三方よし? 日本のLNG転売が残す三つの代償(長田大輝)
2026-01-17 15:46:18
(写真は、JBICが開発支援したオーストラリアでのINPEXが開発しているLNG事業の一つ=JBICサイトから引用)
江戸時代から明治にかけて活躍した近江商人には、「三方よし」という経営哲学があった。「売り手と買い手という二者が満足するだけでなく、社会という第三者に貢献できてこそ良い商売である」という考え方だ。日本企業のCSR(企業の社会的責任)活動でも、この考え方が強調されてきた。一部の業界内では理にかなっている取引でも、社会的な問題を悪化させてしまっては元も子もない。気候変動問題や人権デューデリジェンスが話題となる昨今、「三方よし」の考えは風化するどころかむしろ重要性を増している。
しかし、売り手と買い手だけ満足して、最終消費者、環境、人権、そして気候変動にとって最悪な取引が今、日本政府の支援を得て大規模に実施されている。まさに「三方よし」の真逆を行く事業、それが近年増加する液化天然ガス(LNG)の転売である。
そもそも日本政府はこれまで、「エネルギー安全保障」のためと称し、政府が株を100%保有する公的金融機関である国際協力銀行(JBIC)を通じて、海外の化石燃料事業に対して多額の公的資金支援を実施してきた。それによって開発されたLNG施設が、この転売を可能にしているのだ。支援額は合計840億米㌦、日本円で約8兆9754億円に及ぶ(1999年から2024年の合計。2014年の平均為替レート、1㌦=106.85円を基準とした場合)[1]。現在もLNG事業を中心に、JBICの投融資は継続されている。
LNG転売の実態
日本の公的資金で海外LNG事業開発を支援する理由は、日本の経済活動に必要なエネルギーであるLNGを確保するためであると説明される。しかしこのほど、環境NGOのFoE Japanが、独立研究機関Datadeskに委託した新たな調査によって、JBICが資金提供してきた事業から出荷されるLNGの多くが日本に輸入されず海外に転売されていることが判明した。https://rief-jp.org/ct7/162154?ctid=72
例えば米国のキャメロンLNG事業はJBICが約2671億円(1㌦=106.85円:融資契約が締結された2014年の平均為替レート)を融資し建設されたが、同事業から日本企業が取り扱ったLNGの実に64.5%(2020ー2024年)は日本に輸出されず、第三国に転売されてきた。米国でのLNG事業だけではない。オーストラリアやインドネシアでJBICが支援した同事業においても、相当量のLNGが第三国に転売されてきたことがわかった。

LNG取引の総量を見るとどうか。2023年度には日本企業が取り扱ったLNG総量の37%が国内で消費されずに海外へ転売された[2]。この転売量は同年の日本のLNG最大輸入相手国であったオーストラリア(同年の日本の総LNG輸入量の41%)からの輸入量を上回るものであり、転売量がいかに大きいかがわかる(図1参照)。
さらにFoE Japanの調査によれば、2020~2024年における最大のLNG転売先は意外なことに中国であり、同5年間で約1,458万㌧が転売された。これは決して少量ではなく、2023年度の日本の国内ガス需要(6,489万トン)のおよそ22%に相当する[3]。
政府と産業界の主張
転売量が増えているのは偶然ではなく、日本政府の明確な方針に基づく。日本政府は、緊急時のLNG安定供給確保のためとして、転売、すなわち日本企業の「外・外取引」を含む「LNG取扱量1億㌧の目標を維持」と、第7次エネルギー基本計画に明記している[4]。国会答弁でも、経済産業省は「需要が変動する中でLNGを安定的に確保」し、「国際市場における日本企業の交渉力、それから影響力の維持向上、それから緊急時の国内需要への融通余力の獲得ということに寄与」し、「LNGの安定的な確保に資する」ために「外・外取引」を推進していると述べている[5]。
しかし、その転売の実態は、石油ガス企業が自社の利益のために転売しているという側面がある。例えば、英大手石油会社Shellでは、2023年10~12月期における利益の約3分の1がLNG転売によるものだったとされる[6]。日本の豪州LNG転売に関する調査でも、日本企業がオーストラリア産LNG転売によって10億オーストラリア㌦(日本円で約1030億円、1AUD=103JPYと仮定))の利益を得た可能性があると指摘している[7]。
オーストラリアではこれを受けて豪労働党議員が転売を阻止すべきと発言するなど、波紋を呼んでいる[8]。売り手である日本企業からすれば、このようなLNG転売は余剰LNGを処理し、利益を上げられるゆえ理にかなっているのだろう。しかし、日本の「三方よし」の考え方の基本でもある買い手と売り手以外の、三方目はどうなのか。より広い視点でLNG転売の是非を吟味する必要がある。
