-unable-conduct-photosynthesis-study