国連のグテレス事務総長。パリ協定の「1.5℃目標」の達成、「今後数年間で『1.5℃』以下に抑えることはできない」と認める。米国のパリ協定離脱、EU加盟国内での調整難等を踏まえ(RIEF)
2025-10-24 13:46:14
(写真は、世界気象機関(WMO)の会合でスピーチするグテレス国連事務総長=国連資料から引用)
国連事務総長のアントニオ・グテレス(António Guterres)氏は22日、気候変動を抑制するために、パリ協定で合意した世界の気温上昇を産業革命前の水準から1.5℃に抑えるという目標を、「短期的には達成できない」ことを認めた。同氏は、1カ月前の国連気候サミットでは「1.5℃に抑えることはまだ可能」と述べていたが、このほど、ジュネーブの世界気象機関(WMO)での会合では「一つはっきりしていることがある。今後数年間で地球温暖化を1.5℃以下に抑えることはできない(“One thing is already clear: we will not be able to contain global warming below 1.5 degrees in the next few years)」と述べた。
同氏は9月の国連気候サミットでは、「今世紀末までに、1.5℃に抑えることはまだ可能」と長期的な見通しを示していた。その際、「過去10年間で、現在のNDCが完全に実施されれば、予測される地球の気温上昇は4℃から3℃未満に低下していたことになる」とも指摘し、そうなっていないのはNDCの目標の甘さと対応が十分でない点にあるとの判断から、「われわれは2035年に向けた新たな計画を必要としている」と各国に向けて改定NDCの提出を求めた。
しかし、11月のブラジルでの国連気候変動枠組み条約(COP30)の開催が間近に迫っているにもかかわらず、各国の対応は遅れている。米国のパリ協定からの離脱が11月4日と間近に迫っているほか、EUも加盟国間の調整が進んでおらず、現時点での改定NDCの提出が遅れている。
グテレス氏の今回の発言は、一方で温室効果ガス(GHG)排出量をネットゼロに向けて真剣に削減していけば、「私が会ったすべての科学者によれば、今世紀末までに1.5℃という目標はなお可能」とも付け加えている。長期的な「1.5℃目標」の達成はまだ可能だが、短期的(ここ数年)には困難とするものだ。
2015年に各国が合意したパリ協定は、産業革命前(1850~1900年)からの気温上昇を2℃未満、可能なら1.5℃未満に抑えることを掲げている。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、世界の気温上昇を同協定の1.5℃以内に抑えるためには、排出量を大幅に削減する必要があると指摘している。
グテレス氏の最新の発言でのウエイトを、短期的な点に置くか、長期的な点に置くかは、各国の政策当局を含め、企業、消費者、関係機関等の地球の変化の影響を受けるすべてのステークホルダーによって異なるだろう。しかし、長期的な温暖化抑制は短期的な努力・取組の積み上げによるうえに、時間の経過とともに温暖化の影響は悪化することを考えると、われわれは短期的な努力・取組を重ねる以外に、温暖化の影響から逃れる術はないことになる。
グテレス氏が、「1.5℃」目標の短期的な達成見通しが得られない点に言及したのは、9月の国連総会でのトランプ米大統領の演説を意識した可能性がある。トランプ氏は「気候変動は、私の意見では、世界で最大の詐欺だ」「(再生可能エネルギーについても)ジョークだ。機能しない。コストが高すぎる」等と正面から批判した。このトランプ発言を受けて、これまで、ネットの陰で「温暖化のウソ論」を主張してきた反気候変動論者たちが、これを機に、再び同様の主張を表立ってし始めている。
グテレス氏はこの点を踏まえて、「われわれは、誤情報や偽情報、オンライン上の嫌がらせ、グリーンウォッシングと戦う必要がある」と強調。「科学者や研究者は真実を語ることを恐れてはならない」とも述べた。
一方で、WMOによると、過去50年間で気候変動の影響とみられる気象・水・気候関連の災害により200万人以上が死亡し、その90%が途上国での死者となっている。温暖化、気候変動は、すでに起きており、気候災害の影響度は加速化しているのだ。
各国の気候対策の取り組みも遅れ気味だが、確実に積み上がってきている点についても、同氏は強調した。「2024年にはほぼすべての新規発電容量が再生可能エネルギーによるもので、再エネ投資が急増している」とデータに基づいて指摘。「再エネ発電は最も安価で、最も速く、最も賢明な新電源だ。それが気候破壊を食い止める唯一の確かな道だ」と述べた。
その上で、「地球温暖化は我々の惑星(地球)を瀬戸際へと押し上げている。過去10年のすべての年が観測史上最も暑い年だった。海洋の高温は記録を更新し、生態系を壊滅させている。そして、火災、洪水、嵐、熱波から安全な国はない」と述べ、各国に1.5℃目標に沿った「大胆な」気候計画を盛り込んだ改定NDCの提出を求めた。
(藤井良広)

































Research Institute for Environmental Finance