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米環境NGO、住友商事のバイオマス発電用木質ペレット輸入事業による森林破壊を警告。バイオマス発電のCO2削減効果への疑問も指摘(RIEF)

2019-12-17 23:18:25

Mighty4キャプチャ

 

 住友商事は、バイオマス発電の燃料となる木質ペレットの我が国への輸入の過半を担っている。その主要な市場である米国南東部等で大規模な森林破壊と生態系破壊が起きていると指摘する報告書が公表された。米環境NGOの「Mighty Earth」による。森林が持つCO2吸収力の低下も著しいという。温暖化対策の再生可能エネルギーのはずのバイオマス発電のあり方自体が問われている。

 

 (写真は、米ノースカロライナ州での木質ペレット製造のため天然林を皆伐した跡地)

 

 報告書をまとめたMighty Earthは、ワシントンを拠点とする環境NGO。報告書は住友商事の石炭事業とバイオマス事業を取り上げ、その地球環境に及ぼす影響を分析している。住商は、石炭事業については、ベトナム、インドネシア、バングラデシュ等で石炭火力発電所を建設中で、それらの国々で反対運動等が起きている。

 

 同社は、温暖化への影響の大きい石炭関連事業への国際的な風当たりの強さを受けて、今年8月、三菱商事や丸紅などの他の商社と同様に、新規の石炭火力発電事業は原則として行わない方針を打ち出した。ただ、ベトナムで建設中のバンフォン1石炭火力発電事業は例外とするなど、十分ではないと批判されている。

 

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 同社は石炭に加えて、バイオマス発電事業にも力を入れている。現在、木質ペレットの我が国の輸入量の過半(55%)を占めており、2021年までにパーム油等を含めバイオマス燃料全体での輸入シェア40%(1600万㌧)の確保を目指している。

 

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 住商が輸入する木質ペレットは、米国南東部のノースカロライナ(NC)州や、カナダのブリティッシュ・コロンビア(BC)州、さらにベトナムなどから調達している。米国南東部は、世界最大の木材生産地域。集中的な伐採が行われ、南米アマゾンの熱帯雨林と比べて4倍の速さで伐採が進んでいるという。

 

 実は、これらのバイオス資源はNC州ではほとんど使われず、大半が日本や英国等の海外に輸出されている。このため木質ペレット事業は地元ではCO2排出増にはなっても、削減には貢献していない。

 

 さらに最近は、バイオマス資源の「再エネ性」に内外から疑問が出ている。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「土地特別報告書」は「木材に含まれる炭素が伐採後に、製材、木質パネル、家具などに利用される場合、これらの製品は長期にわたり炭素を貯蔵できる。だが、バイオマスをエネルギーとして利用する場合、炭素はより速いスピードで大気中に再び放出される」と指摘している。

 

米エンデバ社のペレット原料置き場
米エンビバ社のペレット原料置き場

 

 2018年のマサチューセッツ工科大学(MIT)等の研究によると、米国南東部の森林バイオマス開発は、輸出先の英国の発電所でペレットを利用する一方で、伐採後に植林を行うが、新しい樹木は成長過程の44〜104年の間は、むしろ大気中のCO2を増加させることがわかった。さらに天然の広葉樹林から成長の速い松の植林へ転換している点も、松は炭素の貯蔵力が少ないため、結果的に気候変動への影響を増大させる、と指摘している。

 

 住商は、NC州でそうした木質ペレットを、エンビバ・パートナーズLPから調達している。同社は森林だけでなく湿地帯の樹木も皆伐し、ペレットに変貌させて販売する。しかし、対象となるそれらの森林は、生物多様性への脅威等に直面し、世界自然保護基金(WWF)の「近絶滅 / 絶滅危惧森林」の指定地域となっている。

 

 カナダのBC州では、住商は、サプライヤーを通じて同州から木質ペレットを調達している。調達先は同州を中心とするピナクル・リニューアブル・エネルギー社。さらに、2017年には、パシフィック バイオエナジー コーポレーションの株式を48%取得し、木質ペレット製造ビジネスに直接参入した。

