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経営コンサルタントがみた環境金融(大庫直樹)

2016-12-16 12:32:26

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 東京メトロ千代田線「霞が関」駅の階段を駆け足で昇る。クライアントとついつい長話をしてしまい、ギリギリの時刻になってしまった。第2回サステナブルファイナンス賞の審査が行われる内幸町の日本プレスセンターの会場に着けば、しんがりの到着。並みいる重鎮たちを尻目に、空いている席にすべり込んだ。

 

 私は、金融機関をクライアントとする経営コンサルタントである。いつもは成長戦略――平たく言えば、どうやれば収益が拡大するか――をアドバイスすることを生業としている。したがって、この賞のテーマである「環境金融」について議論することは滅多にないというか、基本的にはない。それでも、この分野に関心を持つのはフロンティアであり、フロンティアであるが故にどれもこれも新しいチャレンジに他ならないからだ。

 

 サステナブルファイナンス大賞の候補企業には、銀行、信託、保険といった金融機関はもちろんのこと、格付け会社、取引所など多彩な顔触れが並び、去年よりもさらに環境金融の裾野が広がったことを実感する。もちろん、候補企業は海外企業も含まれている。

 
 また、今年から地域金融賞が別個に用意されたこともあって、地域銀行から信用組合まで9つの案件がノミネートされていた。取組のひとつひとつは大手金融機関に比べれば小粒なのかもしれないが、地域金融機関ならではの創意工夫が示されて面白い。環境金融の施策だけで、人口減少やマイナス金利など地域金融機関に向かう収益機会減という逆風を跳ね返すことはできないのだが、地域に貢献したいという情熱をひしひしと感じた。

 

 ノミネーションされた案件をひとつひとつ審議していく。個別案件として成功した事例から、先例になりそうな発展性のある案件、さらには今後の環境金融のプラットフォームになりそうな案件まで、案件自体も多様性に富んでいる。

 

 そうした多様性をさらに一層浮き上がらせたのは、審査委員の先生方の、候補案件の意味合いの解説だった。この案件のどういう点が新しいのか、また、どのような経緯によって生まれた案件なのか、さらに、実現に至るまでにはどのような苦労があったのか、など示唆に富むお話を聞くことができた。

 

 普段は収益機会という視点でクライアントを応援する。でも、この日は環境金融に取り組む情熱で審査をさせていただいた。大賞の選定にあたっては、2つの案件に絞り込まれた。どちらの案件も、環境に関するインパクトや新規性において非常に優れていることで甲乙つけがたかった。

 

 ただ、最後に多くの審査委員は、汗をかかなければできなかったであろう、損保ジャパン日本興亜の東南アジア諸国における天候インデックス保険を選択した。天候に関するデータが整備されていない、タイ、インドネシア、ミャンマー、フィリピンなどで、データを整備するところから始めたことに、心を動かされたようだ。もちろん私もそのひとりだった。

 

 来年も新しい汗の匂いを嗅ぎに、ここに来たい。私はそう思いながら、会場をあとにした。

 

 

大庫 直樹(おおご・なおき) マッキンゼー・アンド・カンパニー、GEコンシューマー・ファイナンスを経て、ルートエフを設立。金融庁参与、広島県参与等を兼務。                                                        Ohgo似顔絵11