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「おてらのでんき」、目指すは「寺域コミュニティ」の復活。浄土真宗の僧侶、竹本了悟さん(RIEF)

2018-12-25 07:22:16

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  この秋、お寺が電力供給の中心になる「TERA Energy」構想を立ち上げたのが、浄土真宗の僧侶、竹本了悟さん(40)。現在、小売電力事業者の登録の完了を待つ一方、来春からの事業化を目指し、市場となる中四国地方で宗派を超えた寺院との連携、各檀家への啓蒙活動等を続けている。目指すは「寺域(じいき)コミュニティ」の復活という。

 

 「『誰も独りぼっちにならない世界』を目指したい」。竹本さんは、「おてらのでんき」を打ち出した理由を語る。竹本さんは、2010年から京都で「京都自死・自殺相談センター」の活動を続けている。http://rief-jp.org/ct7/84160?ctid=64

 

 行き詰まり、独りぼっちに追い詰められた人々からの電話やメールに、ボランティアの相談員一人一人が、真剣に寄り添う。一日平均15件かかってくる電話への応対は、長い時には数時間に及ぶこともあるという。徹底的に、相手の言葉に寄り添う。ボランティアの約3割は京都の僧侶たちという。

 

 地域で、職場で、学校で、孤立感を深める人々に、寄り添う人がいることを伝える。本来、地域でのお寺の役割は、そうした人々に寄り添う役割だったはず。だが、過疎化や人々の宗教意識希薄化の加速などで、お寺自体が孤立化し、運営にも苦しむ状況のところが少なくない。そうした状況を打開するため、「電力事業」にたどり着いたという。http://rief-jp.org/ct7/83785

 

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 竹本さんによると、「アンケートなどでは、日本では地球温暖化への関心を持つ人が9割にも達する。だが、そのための温暖化対策が生活の質を高める、と理解している人は2割以下。『自分たちの生活のために温暖化対策に取り組む』具体例として、再エネ電力の販売を思いついた」と語る。

 

 寺自体の電力も新会社の再エネ電力に切り替え、檀家にも切り替えてもらい、割安でクリーンな電力を提供する。こうした温暖化対策の実践で、生活へのプラス効果を味わってもらう。同時に、収入の一部を、お寺の「護持(運営)」や地域支援に回す。

 

 電力の売電で、お寺を守り、機能を回復したお寺と共に地域社会の高齢者や孤立者を見守る。地域にあるお寺が、本来の役割である社会を支える寺域コミュニティーを復活させる、という構想だ。

 

 竹本さんは広島の江田島市のお寺の次男坊。僧侶になるつもりはなく、防衛大学を出て海上自衛隊に入った。自衛隊に入ったのは、「家族や身近な人を守りたい」との思いだった。だが次第に「人を殺すことを前提にした仕事」に疑問を感じるようになり、退職。龍谷大学大学院に入った。実家のお寺は檀家の減少で近くのお寺に兼務してもらう形になっていた。

 

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 大学院を卒業後、浄土真宗本願寺派総合研究所で研究員を務め、自死・自殺相談センターを設立。「死のうとしている人を何とか支える」ことに長年、取り組んできた。

 

 電力会社の立ち上げは多くの支援の輪に支えられた。研究仲間の僧侶だけでなく、京都の環境NGOにも知恵をもらった。竹本さん自身は浄土真宗の僧侶だが、「一つの宗派の活動にすると、一般の人が入りづらくなる。多くのお寺が同じような状況にあるので、宗派を超えてオープンにやることにした」。

 

 夏から11月にかけて、最初の営業地域に予定している広島、島根、香川3県で38カ所のお寺を巡った。浄土真宗だけでなく、真宗大谷派、真言宗、曹洞宗等を含め、30のお寺が賛成してくれたという。残りの10カ寺は「様子見」で、反対はゼロだった。

 

 お寺は、本山から課せられる上納金を支払わねばならない。本願寺派などの場合、上納金(賦課金)は、お布施収入がなくとも、お寺の格や僧侶の数等で定額納付が義務付けられている。過疎地域のお寺はそうした上納金を収められずに、廃寺になるケースもあるという。

 

 今回、竹本さんらが、「TERA Energy」を浄土真宗とは切り離して、地域のお寺の横断的なサポート組織としたのは、「本山ー末寺」という伝統的な宗派の構造が十分に機能していないとの思いもあったのかもしれない。お寺と檀家という基本単位を土台にしてこそ「寺域コミュニティ」が機能する、というわけだ。

 

 裕福なお寺の中には、境内を駐車場にしたり、宗派問わずの「永代供養ビジネス」を大々的に展開するところも出現している。しかし、竹本さんたちが目指す「おてらのでんき」はそうしたお寺のサイドビジネスとも一線を画する。さて、再エネ電力で、お寺が地域に寄り添う役割を取り戻せるかどうか。竹本さんたちと檀家さんたちの歩みを見守りたい。

                          (藤井良広)

https://tera-energy.com/