 

ゴルフ場ではない。カナダBC州での森林皆伐の状況
ゴルフ場ではない。カナダBC州での森林部分皆伐の状況

 

 BC州の木質ペレットは現在、製材端材や病害虫の被害を受けた樹木を原料にしているとされる。だが報告書は、今後さらに製造量が増加した場合、製材端材などだけで生産量を保てるかは議論の余地がある、と懸念を示している。

 

 報告書はこうした住商のバイオマス事業について、同社の現在の燃料調達方針では、燃料の調達方法を直接コントロールできていないと指摘する。米南東部ではエンビバ社から調達しているが、エンビバ社は現地の多数の私有地の個人所有者からペレット原料の木材を購入しており、そこのサプライチェーンに住商は介入できていない。

 

 ベトナムからのペレット輸入も、輸入先の事業者が、ペレットの原料となる木材やその他の原料をどこから調達しているかは不明。「調達燃料のコントロールも、トレーサビリティも、説明責任もないことは、自然林の破壊や劣化やプランテーションへの転換のリスクを高める」と指摘している。

 

エンデバ社の取引先
エンビバ社の取引先

 

 住商は行動指針に透明性を掲げている。だが、報告書は、燃料を提供する先も、自らのバイオマス発電所も、燃料の調達源についての公開情報はほとんどない、と懸念を示している。

 

 バイオマス発電のCO2削減効果への疑問は、燃料の輸送段階等のライフサイクル評価で浮き彫りになってきた。たとえば、米南東部の木質ペレットは、最近まで英国等のEUへの輸出が主だった。ところが英国の補助金制度(CFD)で、ライフサイクルアセスメント手法が導入され、英米間の輸送時CO2をカウントすると、基準を超える可能性が出て、対英輸出に歯止めがかかったという。

 

 日本は英国よりも米国から遠い。果たして北米大陸に大半を依存したバイオマス発電に、本当の意味での温暖化効果があるのか。住商は明確な答えを示す必要がある。

 

 報告書はこうした分析を踏まえて、住商に対して、以下の要請を行っている。

 

 石炭分野では、①あらゆる石炭火力発電と燃料炭の採掘への関与を世界全体で2030年までに止めるコミットメントを公に示す②現在計画中または建設中の石炭プロジェクト(マタバリ、バンフォン、タンジュンジャティBを含む)を中止すべき③国内外で石炭を支援する日本の公共政策を終了させるよう提唱する④日本で新規の石炭の建設を全てやめ、2030年までに全ての石炭を段階的に廃止するように確保すること⑤再エネ発電を日本全国に拡大する政策を後押しする――など。

 

 バイオマス分野では、①住商の世界中の事業拠点、子会社、合弁会社、サプライチェーンの取引先全てに適用する「責任ある林産物方針」を早急に採用・実施する②住友グループ内で、各社が同じ基準を採用するよう働きかける③天然林の劣化とプランテーションへの転換を禁止し、原生林、泥炭林、高炭素貯蔵の景観での森林施業を禁止、森林被覆の損失を完全になくす④住商自身の設備向けか、他社向けかにかかわらず、あらゆるバイオマス原料の開発・投資での強制労働や人権侵害を完全になくすーーなど。

 

 報告書の指摘は、住商に照準が合わさっているが、海外からの燃料輸入に頼る日本のバイオマス発電全体に共通する課題も網羅している。少なくともバイオマス燃料のライフサイクル評価は、固定価格買取制度(FIT)の条件として導入するべきだろう。

 

http://www.mightyearth.org/

http://www.mightyearth.org/wp-content/uploads/MIghty-Sumitomo-Report-English-Screen.pdf

http://www.mightyearth.org/wp-content/uploads/Mighty-Sumitomo-report-Japanese-screen.pdf