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世界の水道水の8割から微細なプラスチック繊維を検出。人体への影響は不明だが、海洋のマイクロプラスチック汚染だけでなく、自然界全体にプラスチックが滞留していることを浮き彫り(RIEF)

2017-09-06 21:41:48

microplastic1キャプチャ

 

 マイクロプラスチックの海洋汚染への懸念が世界的に広がっているが、海だけではなく世界の水道水にもプラスチック汚染が広がっていることがわかった。非営利の調査団体Orb Mediaの報告によると、世界全体で83%、もっとも汚染の進んでいる米国では94%の水道水からプラスチック繊維が検出されたという。人体への影響が懸念される。

 

 調査を実施したOrb Mediaは科学者チームを編成、今年の1~3月に、14カ国の水道水を対象にサンプル調査を実施した。サンプル数は159検体で、米ミネソタ公衆衛生大学において分析した。調査にはニューヨーク大学の研究者も参加した。

 

 その結果、対象サンプルの83%からプラスチック繊維(長さが0.1~5mm)を検出した。国別でみると米国が94%ともっとも高かった。米国で採取したサンプル水は、ワシントンの連邦議会ビル、環境保護庁(EPA)本部ビル、ニューヨークのトランプタワーなど。ついで汚染率が高かったのは、レバノン(同率94%)、インドのニューデリー(82%)。

 

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 欧州諸国では英国、ドイツ、フランスがサンプル調査の対象となり、平均72%だった。他の国に比べると低いが、それでも7割以上の水道で検出されている。アジアでは日本は対象外だが、インドのほか、インドネシアのジャカルタで76%だった。検出されたプラスチック繊維の数は500mlのサンプル水のうち、米国は4.8本、欧州は1.9本と、米国の汚染の進行が目立っている。

 

 これらの水道水を摂取した場合、体内に取り込まれるプラスチック繊維はどれくらいか。男性の場合、1日の飲料水摂取量として推奨されている3㍑を基準として、飲み物をすべて水道水か水道水で作ったものにすると、毎日14本のプラスチック繊維を体内に取り込む形だ。女性の場合は、同2.2㍑の摂取で1日当たり約10本を取り込む。年間では、男性で4000本以上、女性で3000本以上の摂取となる。

 

 今回の調査で、プラスチック廃棄物の汚染が海洋だけでなく、世界中の自然界全体に行き渡っていることが示されたといえる。調査分析にかかわったニューヨーク州立大学のマイクロプラスチック専門家の Sherri Mason氏は「われわれは自然界の汚染を示す十分なデータを得た。今後はその影響を評価しなければならないが、自然界に影響を及ぼしているとすると、われわれ人類にも影響が及ばないわけはない」と警告している。http://rief-jp.org/ct4/72431

 

 水道水や井戸に、プラスチックが含有していることは、今年6月にもアイルランドのゴールウェイーメイヨー技術大学( Galway-Mayo Institute of Technology)の調査でも指摘されている。同調査は世界規模ではないが、対象となった普通の水道水や井戸からマイクロプラスチックを検出した。調査を行った同大学のAnne Marie Mahon氏は「人体への健康影響は現時点ではわからないが、予防原則の立場から早急に影響とリスクの解明が必要」と指摘している。

 

 Mahon氏は調査から、問題点を2つ提起している。一つは、非常に微細なプラスチックの微粒子が及ぼす影響であり、もう一つはそれらのマイクロプラスチックに付着する化学物質や病原体の影響だ。「プラスチック繊維が見つかるということは、それよりさらに微細なナノ微粒子も水道水等に含まれている可能性がある。しかし、それらは微細すぎて検出できない。このナノレベルの微粒子は細胞に吸収されると、人体の臓器に影響を及ぼす可能性がある」と指摘している。

 

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 Orbの調査で見つかったプラスチック繊維は2.5ミクロン以上で、ナノレベルのものよりも2500倍大きなサイズになる。Mahon氏は、マイクロプラスチックが下水道でバクテリアの媒介者になっている点を指摘する。「いくつかの調査で、下水道処理施設の排水中のマイクロプラスチックから、多くの有害病原体が検出されたとの結果が示されている」という。

 

 プラスチック汚染のグローバルな分析は始まったばかりではある。ドイツでは24のビール銘柄を対象とした調査で、すべての銘柄からプラスチック繊維と破片が検出されたという調査が報告されている。 砂糖や蜂蜜のサンプルからも検出されている。また2015年に実施されたパリ市内での調査では、市内の大気から検出されており、住居内の空気にも含まれていることが判明している。

 

 プラスチック繊維が水道水に含有される経路についてはまだ解明されていないが、想定されるのは、洋服やカーペット類などから大気中に粉塵として舞ったプラスチック繊維や破片が、降雨等で落下、自然水位に含まれた可能性が高い。また再生可能エネルギーとみなされているゴミ発電でプラスチック類も合わせて焼却することで、大気中に排出され、それが降下している可能性もある。

 

 家庭も発生源だ。ヘアドライヤーで髪を乾かす際に、付着したプラスチック粒子を大気中に拡散させていたり、洗濯機では一回当たりの洗濯で70万本ものプラスチック繊維を環境中に放出しているとの調査結果もある。生活のあらゆる場で、プラスチックを使うと同時に、プラスチックを環境中に放出、拡散もしていることになる。

 

 世界中で生産されるプラスチックは年間3億㌧に上る。このうち20%がリサイクルされるか焼却されるが、それ以外の多くは大気中、土壌、海洋等に投棄されている。1950年代から製造されたプラスチックの量は83億㌧に達しており、その多くが環境中に拡散され、砕かれ、微細化され、水や空気を介して、自然界を循環していることになる。

 

 われわれ人類の存在が引き起こしている国際的な地球環境問題は、温暖化問題だけではない。自然界を静かに侵害し続け、やがては自らの健康をも蝕む可能性のあるプラスチック汚染は、より深刻かもしれない。

https://orbmedia.org/stories/Invisibles_plastics