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省エネ法・高度化法等の改正で石炭火力が延命される!? 化石由来の水素・アンモニアも”非化石”に(桃井貴子)

2022-05-05 12:42:05

KIKO001キャプチャ

 

 2022年の通常国会に、「安定的なエネルギー需給構造の確立を図るためのエネルギーの使用の合理化等に関する法律等の一部を改正する法律(通称:省エネ法等改正案)」が上程された。

 

 法案は、「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)」、「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(高度化法)」「独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法(JOGMEC法)」「鉱業法」「電気事業法」などで、細微な改正を含め全24本もの法改正となっている。

 

 その柱が、水素・アンモニアを「エネルギー」として位置づけ推進する点だ。第6次エネルギー基本計画で位置付けられた水素・アンモニアを法律上位置づけ、推進体制を確立することになる。しかしこれには大きな問題がある。

 

どんな改正案か?~需要・供給の両面で非化石エネルギーを位置づけ、転換を推進

 

 現行の省エネ法が化石燃料、化石燃料由来の熱・電気を「エネルギー」と定義し、事業者に合理的な使用(エネルギー消費原単位の改善)を求めているのに対し、改正案は「エネルギー」の定義に「非化石エネルギー」を含め、全てのエネルギーの使用の合理化と、化石エネルギーから非化石エネルギーへの転換の促進を目的としている。名称は「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換エネルギーの使用の合理化等に関する法律」と変更される。

 

 原発、再生可能エネルギー、水素・アンモニアなどの、化石燃料以外の電力・熱エネルギーを省エネ法の対象とし、特定事業者等に対して非化石エネルギーへの転換(非化石エネルギー利用割合の向上)に関する中長期計画の作成や、非化石エネルギーの利用状況の定期報告等を求める制度を設けること、としている。

 

 省エネ法が需要側の規定であるのに対し、JOGMEC法や高度化法の改正案は供給側での規定となる。高度化法では、現行法ですでに非化石エネルギーとして原子力や再生可能エネルギーが定義されているが、改正案で水素・アンモニアを加え、これらの利用を促進するという内容なのだ。そしてエネルギー供給事業者に対して、水素・アンモニアの利用を促進するため、非化石エネルギー源の利用に関する計画の作成を求めることとしている。一方のJOGMEC法改正案では、JOGMECの業務範囲を、洋上風力や地熱開発など再生可能エネルギーの促進に加え、水素・アンモニア等の脱炭素燃料の利用促進やCCS の利用促進が追加されている。

 

JOGMEC001キャプチャ

 

化石由来のグレー・ブルー水素/アンモニアも非化石に!?

 

 今回の法改正では、非化石エネルギーとして、水素・アンモニアが位置付けられているが、水素やアンモニアの起源や製造・運搬プロセスには様々な方法があり、本来は化石由来の燃料であるものも含んでおり、それを一律に「非化石エネルギー」などと位置付けるべきではない。

 

 一般的に、水素の製造方法は、天然ガスや石炭などの化石燃料の発電から製造し、その過程で生じるCO2をそのまま大気中に放出する生成方法(グレー水素)のほか、同様に化石燃料由来だが、製造プロセスで発生するCO2を回収・貯留(CCS)して生成する方法(ブルー水素)、さらに、再生可能エネルギー発電による電力で水を電気分解して製造する(グリーン水素)がある。グリーン水素は全くCO2を発生させない。

 

 アンモニアも同様で、アンモニアの原料となる水素の製造方法によって、グレーアンモニア、ブルーアンモニア、グリーンアンモニアに分かれる。アンモニアに関しては、水素と窒素の合成段階で大量のエネルギーが必要となるハーバーボッシュ法という方法が現在の主流で、この製造法では非常にエネルギーがかかり、CO2を大量に排出する。

 

 しかし、今回の法改正で位置付けられる「非化石エネルギー」には、その製造法の違いによる区別は問うておらず、色の違いも区分けされていない。化石燃料由来で生産される水素やアンモニアも「非化石エネルギー」扱いとされる。経済産業省の関係審議会では、将来的には“グリーン(水素・アンモニア)”を目指すが、現時点では“グレー(水素・アンモニア)”も含むこととされている。

