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最近のバイオマス利用の動向「バイオマス白書2022より」~ NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク(泊みゆき)

2022-04-30 21:03:55

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  バイオマスは再生可能エネルギーの一つであり、発電だけでなく熱や液体燃料として利用できる貴重な資源である。その一方で、持続可能性な利用への配慮を欠くと、生物多様性を損ない、気候変動対策に逆行し、食料と競合し、土地をめぐる紛争や深刻な労働問題を引き起こすおそれもある。

 

 バイオマス利用をめぐる状況は日々変化しているが、当NPO法人バイオマス産業社会ネットワークは、2021年の動向についてバイオマス白書2022(https://www.npobin.net/hakusho/2022/index.html)にまとめた。本稿では、このバイオマス白書2022より、主要なトピックスを紹介する。

 

1. バイオマス利用の現況

 

 図1は、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)によるバイオマス発電の認定・稼働状況を示したものである。2021年9月時点での稼働容量は303万kW、認定容量は802万kWだが、稼働容量の2/3、認定容量の8割強が主に輸入バイオマスを燃料とする一般木材バイオマスの区分となっている。

 

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 一般木材バイオマス発電の稼働が相次ぐなか、アブラヤシ核殻(PKS)や木質ペレットの輸入も急増しており、PKSは2020年の338万トンから2021年の435万トンへ3割近く増加し、木質ペレットは203万トンから312万トンへと大きく増加した。

 

 経済産業省は、特に輸入バイオマスにおいて懸念されている持続可能性について、ワーキンググループで議論を行っており、2021年度には、バイオマスの生産、加工、輸送にかかる温室効果ガス(GHG)排出基準の導入が決まった。2022年度からのFITバイオマス発電の新規認定案件について、2030年に想定されるエネルギーミックスでの火力発電でのGHG排出平均値に対し、2030年までは50%減、2030年以降は70%減を義務付けた。2021年までの認定案件については、努力義務とし、詳細は2022年度のワーキンググループで議論される。

 

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 また、2022年度からは、一部を除き、FIP(フィード・イン・プレミアム)制度が導入される。20年間固定価格での電力買い取りが保証されるFITに対し、FIPは再生可能エネルギー発電事業者が電力卸市場への売却など市場価格で電力を販売する際に、プレミアムを上乗せする制度である。売電単価に市場変動の要素を加味しつつ、プレミアム分だけ売電単価を高くすることで再エネの事業性を高め、かつ段階的に市場原理に近づけようとするものである。

 

 バイオマス発電では、一定規模以下で熱利用を行ったり自治体が関与するといった地域活用要件を満たしたものについては、引き続きFIT制度を利用することができる(図3参照)。

 

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2.  バイオマスはカーボンニュートラルか?

 

 バイオマス、例えば木材を燃やすと、石炭以上のCO2が排出される。バイオマスがカーボンニュートラルと言われてきたのは、排出されたCO2がまた植物の光合成によって固定化されるからとされてきた。しかし、森林を伐採して発電等の燃料とした場合、植林、伐採、搬出、加工、輸送などで石油などのエネルギーを使う。また、森林がもとの炭素蓄積を回復するまでに数十年~数百年かかり、森林が回復しない場合もある。

 

  IPCCも、バイオマスはカーボンニュートラルであるとは主張していない。IPCCのガイドラインでは、木材伐採による排出は森林のセクターでカウントし、エネルギーのセクターでは二重計上を避けるために国別報告において計上しないとしているのにすぎない。

 

 今後、大型バイオマス発電の稼働に伴い、北米からの木質ペレット輸入が急増すると考えられるが、そのなかには自然林を皆伐した木材を原料とするものも含まれており、森林蓄積の減少による気候変動対策への逆行、生物多様性の損失、周辺住民からの反対など持続可能性の問題が懸念されている。

 

写真:

写真:木質ペレット原料として皆伐されるカナダの自然林(出所、バイオマス白書2022)https://www.youtube.com/watch?v=ZEW_e2MVLQs

 

