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温室効果ガス排出削減目標の大幅後退は容認できない(KIKO)

2013-10-03 10:26:57

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10月1日の関係閣僚会議において、日本の温室効果ガス削減目標を2020年までに2005年比6%か7%減程度とする方向で調整に入ったと報じられました。同日の記者会見で菅義偉内閣官房長官はこの報道内容を否定していますが、ここで示された削減は実質1990年の基準年よりも増え、京都議定書第一約束期間の6%削減よりも緩いものであり、もしこのような方向での検討をしているとすれば、到底、市民社会や国際社会から受け入れられる数字ではありません。

 

先週、IPCC第5次評価報告書第一作業部会の報告書が発表され、地球温暖化が人類の活動によるものであることはほぼ確実で、気温上昇や海氷や氷河の融解、海面上昇の推移などについての非常に厳しい現状と将来予測がつきつけられました。この報告書に基づき、各国政府は、温室効果ガスの大幅削減に向けた行動と選択をすることが求められています。

気候の危機を回避するために、気温の上昇を産業革命よりも前に比べて2℃におさえるという国際合意がなされています。そして、世界第5位の温室効果ガスの大量排出国である日本には自ら削減する非常に大きな責任があり、そのための目標設定と行動を示すことが重要です。

2009年に国際的に発表された1990年比25%削減という日本の2020年目標を、安倍首相はゼロから見直すと表明し、来月ワルシャワで開催されるCOP19 までに日本として新しい削減目標を提示するかが注視されています。しかし、報道のような後退する方向で検討されるなら、気候変動問題へも国際交渉にも全く貢献できないものになりかねません。

 

2009年の麻生政権時、中期目標検討委員会で示された中期目標の選択肢でCO2排出量を90年より増やすオプションや京都議定書の目標値よりも低いオプションが提案され、国際的にも非難の声があがりました。その当時よりもさらに後退する目標を提示するようなことになれば、世界からさらなる批判を浴びることは明白です。ondanka20131002

日本として、COP19前に2020年の削減目標を設定することは不可欠です。そして、その際には、以下のポイントを踏まえるべきです。

 

1.科学が示す必要なレベルの削減目標であること


気候変動による破滅的な状況を回避するためには、産業革命以前からの全球平均気温の上昇幅を2℃未満に抑えることが不可欠です。「気温上昇幅を2℃未満に抑える」という目標は、2015年頃までに世界の排出量のピークを迎え、その後急速に減少方向へ向かわせることを意味します。この達成に向け、先進国は、全体として、最低でも1990年比で2020年までに25~40%の削減という目標を設定する必要があるとされています。

しかし世界各国の削減目標水準はこの目標に届かず、国際交渉では2020年までの削減レベルの引き上げが議論されており、COP19の重要なテーマとなっています。その中で、日本が「1990年比25%削減」を下回る削減目標に引き下げれば、排出削減努力の引き上げによって排出ギャップを埋めようとする世界の取り組みに水を差すだけです。日本の目標は、科学に基づく野心的なものとすべきです。

 

2.「原発ゼロか温暖化対策か」の二者択一ではない方向性を示すこと


東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて、今国内の原発はすべて停止しています。福島原発事故で多くの人たちが避難生活を強いられ、現場では命がけの作業が行なわれています。また、福島原発事故の原因は解明されず、いまだに放射性物質が大量に環境中に垂れ流され、きわめて深刻な事態になっています。そのような状況下、原発再稼働を前提とする議論は到底受入れられず、かつてのように温暖化対策の柱にすることは全く現実的ではありません。

他方、原発ゼロとすることで火力発電所を増やしCO2排出を増やしていいということにはなりません。2020年に原発ゼロを前提に、再生可能エネルギーの導入と省エネルギーの積極的な強化によって、温暖化対策を犠牲にせず、削減可能性を最大限引き出す目標とすべきです。

 

3.基準年は1990年比で示すこと


京都議定書では1990年を基準年としてその削減目標が定められ、日本は第一約束期間(2008年から2012年)において、6%削減の義務を負い、「2020年25%削減」の目標も1990年を基準年としていました。

しかし、今回報じられたような2005年を基準年とすることは、1990年の排出量から7.8%も増加している年であり、削減数値目標を大きく見せるためのごまかしでしかありません。姑息な「基準年ずらし」はしないよう求めます。

 

4. 透明性のあるプロセスで決定すること


安倍首相の指示を受け、現在、環境省の中央環境審議会と経済産業省の産業構造審議会の合同部会において審議が行われています。しかし、これまでの審議では具体的な削減目標数値についてのオプションなどの検討は一切行われていません。公開の議論が全くない中で、報道では、10月1日の関係閣僚会議において目標の調整について議論が行われ、そのプロセスも根拠も全く不透明です。今後の環境・エネルギー政策方針にとって極めて重要な中期目標に関する議論は、このような形で密室で審議し、決定すべきではありません。上記の論点もふまえ、経済界など一部のステークホルダーだけではなく、NGOや市民の参加の機会をつくり、透明性を確保したプロセスを通じて民主的に決定するべきです。

 

http://www.kikonet.org/iken/kokunai/2013-10-02.html