転売のためのガス需要創出
ここで言うより広い視点で見るべき「三方目」とは、ガス転売を可能にするための日本政府の関連政策であり、資金支援であり、それによって発生した計り知れない気候変動リスク、環境破壊、そして人権侵害の数々である。そもそもLNG転売は、LNGの生産インフラだけでなく、転売先でのガス需要、そして受け入れのためのインフラがなければ成り立たない。国策で、政策総動員でアジアにおけるLNG需要を創出してきたのは日本政府に他ならない。気候変動が毎年激甚化する中、天然ガスを含む化石燃料から脱却する機運が高まっているにも関わらず、である。
興味深い議事録がある。2020年に経済産業省で開催された、「2050年に向けたガス事業の在り方研究会(第3回)」の議論内容だ[9]。LNG転売を実現するために、海外でLNG需要を創出するという日本政府の戦略を包み隠さず語っているように読める。経済産業省職員の説明は以下の通りである。
「(前略)…このアジアの国々で2025年を見た際に、インフラ投資をした場合としない場合で、しなかった場合、需要が半分に落ち込んでしまう。したがって、 需要を高めていくことが非常に重要になってまいります。 私どもは今なぜアジアの話をさせていただいたかと申し上げますと、日本企業が国内に持ち込むだけではなくて、外外取引を拡大していく。これはすなわち、アジアのLNGの市場を拡大していくことが、我々日本のエネルギーセキュリティにとってもプラスだと考えていまして、…(中略)…デマンドエクスパンジョンは2030年、2040年に向けた大きな目標としてございます。」
日本が、緊急時に必要とするLNGを確保するために、通常必要なLNGの量より多くを輸入するキャパシティを持ちつつ、余れば転売したい。そのために、アジア各国でLNG需要を高めよう、彼らにもガスを使わせよう、ということである。まさに、日本のLNG政策にアジア全体を巻き添えにしているということになる。
このなんとも厚かましいビジョンを実現すべく黒子となって支えるのがJBICだ。2016年以降、JBICは世界15カ国で26カ所もの化石燃料ガス事業に資金供与を行ったが、その中には日本への輸出を想定したLNGターミナルのみならず、フィリピンでの輸入ターミナルやタイ、インドネシアでのガス火力発電所など、日本国内へのLNG供給に直接寄与しない事業も含まれる[10]。まさにアジアにおけるLNG需要創出を目的とする事業群だ。
もちろん、自国の都合で海外で化石燃料事業を乱立させる、などといった現実は美辞麗句で覆い隠す。その筆頭がAZEC、すなわち「アジア・ゼロエミッション共同体」である。「カーボンニュートラル/ネット・ゼロ排出に向けた多様かつ現実的な道筋」を謳う同イニシアチブでは、アジア各国と数多くの覚書がこれまで締結されてきた。その中には、タイのガス企業であるPTTと九州電力・INPEXの間でのLNG取引に関する覚書も含まれている。LNG転売が、ここでも隠れテーマとなっているのである[11]。
LNG転売の大きすぎる代償
日本のLNG転売に関する議論では、転売を可能にしてきた化石燃料ファイナンスを見逃してはならない。まさにそこが、社会全体にとって少なくとも3つの害を生み出しているからだ。化石燃料である天然ガスからの莫大な温室効果ガス(GHG)排出とそれによって悪化する気候変動、LNG事業開発に伴う深刻な環境・社会影響、そして日本の消費者が直面する電気代高騰である。
1)莫大な温室効果ガス排出と気候変動影響
ガス火力発電所やLNGターミナルなど海外化石燃料ガス事業へのJBICの投融資は、これらの事業からのCO2、メタンなどGHGの莫大な排出に繋がっている。2025年に発表された研究によれば、この資金支援によるJBICの排出量は、2024年には約4億800万㌧(CO2換算)に達した。JBICを「国」と見立てた場合、GHG排出量において世界第20位に相当し、フランス、イギリス、イタリア等の国々の年間排出量を上回る[12]。
なぜここまで排出量が大きくなるのか。理由の一つが、天然ガスの主成分であるメタンである。メタンの地球温暖化への寄与を示す地球温暖化係数は、20年スパンで見るとCO2の82.5倍の温室効果があるとされる[13]。「LNGは石炭と比べてクリーン」と喧伝されるが、メタン排出も考慮すると、生産地にもよるが、LNGのGHG排出量の合計は石炭より33%も多いと科学研究で指摘されている[14]。
この莫大なGHG排出によって影響を受けるのは、私たち一般人の生活だ。気候変動が一段と深刻化する中、猛暑、激甚化する大雨、そして農作物の不作や漁獲量減少による食料品価格高騰は、市民の生活に既に影響を与え始めている。例えば10年ほどで水揚量が約9割減少し急激に値上がりしたサンマは、その原因として主要漁場における海水温の上昇が度々指摘されている[15]。
