HOME |チリのピニェラ大統領、12月のCOP25の開催返上を宣言。国内の社会混乱対策を優先。11月のAPEC首脳会議も見送り(RIEF) |

チリのピニェラ大統領、12月のCOP25の開催返上を宣言。国内の社会混乱対策を優先。11月のAPEC首脳会議も見送り(RIEF)

2019-10-31 06:44:40

Chile5キャプチャ

 

 社会的不平等への市民反発で混乱が拡大しているチリ政府は、11月に予定していたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議と、12月開催予定の第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)の開催をいずれも返上すると明言した。COP25については国連気候変動枠組み条約(UNCCC)の事務局のあるドイツ・ボンでの代替開催が有力となっている。

 

 (写真は、APEC、COP25開催の返上を明らかにするピニェラ大統領)

 

 COP25とAPEC首脳会議の返上は、セバスティアン・ピニェラ(Sebastian Pinera)大統領が10月30日の朝、大統領官邸で明言した。大統領の会見には、環境相でCOP25の議長でもあるCarolina Schmidt氏と、外務相のTeodoro Ribera氏も同席した。

 

 ピニェラ大統領は「今回の会議返上の決定は、APECとCOPにご迷惑とご不便をかけることになり大変残念だ。しかし、チリの大統領として、わたしは常に、チリの課題と関心、チリ国民の必要性と、彼らの望み、そして希望を、最優先に考えなければならない」と述べた。

 

治安当局の装甲車を攻撃する“抗議行動参加者”
治安当局の警備車両を攻撃する抗議行動参加者

 

 

 同国では、首都サンチアゴの地下鉄運賃の値上げをきっかけに市民の不満が爆発、恒常的な貧富の格差拡大などに対する怒りが広がり、ここ数十年で最悪の社会的混乱で首都各地で抗議行動や暴動が起きた。このため、今月18日夜には、ピニェラ大統領は、首都一帯に非常事態宣言を発令し、500人規模の軍の部隊を動員した。

 

 これまでに、すでに19人が治安当局との衝突で死亡している。しかし、住民の不満は治まらず、首都サンティアゴで始まったデモや抗議行動は国内のほかの都市に拡大している。チリは1990年の民政移管以来、比較的豊かで政治的に安定した国だっただけに、今回の混乱は内外に衝撃を与えている。

 

 すでにシュミット環境相は、UNFCCCの事務局に対して、12月2日からサンチアゴで開催する予定だったCOP25の開催は難しい旨を書簡でも伝えたという。

 

チリ環境相のSmidht氏
チリ環境相のシュミット氏

 

 UNFCCCの事務局長のパトリシア・エスピノザ氏( Patricia Espinosa)は、チリからの通知を受けたことを確認している。「われわれは次のステップのための議論を開始した」と説明している。

 

 代替案としては、COP25の共同開催国となっているコスタリカでの開催案と、UNFCCCの事務局のあるボンでの開催案が浮上している。またチリ政府は、COP25の交渉についての責任は、次期COP26の開催国に引き継ぐまでは担当するとの意向も示しているという。

 

 ただ、サンチアゴでの騒動が治まる見通しはまだ得られていない。COP25はパリ協定の国別温暖化対策公約(NDCs)の見直し確定を決める場となることから、協定に沿った各国政策の確保をする重要な会議となる。

 

 チリの開催自体も、当初のブラジル開催がボルサナロ大統領の就任で見送られるという事態が生じ、チリが代役として名乗りをあげた経緯がある。

 

 共同開催国となっているコスタリカは、10月、「プレCOP会議」を開催し、当初はチリと競う形でCOP25招致に動いていた。しかし、すでに開催まで1か月余りしかなく、数千人の参加者が予想されるCOP25の準備を今から行うことは、同国にとって物理的に、かなり厳しいとみられる。

 

 そこでボン開催案が浮上している。過去にも2017年のCOP23は南太平洋のフィジーが開催国だったが、同国にはCOPに適した国際会議場がなく、準備が十分できなかったため、ボンで開催したという経緯がある。ドイツの環境相のJochen Flasbarth氏は、現在、UNFCCCの事務局および、前回のCOP24を開催したポーランドとコンタクトしていることを明らかにしている。