 

オーストラリアで褐炭から製造した水素を日本に運ぶ途中で火災事故を起こした「すいそ ふろんてぃあ」号
オーストラリアで褐炭から製造した水素を日本に運ぶ途中で火災事故を起こした「すいそ ふろんてぃあ」

 

化石から非化石への転換では結果的に石炭延命に

 

 法案がうたう「化石燃料から非化石エネルギーへと転換を推進する」ということは、一見すると脱炭素社会に向かっているような印象を与える。しかし、その「化石燃料から非化石への転換」には、石炭火力にアンモニアを混焼し、その混焼率を高めていくことが含まれているのだ。気候ネットワークの試算[i]では、経産省が2030年目標とするアンモニア混焼20%の石炭火力の実現では、CO2削減効果が4%程度と、ごくわずかでしかない。

 

 これまでも省エネ法では、石炭火力にバイオマスを混焼すれば見かけ上の発電効率を高める算定ができるようにされ、老朽火力を延命できる措置を講じてきた。今回の法改正で水素・アンモニアも同様に混焼が推進され、CO2削減効果がごくわずかでしかない石炭火力についても、その後も、長期にわたって維持され続ける方向になっている。この点が最大の懸念である。

 

 省エネ法の目的、あくまでもエネルギーの使用合理化である。しかし、今回の法改正で追加されたのは、非化石エネルギーへの転換であって、CO2の削減は含んでいない。法改正では、石炭混焼の火力発電所が生き残り続け、本来増やすべき再生可能エネルギーの使用は増えず、「1.5℃目標」に向かう気候変動対策からは程遠い議論となっている。

 

水素・アンモニアの民間リスクを低減のためにJOGMECの業務拡大

 

 水素・アンモニアの課題はそれだけではない。コストの問題がある。今年2月に発表されたTransition Zeroのレポート[ⅱ]によれば、グレーアンモニアのコストは、エネルギー当量ベースで燃料炭の約 4 倍であり、 グリーンアンモニアの場合は、さらにエネルギー当量ベースで石炭の 15 倍とされている。電力の自由競争時代には、再生可能エネルギーの方が圧倒的にコスト競争力があると言えるだろう。ある意味、その点をカバーするのが、JOGMEC法の改正案といえる。政府の法案概要では、おおよそ、次のように書かれている。

 

 「水素やアンモニアの利用等を発電や輸送・産業分野で拡大するためには、国内での製造を促進するとともに、液化天然ガス( LNG) と同様、製造・液化等・輸送・貯蔵等に至る国際バリューチェーンの構築が必要。民間企業による海外での操業リスク低減を図るため、 JOGMECが水素やアンモニア等の製造・液化等や貯蔵等への出資・債務保証を行う」

 

 つまり、本来は民間が負うべきリスクをJOGMECが肩代わりし、国家予算を投じることになる。私たち国民の負担も今後増大していくことも懸念される。

 

 少なくとも電力分野では、水素・アンモニアへの転換を推進するという賭けをする余裕はない。回り道をせず、再生可能エネルギーへの転換に振り向けるべきである。

 

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[i] 気候ネットワーク「水素・アンモニア発電の課題:化石燃料採掘を拡大させ、石炭・L N G 火力を温存させる選択肢」(2021年10月27日)https://www.kikonet.org/info/publication/hydrogen-ammonia

[ⅱ]Transition Zero「日本の石炭新発電技術」(2022年2月14日)https://www.transitionzero.org/reports/advanced-coal-in-japan-japanese

 

(注)本稿は「気候ネットワーク通信」<第144号>2022年5月号に掲載の記事を、一部修正したうえで、著者の了解を得て再掲しました。

 

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桃井貴子(ももい・たかこ) 気候ネットワーク東京事務所長。環境NGO職員、衆議院議員秘書等を経て、2008年より気候ネットワークスタッフ入り。2013年より現職。