英ガーディアン紙の“すご腕”前編集長 ゲイツ財団などに温暖化加速企業への株投資から資金引き揚げ（Divestment）を呼びかけ、ブログで賛同者募る（FGW）
2015-06-26 15:31:32
英ガーディアン紙の“すご腕”編集長として知られたアラン・ラスブリジャー氏（Alan Rusbridger）。このほど、20年間に及ぶ編集長の座を降りたが、退任前に同紙のブログで始めた「呼びかけの輪」が広がっている。世界最大の慈善基金であるビルゲイツのビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団と、世界で二番目に裕福な医療研究支援財団の英国のウェルカム・トラストに対して、財団の投資対象から地球温暖化を加速するような企業への投資を引き揚げること（divestment）を求めているのだ。
同紙のウェブサイト上のブログでの呼びかけは、ラスブリジャー氏が退任後も継続され、賛同者を募っている。ラスブリジャー氏は、「ゲイツ財団はこれまで、小児麻痺や、HIV、マラリア撲滅などのために、活動してきた。今度は気候変動を止めるリード役になってくれないか」と求めている。豊富な資金を持つゲイツ財団や、人の健康維持のための医学研究支援を目的とする両財団には、多くの人が資金拠出を求めるが、権力者の追及に辣腕を奮ったラスブリジャー氏だけに、呼びかけのインパクトは小さくない。
同氏は1995年～2015年にわたって、ガーディアン紙のNews &Mediaの編集長を務めた。この間、ガーディアンは元米情報部員、エドワード・スノーデンの米極秘情報の報道で、米英政府の圧力を跳ね返して取材し続けたほか、ウィキリークスの報道や、英政権や権力者の秘密を暴露する独立した報道などで知られてきた。スノーデンの報道で、同紙は米ピュリツアー賞を受賞している。またラスブリジャー氏の在任中、同紙は英国で5回も年間新聞賞を受賞、同氏自身も年間編集長賞を3回受賞している。
60歳を過ぎたことから、このほど、第一線から引いたが、ブログに書き残した2つの財団への呼びかけは、環境報道でも群を抜くガーディアンの面目躍如の行動である。しかし、ジャーナリストが、報道の中立性や客観性などの原則を飛び越えて特定の財団、個人に、投資行動の変更を求める行動を、日本の報道人が演じようものなら物議を醸すところだろう。だが、英国ではすでに20万以上の賛同が集まっている。
温暖化問題を巡っては、国連IPCCの報告で科学的見地からの警告が何度も発せられている。だが、既存の利害関係の構図を変える力が、政府にも、主要産業界にも、強く働き、対策が十分にとられていない。そうした構図は日本だけでなく、英国など欧米社会でも同様である。そこで、社会の木鐸たるジャーナリストは、紙面で警鐘を鳴らすだけではなく、影響力を持つ人や主体に、直接呼びかけてでも、世の中の流れを食い止めるべき、というのがラスブリジャー氏の信念のようだ。
呼びかけられた側も、容易ではない。公益性は財団の存立基盤である。温暖化の影響をもっとも受ける貧しい人々、温暖化の結果だけを引き受けざるを得ない将来世代に共通する公益性をどう果たすのか、という呼びかけである。実際に両財団は世界中の環境NGOなどが毛嫌いする石炭開発、石炭火力発電等の”ダーティ産業”にも投資していることが知られている。
ウエルカムトラストは180億ポンド以上の運用ポートフォリオを抱え、2014年には5億6400万ポンドを、シェル、BP、リオテント、BHPビリトンなどの化石燃料開発の株に投じている。ゲイツ財団も、14億㌦をエネルギー産業株に投資している、とされる。また両財団とも、資金量が豊富なことで知られているだけに、「divestment」をしない場合は、その説明が求められる。
ラスブリジャー氏は、明確には言及していないが、両財団とも、このまま旧来の投資姿勢を変えないと「財団の慈善活動は、”偽善”ではないか」といった疑念を、社会に抱かれる可能性もある。同氏が求める「divestment」の行動は、財団の基本的な使命、行動と類似性がある点も無視できない。同氏はブログで、divestmentを「一つはモラル、もう一つはファイナンス（資金運用）」と言い当てている。
さて、ビル・ゲイツ氏、ウェルカムトラストがどう動くか。
Research Institute for Environmental Finance