気候変動がさらに深刻化する中、火に油を注ぐのがJBICだ。そもそも既存の事業から大量のGHGが排出される中、追加で新規事業を支援すればパリ協定で定められた1.5℃目標達成は不可能になる。IPCCは、現在稼働中・そして計画中の化石燃料インフラからだけでも、1.5℃を超える温度上昇につながる量のCO2が排出されると試算[16]。G7でも、2022年末までに海外化石燃料事業への資金支援は終了すると宣言している。しかし日本政府はJBICのファイナンスを使って、いまだに新規LNG事業へ資金支援を続けており、2024年以降もオーストラリア、メキシコ、ベトナム等での事業に対する融資決定をしている。

2)深刻な環境・社会影響
JBICが資金支援するガス事業によって、国内外の各地で人権侵害、健康被害、生物多様性・環境破壊、先住民族の権利侵害、そして現地住民の生計手段の破壊等、様々な悪影響が顕在化している[17]。
関税交渉の結果、JBICによる投資増額が見込まれるアメリカでは、JBICが融資するキャメロンLNG等の事業地近辺で既に深刻な健康被害が発生している[18]。LNG事業は、喘鳴や喘息をもたらす二酸化硫黄、すす、さらには、がんを発症させるベンゼンも排出する。2024年の研究によれば、LNG施設付近の地区は、喘息患者数が州の中央値を上回る[19]。さらに、LNG輸出ターミナルからの大気汚染は、年間60人もの早死を引き起こし、医療費が年間9億5700万㌦に上ると推定されている[20]。
転売されたLNGを受け入れるアジア各国でも影響は深刻だ。タイのマプタプットでは、JBICが融資するガス火力発電所にガスを供給するターミナル建設に伴って、現地住民にとって重要な魚であるタチウオの漁獲量が減少した。漁民たちはかつて1回の漁で何㌧も引き揚げたが、今では数kgしか捕れないという[21]。フィリピンでも、JBICが関与したLNG輸入ターミナル建設によって、「海のアマゾン」と呼ばれるほど豊富な海洋生物多様性を誇るヴェルデ島海峡で、水質の悪化と生物多様性の減少が確認されている[22]。

3) 電気代高騰
日本人にとって、LNGの転売推進・継続依存による悪影響の最も身近な例は電気代高騰だろう。日本の電力構成の約7割は化石燃料(主に石炭、ガス)であり、これら資源の輸入価格が高くなれば、電気代高騰という形で家計への打撃となる。実際、昨今の電気代高騰はLNG価格高騰と、軌を一にする[23]。
再生可能エネルギーの発電コストは、既にガスなど火力発電よりも安い[24]。再エネ導入を加速し、2035年まで平均で年間10GW増加させれば、平均卸電力費用を2020年水準から実に6%削減できるという試算もある[25]。国民の生活のためにも、LNG依存度を低減させ、LNG転売も海外LNG事業支援も必要ない構造へ転換することが理にかなう本来の「三方目」になるのではないか。
おわりに
現在、増加するLNG転売と化石燃料依存は、一部の電力・ガス企業、商社、重工業等を利するだけで、気候変動影響、事業開発に伴う環境社会影響、電気代高騰に苦しむ市民にとっては大きな弊害である。できるだけ早く化石燃料から脱却し、再生可能エネルギー中心の社会に移行する「脱炭素化社会」にふさわしい新たな「三方よし」の確立に向け、JBICは直ちに海外化石燃料投融資を終了し、日本政府はLNG転売と需要創出を前提とする「歪んだエネルギー政策」を改めるべきだ。
<注>
[1] ダニエル・ホレン・グリーンフォード博士、FoE Japan、OCI (2025)「日本の公的投融資がもたらす気候変動影響:JBICの化石燃料支援に伴う温室効果ガス排出量と1.5度目標の整合性」
[2] IEEFA (2024) 「国内のLNG需要激減を背景に、日本のLNG海外転売量が2023年度に過去最高を記録」
[3] FoE Japan (2025) 「転売されるLNG:新規海外LNG事業への公的支援は必要か」
[4] 経済産業省、資源エネルギー庁(2025)「第7次エネルギー基本計画」
[5] 参議院議員いわぶち友(2025)「国会質問 経済産業委員会 国際合意と異なるごまかし」
[6] EnergyNow Media (2024) Shell’s LNG Trading Makes $2.4 billion in Final 2023 Quarter, Sources Say
[7] IEEFA (2025) How Japan cashes in on resales of Australian LNG at the expense of Australian gas users.
