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電力全面自由化”の掛け声の陰、消費者の自由な選択を阻む「小売電気事業省令案」の姑息な規定(藤井良広)

2015-07-13 13:48:12

Germanyキャプチャ

電力自由化に関連して「小売電気事業の登録の申請等に関する省令案」が示されているが、その内容が自由化の趣旨と反する「極めて統制的」な規定を含んでいることから、環境NGOや市民団体等が反発、条文の撤回を求めている。

 

 問題となっているのは、省令案第4条。固定価格買取制度(FIT)で交付金を受けている小売事業者や登録特定送配電事業者などは「(消費者に販売する)再生可能エネルギー電気が環境への負荷の低減に資するものである旨を説明してはならない」と書かれている点だ。

 

 経済産業省はFITで環境価値に対しての対価が支払われている、というのが「説明してはならない」理由だという。環境NGOの気候ネットワークは「これは削除すべきである。(FITの対象であるとの)説明を書くようにすればよいだけで、環境価値があることを説明してはならないと禁止するのはおかしい」と批判する。

 

 通常の商取引では、商品性の説明をするのは、その説明が虚偽でない限り、ビジネス上の工夫や智恵に基づいて自由に行えるのが市場経済の基本である。買い手である消費者は、原料が何であるか、何が添加されているか、製造工程は大丈夫か、などを吟味して商品を選択する。

 

 売り手側は、追加コストをかけてでも、こうした消費者の嗜好・選択に沿うように商品性を工夫し、その智恵で競いあっている。環境価値もそうした消費者が電力商品を吟味する際に、必要な「商品情報」であることは明らかである。実際に、再エネ発電が普及しているドイツなどでは、消費者は電力商品を価格だけではなく、「何で発電しているか」も評価して契約を結ぶ自由を保証されている。

 

 日本でこの条文が通ってしまうと、再エネ発電の電力を買いたい人も、原子力発電も石炭火力発電も“混ぜこぜ”の電力と、再エネ電力の見分けがつかない立場に立たされる。しかも、そうした商品性を区別することが技術的に複雑で困難を伴うということならばまだしも、発電事業者と小売事業者が契約を結べば原材料の再エネ電力の確保は確実に行える。

 

 行政が「表示をしてはならない」と省令で命じるのは、そうしないと消費者に不利益が生じるなどの懸念がある場合だが、そうした懸念があるのだろうか。

 

 条文が意図するのは紛れもなく、「再エネ発電を普及させたくない。原子力発電を孤立させたくない」という経済産業省の政治的思惑である。電力自由化で選択の自由を確保できるようになる消費者のことを思っての規制ではなく、役所の都合を最優先して法規制に盛り込もうとしているとしか映らない。そうだとすると、経済産業省の行動は、自由な経済活動を阻害する由々しき行動である。

 

 経済産業省は果たして経済取引の活発化のために存在しているのだろうか。別の目的のために存在しているのか、と疑いも出てくる。行政の役割は、自由化した市場での行きすぎたダンピングや、談合、虚偽のセールストークなどに監視の目を光らせ、消費者が判断しやすい適正な情報開示の促進、紛争の防止・仲裁などの機能に徹するべきだ。

 

 本来は、食品などの他の商品が広範な消費者から求められているように、商品内容の明確な表示こそが、今、求められる。環境NGOなどは、そうした「電源別の表示義務化」を求めている。役所がどこを向いて法案や省令案を作成しているのか、極めてわかりやすい事例だといえる。この条文をこのまま見過ごしてはならない。(藤井良広)

http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=620115020%20%20&Mode=0