HOME |国際金融情報センター理事長(元財務官)の玉木林太郎氏。気候変動対策は、国際的な経済システム変革の影響を受けた対応の必要性強調。一部メディアの「現実的な対応」論には危惧示す(RIEF) |

国際金融情報センター理事長(元財務官)の玉木林太郎氏。気候変動対策は、国際的な経済システム変革の影響を受けた対応の必要性強調。一部メディアの「現実的な対応」論には危惧示す(RIEF)

2026-01-25 02:15:23

tamaki0012026-01-25 012954

 

   元財務官で、公益財団法人国際金融情報センター理事長の玉木林太郎氏は、世界の気候変動政策が国際的な経済システム変革の影響を受けて、新たな対応を求められているとの見方を示した。トランプ米大統領の独自の国際政策の展開で世界が振り回されているが、玉木氏は「米国一国が突然、変わったからシステム変革が起きているのではない。国際社会のフレームワーク自体が大きく変わろうとしている」との認識に立ち、気候対策の作業もそうした国際社会全体の枠組みの変化の中で取り組んでいく必要があるとした。また最近の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)の成果の低迷で、「世界の気候対策がより現実的になってきた」との論調が一部のメディアで出ている点に危惧を示し、「われわれは、今現在の『現実』だけでなく、2030年、2050年等の『少し先の現実』への対応も求められている」とし、この二つの「現実」に対応しなければならないと強調した。

 

 玉木氏は、23日に東京・内幸町の日本記者クラブで開いた一般社団法人環境金融研究機構主催の「第11回(2025年)サステナブルファイナンス大賞授賞式」で基調講演を行った。同氏はOECD事務次長として国際的な気候・環境政策にも取り組んできた。同大賞の審査委員の1人でもある。

 

 同氏は、世界中がトランプ政権の米国に振り回されているかに見える現状について、「1991年に冷戦が終結し、その後30年余にわたって、『自由と民主主義』『自由貿易』などが、当然の真理としてわれわれの頭の上に広がっているという事態が続いたが、そうした事態は終わりを告げたのではないか」との見解を述べた。自由と民主主義等のテーマが間違っていたわけではなく、依然として社会で価値を持ち続けているが、それらを踏まえてきた経済システムは、もう元に戻らない状況にあるとの見方だ。

 

 こうした世界全体のシステム変革が進む中で、「われわれは脱炭素化のエネルギー転換を目指す気候変動対策に取り組んでいかねばならない」とした。そして、「世界全体のシステム変革と、それよりも少し小さいなシステム変革(エネルギー転換・気候対策)は、相互にぶつかる」とした。その例として、中国が電気自動車(EV)から太陽光パネル、風力発電等で国際的に圧倒的な市場支配力を持つことで、EUのカーボン国境調整メカニズム(CBAM)の論議のように、保護主義か、公平な競争条件の確保かという議論が生じている点を示した。

 

授賞式で基調講演を行う玉木氏
授賞式で基調講演を行う玉木氏

 

 また脱炭素化への変革では、既存の電力会社等が現在抱えている化石燃料設備等の脱炭素化・低炭素化を求められる中で、コスト面、技術面等から、ほどほどの取り組みを「現実的な取り組み」として立ち止まろうとする点に懸念を示した。「現状」しか踏まえない取り組みでは、2030年、あるいは40年、50年に事態が悪化する状況には対応できなくなるためだ。

 

 「われわれは、『今の現実』と、今朝は雨だが、夕方には間違いなく雪になるというような『近い現実』にも対応しなければならない。この二つの近接した『現実』の間で、何とかしなければならない。二つの対立した課題を何とか調整していかなければならない、という事態に立ち至っている」との評価を示した。

 

 そのうえで、「われわれはもちろん、現実的でなければいけない。しかしその場合の現実というのは、2026年の『今の現実』だけではない。われわれが向かっている『先行きの現実』にも対応しなければならない。2030年までにはあと4年しかない。2050年には24年しかない。気候変動というテーマをとれば、われわれが何をするかによって何が起きるか、何をしないかによって、何が起きるか、という『少し先の現実』も、また動かしがたい現実だ」として、高炭素排出産業・企業が、選択したがる「ほどほどの気候対策」を「現実的」と評する最近のメディアの論調を一蹴した。

 

 またより大きなシステム変革の中で気候対策を議論する際には、テーマだけではなく、ステークホルダーとの「協働」の必要性も求めた。例えば、気候変動によってCBAMのような貿易問題が絡んでくる場合には、気候COPだけでの議論では、埒が明かないので、世界貿易機関(WTO)との協働が大きなテーマになってくる、とした。

 

 「(気候対策は)化石燃料の使用を減らしていけばいい、との割とシンプルなテーマで始まった議論だが、ここにきて、様々な未来と、様々な課題、そしてそれらが複雑に絡み合った状況に、われわれは追い込まれてきている。これは一定の進歩ではあると思うが、ますます困難な道に、われわれは入ってきたと痛感せざるにはおられない」と先行きの困難さを強調した。

 

 しかし「少し先の『現実』」を解決するには、この困難な道を歩み通す必要があることは間違いがない。ほどほどの現実、安易な現実主義には、求められる出口にはたどり着けず、立ち尽くすだけとなるリスクが漂っている。

 

                           (藤井良広)