HOME環境金融ブログ |国内で急増するパーム油発電が引き起こす重大懸念(泊みゆき) |

国内で急増するパーム油発電が引き起こす重大懸念(泊みゆき)

2019-09-18 09:49:06

bionet5キャプチャ

 

  バイオマス産業社会ネットワークなどの国内環境団体は、2019年夏、「バイオマス発電に関する共同提言」を発表した。http://www.npobin.net/Teigen190717.pdf

 

 (写真は、ミャンマーでのパーム油の採取状況、Public Radio International (PRI)より)

 

気候変動防止や分散型で民主的なエネルギー源確保の観点から再生可能エネルギーの利用は重要だと考える。しかし一方、現在多数存在するバイオマス発電計画の中には、特に海外において大規模な森林破壊や土地収奪、生物多様性の破壊、人権侵害を伴うリスクの高い燃料を使用すること、またライフサイクルアセスメント(LCA)でみれば大量の温室効果ガス(GHG)を発生させることに関して重大な懸念を抱いている。

 

 バイオマス発電事業には、以下の要件を満たしていることが確認されているべきであり、それ以外については再生可能エネルギーとして定義づけたり、固定価格買取制度(FIT)の対象とすべきではないと考える。

 

bionet4キャプチャ

 

 要件とは① 温室効果ガス(GHG)の排出を十分かつ確実に削減している②森林減少・生物多様性の減少を伴わない③パーム油などの植物油を用いない④人権侵害を伴っていない⑤食料との競合が回避できている⑥汚染物質の拡散を伴わない⑦環境影響評価が実施され、地域住民への十分な説明の上での合意を取得している⑧透明性とトレーサビリティが確保されているーーなどだ。

 

 私たちは、本来、バイオマス発電は、海外からの資源を大規模に輸入して行うのではなく、廃棄物や未利用材などの地域の資源を活用し、小規模分散型、熱電併給で行われるべきと考えている。パリ協定の1.5℃目標とSDGs達成に向けて、人権尊重した上で、真に持続可能なバイオマス発電が推進されることを期待している。

 

 このうちで、特に、問題が顕在化しているパーム油発電を取り上げたい。同発電は、2014年にエナリスが北茨木市で運転開始したのを皮切に、京都府福知山市での1,760kW、3.9万kWの神栖パワープラントなどが稼働している。2017年には460万kWものパーム油発電がFIT認定され、その後、大半は認定から外れたが、今も約180万kWが認定されている。

 

bionet3キャプチャ

 

 パーム油発電は現在、FITで認められている。だが、前述したように温室効果ガス排出や間接的影響などを考慮すれば、持続可能性を担保することは相当困難な事業だと考えられる。こうしたことから、気候変動や森林保全に取り組んできた環境団体らは、関係者にパーム油発電事業の再考を訴えてきた。

 

 その一環として、宮城県の環境団体と共同で、宮城県角田市で4.1万kWのパーム油発電事業を計画する旅行会社大手HIS(実施主体は子会社のH.I.S. SUPER 電力)に対しても働きかけを行ってきた。

 

 近年、企業の環境・社会・ガバナンスに注目するESG投資が躍進し、2018年には世界で3,418兆円に達し、日本でも投資の約2割を占めるようになっている【*1】。このESG投資においてパーム油は、森林破壊の主要因の一つとして、最も繊細な扱いを要する品目である【*2】。環境団体が同社のパーム油発電に対し、事業取りやめを訴える署名活動を行い、内外から15万筆以上が集まったが、この背景には、パーム油の燃料利用に対する懸念が広がっていることがあると考えられる【*3】

 

パーム油発電に反対する住民の抗議
三恵観光のパーム油発電に反対する住民の抗議行動

 

 一方、2017年に三恵観光が京都府福知山市において1,760kWのパーム油発電を運転開始した。この発電所は住宅地のそばにあり、耐えがたい悪臭や騒音があると近隣の住民から苦情が相次ぎ、住民のなかには健康を害する人も出ているとのことである。自治会を中心に騒音悪臭問題対策推進会議が組織され、事業者と交渉を行っている。2019年2月、発電燃料のパーム油7000リットルが流出し、隣接する住宅地の溝や下水道に流れ込む事故も生じている。

 

 パーム油発電に限らないが、FIT事業が地域住民の不利益とならないよう、十分な対策が求められる。また、京都府舞鶴市でも外資系企業による65,590kWのパーム油発電が計画されている。

 

 宮城県石巻市では、10万kW規模の液体バイオ燃料発電が計画されている。アフリカのモザンビークで油糧作物を栽培し、日本に運んで発電するとのことだが、18万トンと見込まれる燃料栽培には5~10万haの土地を要し、実現すれば土地収奪のリスクが極めて高いと考えられる。

 

 現在FITで認定されている180万kWのパーム油発電が20年間稼働すると、約4兆円の利用者負担となる。FTI法の目的に沿う、慎重な制度設計および運用が望まれよう。

 

http://www.npobin.net/hakusho/2019/topix_02.html#column01

 

tomari1キャプチャ

泊 みゆき(とまり・みゆき)  NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長。日本大学大学院国際関係研究科修了。経済産業省バイオ燃料持続可能性研究会委員、関東学院大学非常勤講師等。著書に「バイオマス 本当の話」等。