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英政府 石炭からのCO2排出回収貯留のCCSプロジェクト支援を断念。シェールガス開発にシフト、COP21後のエネルギー開発に一石(RIEF)

2015-12-08 16:24:03

CCSキャプチャ

 国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で、石炭等の化石燃料関連産業への風当たりが強まっているが、石炭産業が唯一、期待をかけるCCS(二酸化炭素の回収貯留)技術開発にも暗雲が立ち込めた。英国が開発計画を断念したためだ。

 

 CCS技術は、石炭火力発電や工場などから排出されるCO2をアルカリ性溶液やゼオライトなどの吸着材で吸収し、分離・回収する方法。回収方法には科学的吸収法、物理吸収法、吸着法等多様な手法が考慮されている。回収したCO2は地中の帯水層など貯留する。つまり、石炭火力などは従来どおり使いながら、排出されるCO2だけ取り除くわけだ。

 

 同技術を低コストで利用できれば、石炭産業も生き残れ、また温暖化対策も進む一石二鳥が期待されている。なので「夢の技術」でもある。欧米で研究・実用化が進められているほか、日本でも経済産業省が推進している。

 

 欧州ではEUが2009年にCCS指令(CO2地中貯留指令)を施行、実用化に向けて取り組みを進めている。その中でも英国の大規模プロジェクト(10億ポンド)に期待が集まっていた。しかし、英国政府はこのほど示した来年度予算方針で、来春に議会に提出する予算書に同プロジェクトの予算を盛り込まない方針を決めた。

 

 実際にはオズボーン蔵相が行う恒例のオータムステートメントではCCSについての予算停止の言及盛り込まれなかったが、ロンドン証券取引所はエネルギー気候変動省(DECC)から「CCSへの予算支出はもはや利用できない」と言明されたという。

 

 

 この情報にCCS協会( Carbon Capture and Storage Association)や、機械技術工業会などは、「驚きであり、信じられない」などのコメントを一斉に出した。英国の「CCSからの撤退」のニュースは、欧州の他国にも大きな影響を与えている。その最大の理由が「経済的に合理性を欠く」という点にあるためだ。

 

 CCS協会CEOのLuke Warren氏は「6ヶ月前の政府のマニュフェストには10億ポンドの資金支援へのコミットがあった。政府の支援がないと、ビジネス界だけでは費用効果バランスのとれたCCS投資は大変難しくなる」と落胆の声明を出している。

 

 英国ではこれまで14箇所でCCS計画が立案されている(石油エネルギー技術センター調べ) 。そのうち、もっとも有名なのが、Capture Powerがイングランド地方の White Roseで計画中のもので、これは石炭 火力発電所のDrax power stationから年200万㌧ のCO2を回収する計画。もう一つはShellがスコットランドのPeterheadでガス火力発電所にCCSを併設する計画。ただ、他の計画のうち5箇所はすでに中止されている。

 

 CCSの技術的可能性は立証されているが、経済的実用性は不確定の段階だ。現時点で、世界で商業プラントとして稼動しているのはカナダのバウンダリーバレーCCS事業だけとされる。最大の課題は、CCSプラントを建設する初期投資の大きさにある。投資資金は、事業開始後長期間にわたってCO2を回収するキャッシュフローで回収される仕組みだが、事業リスクが大きいので、官民連携でないと民間の投資が得られない可能性が高い。

 

 また仮に、大規模なCCSプラントを建設できた場合でも、太陽光発電などの再生可能エネルギー発電のコスト削減が進み、「石炭価格+CCSコスト」を下回る可能性もある。そうなると、CCSプラント自体が「Stranded Assets(座礁資産)」になってしまう。

 

 CCS事業を推進しているCapture PowerのCEO、Leigh Hackett氏は「政府の決断は驚きだ。しかし、われわれのWhite Roseの進行中のプロジェクトを停止するかどうかの判断をするのは早すぎる。かといって、政府支援なく事業を遂行することも考えがたい」と苦渋の胸のうちを明かす。

 

 英国政府はCCS計画を見直すとともに、天然ガス利用を強化する方針だ。オズボーン蔵相もアナウンスメントの中で、シェルが中心になって進めている英国内外でシェールガス開発を支援する「 Shale Wealth Fund」の設立を宣言した。長期の時間と、膨大な費用がかさむCCSより、短期間で開発が可能でコストも安いシェールガスへの政策シフト「CCSよりシェール」なのである。

 

 ただ、シェールガス促進に対して環境NGOなどは、フラッキング問題による地震や環境汚染問題を懸念する動きもある。英政府の「CCSよりシェール」の政策選択は、今後も英国内外を揺さぶりそうだ。

 

http://www.powerengineeringint.com/articles/2015/11/ccs-sector-stunned-as-uk-scraps-1bn-programme.html?cmpid=EnlPEIDecember12015&eid=312062519&bid=1244654