  図4は米国東海岸からの木質ペレットについて加工や輸送におけるCO2排出に、燃焼による排出を加えたものだが、森林が回復しなければ、バイオマス発電による発電電力当たりのCO2排出は、石炭火力発電よりも多くなる。

 

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 気候変動対策を主な目的としているFIT制度によって、むしろ森林減少が生じCO2排出が増加するなら本末転倒である。

 

 そもそも、バイオマスを遠方から輸入すると輸送にコストとエネルギーがかかる。FITのような支援制度では、地域の廃棄物、残渣、副産物に限定することで、持続可能性へのリスクを減少できると考えられる。

 

3.  バイオマスの産業用熱利用

 

 バイオマスは、現状で再エネのなかでほぼ唯一、高温の産業用熱の供給が可能である(図5)。そもそも日本の最終エネルギー需要の半分以上が熱利用で、そのうちの55%が産業用熱利用である。発電では、太陽光や風力の発電コストが世界的に下がっており、化石燃料による発電よりも安価になりつつある。バイオマスを発電のみに使うと、利用効率が低く、コスト削減にも限界がある。

 

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 バイオマスの産業用熱利用では、例えば栃木県で木材加工を営む株式会社トーセンが、2015年より栃木県那珂川町で木質バイオマス熱売り事業を行っている事例がある。ポリテクニク社の4,000kWの木質バイオマスボイラーを導入し、同社が木質チップ1.1万トン/年を供給、ボイラーの運営管理を行い、熱(蒸気)は配管を通じ近隣の軽量気泡コンクリート(ALC)製造工場へ販売している。さらに廃熱をハウス栽培に活用している。導入費用は4億600万円、うち2.5億円を環境省および林野庁の補助金を受けたが、以後は通常の事業として行われている。

 

 この事例とFIT制度による2000kWの未利用木質バイオマス発電を比較すると、発電では約86億円の国民負担と3万㌧/年の木質チップを利用するが、発電効率は20%未満と80%程度のボイラー効率に比べ低いため、利用可能なエネルギー量は那珂川バイオマスの場合よりも少ない。経済性および温暖化対策の点から、産業用熱利用の優位性は大きいと考えられる。

 

 その他、三重県の松阪木質バイオマス熱利用協同組合や北海道のカルビーポテト帯広工場など、CO2削減、経費削減、災害対策などを目的に産業用バイオマスボイラーを導入する企業が相次いでいる。省エネ法においてバイオマスなど非化石燃料へのシフトを視野に改正される見込みであり、企業の脱炭素の有力な手段となりうる。

 

 ただ、バイオマスボイラーの導入には、地域での燃料調達やノウハウのある設置業者が少ないといった課題がある。今後、バイオマスの産業用熱利用を普及するためには、バイオマス導入を支援するエネルギー会社の育成も重要となってこよう。

 

 熱利用では、高温から低温にかけての熱のカスケード利用ができることが望ましい。将来的なバイオマス/廃棄物のエネルギー利用イメージとしては、図6のようなものが考えられる。

 

 工業団地等にバイオマスボイラーを設置し、高温~中温の熱を用いる工場で順に利用し、熱の温度が下がったら温水をハウス暖房や地域熱供給に使う。ここに太陽光や風力発電の余剰電力を熱として加えることで、変動電源の調整機能を持たせることも考えられる。温水は、貯湯タンクを使えば比較的安価に数日間貯めることができる。

 

 あるいは、地域のごみ焼却場の周辺に熱を使う工場を誘致し、同様に高温~低温の熱供給を行う。熱の一部で発電を行って熱電併給とすることも考えられる。また、廃棄物に加えて農作物残さなどの地域の未利用バイオマスも利用することもありうる。

 

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 バイオマス白書2022ではこのほか、国際、国内の動向や2022年に発表されたバイオマス関連のレポートやサイトなども掲載している。ご参考にしていただければ大変、幸いである。

 バイオマス白書2022 https://www.npobin.net/hakusho/2022/index.html

 

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泊 みゆき(とまり・みゆき)  NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長。日本大学大学院国際関係研究科修了。経済産業省バイオ燃料持続可能性研究会委員、関東学院大学非常勤講師等。著書に「バイオマス 本当の話」等。