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国連環境計画(UNEP)事務局長の「過剰海外出張問題」で、北欧2カ国がUNEPへの拠出金支出を留保。最終報告で真相が明らかになるまで。国連職員組合も憂慮(RIEF)

2018-09-30 08:45:14

Solheim6キャプチャ

 

  国連環境計画(UNEP)事務局長のエリック・ソルヘイム(Erik Solheim)氏が過剰な海外出張で多額の出費を重ねていた問題が尾を引いている。デンマークとスウェーデンの両国は、この問題を重視してUNEPへの拠出金を一時停止した。国連職員の労働組合からは「国連への不信感を高める」の憂慮の声が、気候学者からは「低俗なカーボン偽善者」との批判の声が、あがっている。

 

写真は、「環境貴族」か「モーレツ国際公務員」か、で評価の分かれるUNEPのソルヘイム氏)

 

 2016年5月に就任した同氏は、ケニアのナイロビにあるUNEP本部の事務局長席を温めることなく、連日のように世界中を飛び回り、2年弱(22カ月)の間に、48万8518㌦(約5422万円)を飛行機代に費やしたことが内部監査案の流出で明らかになった。英ガーディアン紙が報じてきた。http://rief-jp.org/ct5/82991

 

 この問題を重視したデンマークの外務省(MFA)は、同国がUNEPに対して支払う2018年の拠出金160万㌦(約1億7800万円)の支払いを保留すると表明した。MFAの担当者は「われわれはソルヘイム氏の『外遊』問題への批判を周知している。この問題を重視しており、UNEPの内部監査の最終報告が出るのを見守りたい」とコメントしている。

 

ナイロビのUNEP本部
ナイロビのUNEP本部

 

 また、スウェーデンの国際開発機関(Sida)も、ソルヘイム問題が解明されるまで、UNEPに対する新たな資金供給しないとの姿勢を言明した。Sidaの担当者も「われわれはUNEP資金が間違って使われてきた問題を真摯に受け止めている」としている。

 

 両国とも、ソルヘイム氏の出身国であるノルウェーと同じ北欧の国であることも目を引く。北欧諸国はこれまで、国際外交や国連機関等で積極的な役割を果たしてきたことで知られる。それだけに、ソルヘイム氏の”不祥事”が、北欧諸国の国際的活動全体に「偽善的」との不信感を引き起こすことにつながることへの懸念があるのかもしれない。

 

 当のノルウェーでもソルヘイム問題の議論が沸騰している。隣国2カ国のUNEPへの資金停止問題に対して、ノルウェー国際問題機関(NIIA)のOle Jacob Sending氏は「UNEPは、本来あるべきほどには、機能していないと思っている人は大勢いる。環境問題をもっと効果的にプロモートする手段は(事務局長の頻繁な外遊より)別の方法があるはずだ」と批判している。

 

 UNEPのスポークスマンは、デンマーク等の資金停止表明について「個々のメンバー国の貢献に関してコメントはしない。しかし、UNEPは環境機関として、また拠出者に対して責任ある執行者として、大きなプライドを持っている。緊急に解決しなければならない課題に対応するために、すべての加盟国と緊密な協力関係を維持していく」とだけ述べている。

 

 UNEP本部のナイロビでは、国連職員の労働組合の代表、Martin Njuhigu氏が「われわれ組合は、内部監査報告案が指摘したソルヘイム氏の頻繁な外遊の意味については、全く理解不能だ。UNEP当局の真摯な対応が求められる」と語った。

 

 組合が戸惑いを隠せないのは、事務局長の過剰な海外出張だけではない。同氏がUNEPの規則やルールを無視したり、今回の内部監査案の情報流出でのUNEPの対応等についても、逆にUNEP組織を「官僚主義」と批判するなど、「八つ当たり的」な対応を続けていることへの不信感もあるようだ。

 

Kevin Anderson教授
Kevin Anderson教授

 

 一方、研究者からもソルヘイム氏への疑問の声が出ている。英マンチェスター大学の気候科学者、Kevin Anderson教授は「気候変動に対処するためには、グローバルな温室効果ガスの思い切った、かつ迅速な削減が必要。にもかかわらず、科学的でもなく、モラルも低い一方で、自らの成功や地位確保については抜け目のない『気候貴族』の一群がいる」と皮肉る。

 

 ソルヘイム問題は、温暖化問題をあおって、自らが名声を得るためのキャンペーンにすり替えたり、世界中の環境・気候変動関連の会議・セミナーに出席し、簡単なスピーチで報酬を得ることを「仕事」にするような、Anderson教授が名付けた「低俗なカーボン偽善者」が、各地で跋扈していることの一例なのかもしれない。

 

 ソルヘイム氏は強気の姿勢を崩していない。「最終監査報告書が出るまで、内容についてのコメントは差し控える。内容に間違いが見つかれば直ちに修正・対応をする。私の仕事には海外出張は不可欠なのだ。われわれが抱えるグローバル課題をうまく対応するには、世界中と関わることが必要なのだ」と繰り返し述べている。

https://www.theguardian.com/environment/2018/sep/25/nations-halt-funding-to-un-environment-programme-as-outcry-over-chief-erik-solheim-grows