[8] ABC News (2025) Labor backbencher calls for action to stop countries onselling Australian gas.
[9] 経済産業省 (2020)「2050年に向けたガス事業の在り方研究会(第3回) 議事録」
[10] FoE Japan(2024)「影響に直面する人びと:JBICのガス投融資がもたらす地域社会と環境への損害」
[11] 経済産業省、資源エネルギー庁(2023)「MOU案件リスト⼀覧 (AZEC官⺠投資フォーラム)」
[12] FoE Japan (2025) 「日本の見えざる排出責任:化石燃料への公的支援に伴う温室効果ガス排出量」
[13] IPCC (2021) Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change. (2391 pp. Table 7.15). Cambridge University Press.
[14] Howarth RW (2024) The greenhouse gas footprint of liquefied natural gas (LNG) exported from the United States. Energy Sci Eng. 12: 4843-4859.
[15] 全国さんま棒受網漁業協同組合、「さんまの水揚量(年)」(最終閲覧日2025年12月24日)
[16] IPCC (2022) Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change. Contribution of Working Group III to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change (Summary for Policymakers, Section B.7). Cambridge University Press.
[17] FoE Japan(2024)「影響に直面する人びと:JBICのガス投融資がもたらす地域社会と環境への損害」
[18] FoE Japan(2025)「日本のLNG巨額投融資:日本のLNG投資がもたらすアメリカ地域社会への影響」
[19] Saha, Robin K.; Bullard, Robert D.; and Powers, Liza T. (2024) “Liquefying the Gulf Coast: A Cumulative Impact Assessment of LNG Buildout in Louisiana and Texas”. Environmental Studies Faculty Publications. 12.
[20] Sierra Club and Greenpeace USA (2024) Permit to Kill: Potential Health and Economic Impacts from U.S. LNG Export Terminal Permitted Emissions.
[21] FoE Japan(2024)「影響に直面する人びと:JBICのガス投融資がもたらす地域社会と環境への損害」
[22] Wagas, Ethel., and Brent Ivan Andres (2022) Marine Ecology Assessment Along the Coast of a Fossil Gas-fired Power Plant and LNG Terminal within the Verde Island Passage, Northern Philippines. Center for Energy, Ecology, and Development and Caritas Philippines. 及び Wagas, Ethel., and Brent Ivan Andres (2022) The Trend of Water Quality in the Heavy Industrial Area of Batangas Bay East, Verde Island Passage, Philippines and its Surrounding Areas. Center for Energy, Ecology, and Development and Caritas Philippines.
[23] 自然エネルギー財団(2025)「電気料金の上昇は再エネ賦課金のせい?」
[24] Shiraishi, Kenji, Won Young Park, Nikit Abhyankar, Umed Paliwal, Nina Khanna, Toru Morotomi, Jiang Lin, Amol A Phadke (2023) The 2035 Japan Report: Plummeting Costs of Solar, Wind, and Batteries Can Accelerate Japan’s Clean and Independent Electricity Future. Berkeley Lab.
[25] 同上
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長田 大輝(おさだ ひろき)
Friends of the Earth Japan 開発金融・環境キャンペーナー。日本の公的金融機関による化石燃料投資、特にLNG(液化天然ガス)事業に関する調査・提言活動を行う。国内外のNGOや地域住民と連携し、環境・社会影響への対応を求める活動を展開

































Research Institute for Environmental Finance