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マクロン仏政権、燃料税増税の失敗に続き、温暖化対策の「不作為」で環境4団体からの法的手続きに直面。2か月以内に明確に回答できないと本訴訟に移行。ピンチが続く政権運営(RIEF)

2018-12-25 22:48:44

マクロン「お手上げ」か?

 

  温暖化対策の財源確保を目指した燃料税引上げ策を「黄色いベスト」運動に阻まれたマクロン仏政権が、新たな温暖化要求で揺さぶられている。グリーンピースフランスなどの環境NGO4団体が、仏政府は十分な気候変動対策を講じていないとして、エドアルド・フィリップ首相と関係閣僚を相手に、訴訟準備の書面を送付したためだ。政府が2か月以内に効果的な対応をとらない限り、本訴訟に入るという。

 

 首相らに 「lettre préalable indemnitaire (letter of formal notice)」と呼ばれる 書簡を送付したのは、Fondation pour la Nature et l’Homme (FNH)、 Greenpeace France、 Notre Affaire à Tous、Oxfam Franceの4団体。

 

 書簡は法的訴訟手続きの第一ステップで、政府の「温暖化対策での不作為(action for failure to act)」を追及する内容だ。パリ協定を主催したフランスだが、国内の温暖化対策が法的に求められる体制になっていないとして、政府の「怠慢」を指摘するものだ。

 

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 仏政府のこうした対応は同国の憲法に抵触するほか、欧州人権憲章、国連人間宣言、環境と開発のリオ宣言、国連気候変動枠組み条約、京都議定書、パリ協定などの一連の気候変動対策を求める国際枠組みにも合致しない、としている。さらに国内のエネルギー転換法、EUの再生可能エネルギーや気候変動パッケージなどに基づく市民の権利をも阻害する、としている。

 

 

 法的書簡を突き付けられた仏政府が、今後2カ月間に適格な対応を示さない限り、4団体は来年の3月にはパリ行政裁判所に提訴するという。訴訟は2年間で結審する。仮に原告側が敗訴した場合、さらに上告審で争われる見通しで、仏政府の温暖化対策の有効性は法廷での検証が続くことになる。

 

 政府の気候変動対策が不十分だとして環境団体が政府を訴えた事例としては、オランダの「気候訴訟」で、今年10月にハーグの控訴審裁判所が、原告の環境団体の訴えを認めた一審判決を支持し、原告の訴えに軍配をあげる判決を出している。http://rief-jp.org/ct8/83611?ctid=32

 

 オランダでの控訴審判決は、温室効果ガスの排出削減は2020年までに少なくとも25%削減(1990年比)が必要とし、政府の政策の不備を認めた。政府の温暖化政策の不十分さを訴える訴訟はノルウェー、アイルランド、米国などでも展開されている(日本ではまだだが)。

 

 米コロンビア大学の「気候変動のためのサビン・センター」の調査では、この10年間で、気候変動対策を政府に求める訴訟は世界中で約1000件にも上っているという。訴訟のいくつかは、企業が規制緩和を求める内容のものもあるが、大多数は環境NGOや市民団体、個人、地域コミュニティなどが政府の対応の緩さを不満として訴えるケースという。

 

 燃料税増税に失敗し、財政赤字の拡大懸念にも直面しているマクロン政権が、国民の支持回復のために、起死回生の温暖化対策を打ち出せるか。それとも、国民の不信感をさらに高め、政権運営で袋小路に入り込んでしまうかーー。時間はあまりない。

 

http://blogs2.law.columbia.edu/climate-change-litigation/wp-content/uploads/sites/16/non-us-case-documents/2018/20181218_NA_press-release.pdf