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トランプ次期米大統領 米国の温暖化対策への影響と「影の支配者」との関係は?(藤井良広)

2016-11-15 15:50:43

Trumpキャプチャ

 トランプ米次期大統領の確定で、今後の米国の地球温暖化政策は大きく軌道修正されるとみられる。トランプ氏は何度も温暖化問題を軽視する発言をしてきたためだ。ただ、温暖化対策の行方には、トランプ氏自身よりも、同時に行われた議会選挙で共和党を強く支持した「影の大物」の動向が、大きい。

 

写真は、次期副大統領のペンス氏㊧と、トランプ次期大統領)

 トランプ氏は大統領選の前から、何度か温暖化問題について発言している。有名なのは、2012年11月に「地球温暖化の概念は、米国製造業の競争力を奪うために、中国により作られたもの」とツィッターでつぶやいたことだ。大統領選の討論会で、この点を指摘された際、トランプは自分のツイートを否定し、ウソをついた、と報道された。

 2013年12月にもツィッターで「地球温暖化はインチキだ」と述べている。また今年3月のワシントンポスト紙のインタビューでは、「気候は変わっていると思う。ただ、私は人為的要因で気候変動が生じていると熱烈に信じている訳ではない。多少の影響はあるかもしれないが」と、少し修正気味に語っている。


 
 また石炭火力発電所を削減するオバマ大統領のクリーンパワープラン(CPP)には、明確に反対を表明してきた。大統領に就任すれば、オバマ政権が進めてきた石炭火力発電所の閉鎖を進め、石炭生産量の削減を迫る政策を見直す、と明言している。

 こうしたトランプ氏のスタンスを察知して、オバマ大統領が、パリ協定早期発効を各国に働きかけ、実現したのは慧眼だったといえる。パリ協定からの脱退を口にしてきたトランプ氏だが、協定発効から4年は離脱できない規定のため、同氏が4年後に再任されない限り、米国の離脱はできない。だが、CPPが宙に浮く可能性は強く、米国の温暖化対策の実行に黄信号が灯ることになる。

 ただ、トランプ氏の政策の中で、温暖化対策が最重要課題なのかとなると疑問もある。オバマケアの見直しや、移民対策などのほうが優先度が高いとの指摘もある。実は、同氏は2008年には、オバマ氏の温暖化対策を支持する新聞広告に名を連ねたことがあるという。このため、「本音では気候変動を信じているが、共和党の大統領候補になろうと懐疑論者になったのだろう」との解説もある。

 温暖化対策が「アメリカ・ファースト」につながるならば、トランプ氏の変わり身も期待できる。だが、そう簡単には目先を変えられそうもないのが、コーク兄弟(Koch brothers)の存在だ。Charles とDavidの同兄弟は、米国で二番目に大きな個人企業である「America Koch Industries」のオーナーで、共和党の最大の後援者として知られる。

 Kochキャプチャ

   同社は、オランダ系移民の息子であるフレッド・コーク(Fred Koch)が1927年に設立した石油精製を軸とする企業だ。現在は、テキサス、アラスカ、ミネソタに大規模な製油所を所有するほか、全米に4000マイルに及ぶパイプライン網を展開している。父親の時代から反共主義でならし、最近では共和党の中で、ティーパーティー・グループを支援、リベラル派との対立を続けてきた。

 フォーブス誌によると、兄弟の保有資産額は800億㌦(約8兆円強)で、昨年だけでも年間120億㌦を増やした文字通りの億万長者(Billionaire)である。同時に、共和党への企業献金トップの座にある。

 これまでも多額の資金を温暖化懐疑論者や議員に寄付してきた。今回の大統領選挙では約9億㌦の資金を用意したという。ただ、実は、同兄弟とトランプ氏の関係は微妙ともいわれる。実際、兄弟が大統領選挙で当初支援したのは、トランプ氏ではなく、ルビオ氏ら他の候補者だった。

 トランプ氏はかつて、共和党議員がコーク兄弟に寄付を求めて日参する様子を、ツィッターで批判したこともあった。ビジネスマンとしてのスタンスの違いが、両者の間に距離感を生み出してきたのかもしれない。だが、共和党の候補者争いから本選挙への展開で、両陣営をつないだのが、副大統領候補になったマイク・ペンス氏だった。

 ペンス氏はインディアナ州知事時代から、コーク兄弟の信頼を受け、継続的に献金を受けてきた。いわば「コーク兄弟の小飼政治家」だ。州知事としては、ゲイの結婚や人権擁護に反対を表明してきたほか、中絶禁止など共和党の伝統的な保守政策を推進してきた。

 

 温暖化問題でも強硬な懐疑論者で知られてきた。 インディアナ州選出下院議員時代には、エネルギー効率化や再生可能エネルギー促進の資金供給などを推進する法案に反対票を繰り返し投じる一方で、石油・ガスなどの海底掘削促進法案には支持を続けてきた。

 

 議員の投票活動を評価する 「League of Conservation Voters」によると、ペンス氏は議会での環境関連法への賛否で4%(賛成率)の評価を得ている。賛成票を投じたのは、化石燃料への資金法案、洪水保険法案などに限定されている。インディアナ州知事としても気候変動行動計画を立案せず、気候変動に関する科学的見解に公けの場でも疑問を示してきた。つまりコーク兄弟が気に入る、筋金入りの懐疑論者なのである。

 

 当初、草の根の支持層を基盤として来なかったトランプ氏は、自前資金で予備選を勝ち抜いたものの、本選以降の資金力不足が指摘されたことがある。いつの間にかその懸念が消えたのは、ペンス氏を副大統領候補に迎えて以降だ。ただ、慎重なコーク兄弟は、公式にはトランプ支持をいまだに表明していない。

 

 大統領選挙でも、議会選挙のほうに主要な資金供給をしたとされている。しかし、ペンス氏がトランプ氏とコーク兄弟をつないだことは間違いなく、連邦議会の共和党優位を確保し、大統領も共和党に取り戻したことで、コーク兄弟の反温暖化対策キャンペーンがいよいよ本格化するとみられる。

 

 トランプ氏は自らのエネルギー・温暖化政策として、5月に「American-first energy plan(米国優先エネルギー計画)」を公表している。同計画の中では、パリ協定からの離脱のほか、CPPの撤回、国内石油、石炭、ガス資源の最大限の開発によるエネルギーの自給自足などを盛り込んでいる。一応、コーク兄弟と歩調は合っている。

 

 変わり身のトランプ氏と、信念のコーク兄弟。米国の温暖化対策の行方は、このコンビの足並みと、連邦政府とは別に、州レベルで温暖化対策を着実に進めているカリフォルニア州やニューヨーク州等との駆け引きが成否を握ることになりそうだ。

                         (藤井良広)